View & Vision No42
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23特 集大学のマーケティング力で市場をつくる ―産学連携による商品開発―42スで進められているのか? 地域が地域を支え、住み慣れた地域でずっと暮らし続けようと思える“まちづくり”の将来ビジョンを示したものが、それぞれの自治体が独自に策定する「地域福祉計画」であり「介護保険事業計画」であろう。昨年の4月からは「生活困窮者自立支援法」が施行され、今年の4月からは「障害者差別解消法」がスタートしている。 首都圏大震災に対する各自治体の対策は、自治体の枠を超えて、隣接地域のそれこそ“包括的”な支援ネットワークの構築が急務の課題である。 そうした課題解決に対し、地域(自治体)は生活者(住民)の生活実態調査(マーケティング)が必要だ。 さて、ここで少し踏み込んで考えていただきたいのだが、国勢調査等から導き出されたデータから高齢化率や独居世帯数などが示され、そうしたデータをもとに各自治体が高齢者福祉・介護保険事業計画を策定しているのだが、果たしてそこに住民の“生活実態”が反映されているのだろうか?独居世帯数は“数字”で見えるが、それぞれの独居世帯で生活している方々の生活実態はどのように把握されているのだろうか。「アンケート調査を行って・・・」という回答が返ってきそうだが、アンケート調査は確かに必要だし、そこから導き出された“課題”は大きな重みを持つことは間違いないことだ。しかしながら、ここでさらに考えていただきたい。アンケートに答えたり、相談に来られたりすることができる方々の“課題”は見えるが、それができない方々の情報はどのようにして把握しているのだろうか?各自治体の担当者を批判しているのではない。自治体も国からの地方交付税交付金が年々減らされ、自治体運営のスリム化が必須の課題となっている。そうした中で最小限に減らされた自治体職員が、地域の(特に独居で要介護、または障害を持っている、または認知症)生活実態を把握する作業を行うのは事実上不可能に近いように思われる。 しかしながら、繰り返し述べるが、高齢化率という数字だけでは数年後、10年後に備えるべき、今やるべき対策(事業計画)の課題抽出はできない訳ではないが、実態との乖離が懸念される。熊本県を襲った地震災害で、避難所が一般の「避難所」と「福祉避難所」に区分けされていながら、すべての避難所に一般市民の方が流れ込んでしまい、本来優先的にケアされるべき要支援者が収容されなかった事実が、事の深層を物語っているように思う。 あらためて、申し上げる。地域包括ケアシステム構築には“マーケティング”が必要だ。ここで私が申し上げるマーケティングは一般的に言われている「マーケティング」とは少し立ち位置の違う、一言で表現すると「地元密着大学発信型ネットワークマーケティング」だ。次章でその中身について述べさせていただく。 平成27年度から、介護保険サービスのうち、介護の必要性が低いとされる「要支援」向けの介護予防サービスの一部が、各自治体が独自の予算(地域支援事業費)で運用する「総合事業」へ移ることになった。 そもそもこの制度改革は、医療・介護一体改革に向けた「医療から介護へ」「施設から在宅へ」の方向を踏まえたものだ。社会保障の基本的な考え方として「自助・互助・共助・公助」を基本として今後も「地域包括ケアシステム」推進に向けた自治体独自の改革が進められて行くことになる。だからこそ従来の福祉マーケティングにあらたなネットワークを加味した地域支援事業に繋がる“マーケティング”が必要だし、そのネットワークの発信源として大学が果たせる役割は大きいと考える。 具体的な事例を通して大学の役割を述べてみよう。本学では以前から地元の商店街の中に事務所を構えながら「買い物支援」のボランティア活動を学生諸君が行っている。この活動はまさに“地域支援事業”の枠組みの活動であり、総合事業として自治体が新たに取り組む事業だ。だとすると今後こうした事業を継続的かつ包括的に進めて行くには以下のプロセスが必要になると考える。①日常生活圏域(地域包括支援センターの守備範囲)における買い物支援を必要とする世帯の把握。②なぜ支援が必要なのか、生活上の課題を抽出。③そうした情報を管轄する地域包括支援センターと共有。④必要なサービスの中身と頻度を利用者とのヒヤリングを経て決める。⑤実際に支援を行うガイドライン(人員管理、情報管理、リスク管理)を自治体と支援団体が協議して決める。⑥認知症の利用者に対する支援ガイドラインの策定(オーダーの確認方法、金銭管理)。 たかが「買い物支援」されどその支援が継続的に実践されるには“地域の人的ネットワーク”が絶対的に新たな地域支援事業(総合事業)と大学の役割8

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