View & Vision No42
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2942張している人もいて――きっと、彼らからすれば【ことば】もブームも関係なく、いち技術者として彼らの仕事を続けてきただけなのでしょう。 先日行われた参院選の前、ネットニュースで「参院選特番で人工知能(AI)活用。ビッグデータ分析で若者の動向調査」という見出しを見かけました。先にあげた2013年の産経新聞の見出しと比べると、「人工知能」という【ことば】が追加されています。記事には「若者の利用が多いツイッターの投稿などを、人工知能を使ってリアルタイムに分析。結果を選挙特番に反映させる」といったことが述べられていましたが……内容的には3年前の産経新聞で紹介されていた「ビッグデータ分析」の内容と、さほど変わりありませんでした。 また、今年3月、文科省が、センター試験の後継として実施予定の「大学入学希望者学力評価テスト」に導入される記述式試験について、答案のクラスタリング(類似した解答ごとにグループ化)などの採点支援業務に「人工知能を活用」する、と報告案に示したことが注目を集めました。注目された結果なのか、最終版では「コンピュータを効果的に活用」と変更されました(注釈に人工知能という言葉は残っていますが)。 などと、やや皮肉っぽく語ってみましたが、2016年現在、「データ分析手法」や「コンピュータ(プログラム)」といった言葉が、むやみやたらに「人工知能」という【ことば】に置き換えられているのを見て、雲のようにもやもやとするこの頃です。 とはいえ、古くから使われている「人工知能」という言葉をバズワードと言ってしまうのは語弊があるので、まず由来と意味をあわせて説明し、どうしてこのようなことが起きているのかを考えてみましょう。【ことばの由来・ことばの意味】 人工知能(Articial Intelligence)という言葉は1955年、計算機科学者であり認知科学者でもあるジョン・マッカーシーにより命名されたと言われています。その後、フィクション作品を中心に一般的に使われるようになっているのはご存知の通りです。 しかし、フィクションではない現実世界においては、研究が進められる中、「コンピュータを使って人間と同様の知能を実現させる」という試みは、その困難性からなりをひそめ、その研究の過程で得た知見を活かして作られた「さも知能があるかのように振る舞うコンピュータプログラム」も人工知能と呼んでしまおう、という考え方が生まれました。このようなモノは「弱いAI」と呼ばれ、この【ことば】が今日の人工知能ブームをややこしいものにしているのです。【そのことばで呼ばれるもの・事例】 人工知能という【ことば】を聞いて、私がまっさきに思い浮かべるのが、1990年にエニックス(現スクウェア・エニックス)より発売されたファミコン用ゲーム『ドラゴンクエスト4 導かれし者たち』です……ので、これを題材に説明します。 このゲームは、仲間のキャラクターと協力して敵を倒していくゲームですが、前作までと違い、仲間の行動をプレイヤーが選択できず、「人工知能」によって仲間の行動が決定される、という触れ込みでした。 最初のうちは、仲間は適切な行動をとってくれず、「魔法が効かない敵にひたすら魔法を打ち続ける」などの、プレイヤーからすればイライラする行動をとったりするのですが、同じ敵と戦い続けているうちに、やがて仲間たちは適切な行動をとるようになります――と、これだけ読むと、仲間が「学習して賢くなっている」ように思えなくもないのですが、実のところ、これは「戦闘回数が増えるほど、仲間の行動をより適切なパターンに変更する」という仕組みにより実現されていました。つまり、このゲームにおける人工知能とは「もし戦闘回数が〇〇回以上ならば、△△という行動をせよ」という命令が並べられたコンピュータプログラムなのですが、「仲間が知能を持っている!」と、(特に子供目線からすれば)思えなくもないわけです。 また、最近の話題に照らし合わせるなら、莫大なデータをもとに「おむつとビールが一緒に売れている」と分析してくれるのは「データ分析を行うプログラム」ですが、【これらを並べて陳列すると、売上アップですよ!】とアドバイスをしてくれれば、「このコンピュータは知能を持っている!」と思えなくもない4.人工知能

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