View & Vision No42
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3042わけです。もちろん、このアドバイスは人間がプログラムしたものであって、コンピュータ自身が考えたわけではありません。 ということで、このような「弱いAI」を全部ひっくるめて、「人工知能」という何だか凄そうな【ことば】で呼んでいるのが現状です。アンブレラタームと言えなくもないでしょうが、恐らく多くの人が、本来の(凄い)人工知能と結びつけてイメージしてしまうでしょうし、どうにもすっきりしません。 ただやはりというか、技術者たちは意識しているようで、実際、人工知能の代名詞のように扱われ、様々なビジネス活用がなされているIBMのWatsonという情報システムについて、IBM自身は「人工知能」と決して呼ばず、「自然言語を理解・学習して、人間の意思決定を支援するシステム」であると主張しています。【なぜ広まったのか?】 2016年現在、人工知能ブームが再び訪れた、などと叫ばれていますが、きっかけとなったのは、2012年にGoogleの研究チームが発表した研究報告だと言われています。ニュースなどでは「人工知能にYouTubeの莫大な数の動画を見せ続けたら、人間に教えられることなく、猫を認識するようになった」といった見出しがつけられています。 その見出しの是非はさておくとして、実際に報告されたものは「高度に抽象化された画像認識プログラム」とでも呼ぶべきものであり「弱いAI」の一種です。しかし、この研究で利用されていた数学的モデルが「ニューラルネットワーク」という、人工知能研究では古くから利用されている「脳神経を模した」モデルだったせいか、これを機に「人工知能」という【ことば】が再び注目を集め始めました。日本では将棋のプロ棋士が人工知能と対戦したという話題も影響したかと思います。 そしてこの流れに乗ったのが、ビッグデータビジネスが飽和しはじめ、商売のネタに困っていたIT系企業の営業マンで……と、以下は省略します。 少しネガティブな感じで扱ってしまいましたが、私自身、このブームを歓迎していないわけではありません。人工知能学会誌の報告によれば「人工知能学会の会員数は増加を続けている」そうですし、ビッグデータの注目によって、統計的なデータ分析の重要性が再認識されたことも含め、情報工学に関する話題がビジネスの場にあらわれ、それを学ぼうとする若者が増えるのは、喜ばしいことだと感じています。 タイトルで示唆した通り、本稿のテーマである「バズワード」は、商学と情報工学、広げれば市場と技術、言い換えればビジネスとアカデミックな場をつなげるものだと、そんな解釈もできます。流れの早いIT業界において、もちろん消えていった【ことば】もたくさんありますが、今回取り上げた三つが根付こうとしているのは、そもそも、その技術がしっかりしていたからに他なりません。 それを踏まえると、しっかりとした技術を見出すための知識と、それをキャッチーな【ことば】で表現できるスキルを持ちあわせる学生を育てることも、本学の役割のひとつではないか――と、そんな感じでまとめたいと思います。 そして余談的に。今回とりあげた三つは、どれも「元となる技術は古くから存在し、時が過ぎて情報技術が発展したことにより、再び日の目を見た」という共通点があります。このようなことを「コンピュータの性能が人間のやりたいことに追いついた」と表現することがありますが、あえて「コンピュータの性能向上に比べると、人類全体が作り出す知の発展が遅い」と解釈すると、いち研究者として精進しないとな、と、そう思えます。5.まとめ

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