View & Vision No42
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43トピックス42く、新技術の事業化の可能性や安定的なキャッシュフローを生み出す前の投資に関するリスク・リターン分析等、幅広い観点からの目利き能力が求められる。金融機関の目利き能力の向上が求められる。また金融機関が単独でそれらについてのリスク判断をすることは難しく、外部専門家との連携が必要となるが、最適な知識・ノウハウを有する者にいかにしてたどり着けるかが投資、融資判断上の課題となる(金融庁官民ラウンドテーブル「中小企業金融の向上」作業部会[2013])。 成長産業の育成や不振事業の再生、事業性評価に基づく融資には金融機関の目利き能力が重要となる。だが金融機関では目利き力のある職員が育っていないのである。家森信善氏が2013年1月に実施した地域金融機関の支店長に対する調査では、過半数の支店長が自らの若い時と比べて、現在の法人営業担当者の目利き能力が落ちていると判断していたのである。この一因は金融機関の職員が顧客と接触する経験が十分に積めなくなったことである(伊東眞幸・家森信善[2016]136、152~154ページ)。金融庁の2015年の、地域金融機関の利用者等に対するアンケート調査では、目利き能力を発揮し、顧客企業の事業性を評価する能力について、やや不十分と回答したものが15.3%、不十分と回答したものが10.9%あった(金融庁[2015])。金融機関は、企業の事業内容や経営状況等をより深く把握し、経営改善や生産性向上を支援できるよう、職員1人1人の目利き能力の向上に努める必要がある(全国銀行協会[2016])。目利き能力を向上させるための研修や環境の整備の必要性も提言されている(伊東眞幸・家森信善[2016]200ページ)。目利き能力の向上が課題となっている。だがその向上は容易ではない。 積極的な企業ニーズの発掘も課題として残っている。企業からの相談を待っているだけでは、眠っている企業ニーズを掴むことはできない。金融機関は、行政や大学等とも連携しながら、積極的に企業ニーズを発掘するとともに、必要な金融支援を行うことが地方創生に貢献する上で必要である(全国銀行協会[2016])。 金融庁の日下智晴氏は、地域金融機関は貸出先法人の事業そのものへの関与を強め、法人経営者と共同で事業を安定・成長させていくべきであり、金融機関は地域経済を支える縁の下の力持ちから、地域産業と一体となった主役とされるようになったとされている(日下智晴[2016]8~9ページ)。だが、金融機関の職員が財務上の知識を有しているとしても、生産や流通関係の事業の経営能力を十分に有しているといえるであろうか。これには疑問が残る。また、金融機関が事業経営に深入りすれば、事業経営が困難になったとき、借入要求を断ったり融資を引き上げたりすることが困難となり、金融機関の健全性が確保できなくなる恐れも生ずるであろう。 このように、地域金融機関の地方創生支援活動には様々の問題点、課題が存在しているのである。2 コントリビューション・バンキングについて バブル経済崩壊後は不良債権問題が深刻化し、金融機関の健全性の維持が重要な課題となったが、2003年頃になると中小企業の収益低迷は継続し、貸せる企業が見当たらない状況となってしまった。この時期に、貸せる企業を見出すためにリレーションシップバンキングが本格化した。金融機関には目利き能力を高めることが求められるようになったが、このために金融機関と取引先企業との継続的な取引関係が重視されるようになった。このリレーションシップバンキング(関係依存型金融)は2005年に地域密着型金融と呼ばれるようになった。このリレーションシップバンキング(地域密着型金融)は借り手の資金需要に対応するものであった。 このリレーションシップバンキング(地域密着型金融)は単に融資を行うだけでなく、相談を受けて助言を行うコンサルタント機能が重視されるものに変わっていった。 2013年頃から金融機関が取引先からの相談がなくても企業の課題を見抜いて積極的に提案を行う「育てる金融」が期待されるようになった。2014年から地方創生が提唱されるようになった。リレーションシップバンキング(地域密着型金融)は、金融機関は地域全体を支えることが期待されるものとなった。伊東眞幸氏によれば、地元経済・地元企業に受け身として協力するものから積極的にこれに貢献することが期待されるようになった。同氏はこのような意味でのリレーションシップバンキング(地域密着型金融)を「コントリビューション・バンキング」と呼んでいる。このモデルは「自ら戦略的・積極的に企画立案・行動する

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