View & Vision No42
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2842【ことばの意味】 先ほど参照した『ITロードマップ』の2013年度版では、重要技術のひとつとして「ビッグデータ」が掲載されており、以下の文章で始まっています。 2012年度のIT業界における最大のバズワードが、「ビッグデータ」であることに異論を挟む人は少ないだろう。(中略)一般的に「ビッグデータ」とは、「既存の技術では管理するのが困難な大量なデータ群」と定義されることが多い。 そもそもが「大きな」データという漠然とした【ことば】ですから、定義するのが難しいことは察せられます。さらに続く説明として「サイズが大きいだけでなく、多様性や更新頻度といったデータ管理を困難にする要因を持つようなデータを指す」と述べられています。これを踏まえれば「大きな」ではなく「複雑な」とか「乱雑な」といった表現の方が適切なのかもしれません。【そのことばで呼ばれるもの】 ビジネスの場において「データ分析」は、もちろん昔から行われていたもので、様々な統計的手法が活用されています。私の授業では次の話を用いて説明しています。 1990年代前半、米国のスーパーマーケットチェーンで販売データを分析した結果、顧客はおむつとビールを一緒に買う傾向があることがわかった。調査の結果、子供のいる家庭で母親はかさばる紙おむつを買うように父親に頼み、店に来た父親はついでに缶ビールを購入していたことがわかった。この2つを並べて陳列したところ、売上が上昇した。 この話は、データマイニングと呼ばれる統計的手法の有用性を説明する際に(半ば都市伝説的に)よく使われているものです。これは「データが複雑すぎて、人間が直感的に見いだせない貴重な情報を、統計的手法とコンピュータを活用して発掘(マイニング)する」ということを示しており、現在「ビッグデータ分析」と銘打って行われていることと、基本的には変わっていません。【ことばの由来】 何をもって「大きな」というかはさておくとして、インターネットを活用したビジネスが一般的になった2000年前後から、莫大なデータを分析し、何かに活用するということは、研究的にも商業的にも行われてきました。それはウェブに書き込まれる雑多なテキストデータであったり、オンラインショップの膨大な購入履歴データであったりと、従来は集めることも管理することも困難であった情報が、技術の発展によって可能となったことが理由です。 ということで「ビッグデータ」自体は、その頃から存在していたわけですが、【ことば】として世界的に広まったのは、2011年頃からと言われています。【なぜ広まったのか?】 正直、はっきりとしたところは(少なくとも私には)わかりません……が、技術的な面と商業的な面でそれぞれ言われている話があります。 技術的な面は、2011年頃を境に、Hadoopという誰でも自由に利用できるデータ管理システムの環境が整ってきたという点です。これを活用することで各企業は、従来と比べて容易に「ビッグデータ」の管理ができるようになりました。さらに、この頃にはクラウドサービスがだいぶ浸透しており、このシステムをクラウドとして借りることで、中小企業であってもビッグデータを活用できるようになった、という話です。 一方、クラウドサービスが浸透していたということは、それまでクラウドで商売をしていた多くのIT企業が、クラウドに代わる新たな「商売のネタ」を探していた時期ということでもあります。うたい文句としては「クラウドにため込んだビッグデータを活用して、新たなビジネスチャンスを!」 ――と、いうのが商業的な話です。 そして2016年現在、あくまで私見ですが、「ビッグデータ」ブームはやや下火になっている感じです。というより、「ビッグデータ」という【ことば】ではなく、「統計的手法を用いたデータ分析」といった言葉を用いることが増えている気がします。特に、現場でデータ分析を行っている技術者の中には、意図的にそう主

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