View & Vision No42
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5642「ヨコにつながる・ヨコにひろがる連携が《商品》を生む」 テーマは「産学連携」。企業と大学のコラボレーションは、時代の潮流である。競合関係にない、この“平らに《ヨコ》につながる”関係は、マイケル・ポーター氏が唱えたCSV(Creating Shared Value)の経営理念を想起させる。筆者は、このCSVを“共創互恵”と訳し、数々の書誌で紹介している。CSVは、事業構想、ならびに社会構想におけるプラットフォーム(基盤)となって、いまの「マーケティング3.0」の時代を支えている。キリンホールディングスがマーケティング本部をCSV本部と改称し、新たな飲料事業を構想している例を見ても明らかだ。いま多くの企業が、社会と、大学と、生活者と、学生と、平らにヨコにつながる“共創互恵”志向を強めている。 さて、この産学連携による「商品開発」に当たっては、成長分野の“ヘルスケア”(医療・福祉、健康・美容)と“環境”(環境保全、環境にやさしい、自然とともに恵む)、“地域”(地域創生、ローカライズ)をキーワードに展開している。これら3つに、商品開発&市場開発テーマを集約する傾向が強まっている。 最初に登壇した弓削 徹氏(株式会社エスト・コミュニケーションズ 代表取締役、製造業のマーケティングコンサルタント)は、「産学共創マーケティングの時代」と題し、「当たるか当たらないかの確率論では、商品開発はできない。消費者にとって切実か不要かといった切り口が重要である」と、商品開発のプラットフォームが消費者インサイトにあることを解説した。そして、「商品開発に求められるのは、デキ物、つまりデザイン、キーワード、物語(ストーリー展開)である」とし、いくつかの事例を紹介した(足の骨格に着目して商品開発したアスリート用シューズの機能性インソール、等)。 つぎに登壇した宗像 惠氏(近畿大学リエゾンセンター長、特任教授)は、「技術・商品イノベーションにつながる産学連携を目指して」と題した講演の中で、近畿大学の事例を紹介し、科研費獲得への意欲の強さと、インパクトファクター獲得への研究力の高さに触れた。「産学連携の成功は、企業から相談してもらうこと、企業に紹介すること、そのコーディネーターの働きにある。その機能が“近大リエゾンカフェ”の開設である」と、in-boundとout-boundのベクトルとその発信源の存在を明かした。そして、「近大マグロ(完全養殖マグロ)の商品開発は、太平洋クロマグロが絶滅危惧種に指定された環境課題に起因して、社会の期待に応える成果を上げたことで、“社会的成功”を収めた」と解説した。まさに、「マーケティング3.0」の時代の商品開発の事例と言えよう。さらに複数の事例紹介の中で、近畿大学が強い理由は、「各学部が個々に尖るだけでなく、各学部がつながる異分野融合がで事業レポート2016年7月2日経済研究所公開シンポジウム大学のマーケティング力で市場をつくる―産学連携による商品開発―千葉商科大学サービス創造学部非常勤・特命講師(担当:調査法、健康サービス論)、マッキャンヘルスコミュニケーションズ最高知識責任者株式会社ヘルスケア・ビジネスナレッジ代表取締役社長西根 英一NISHINE Eiichiプロフィールマーケティングデザイン開発&コミュニケーションデザイン設計の専門家。商品開発、サービス創造をはじめ、市場戦略、販路開拓、顧客獲得のための“精緻な設計図”を描き、広告プロモーション、戦略PRを最適化する。専門領域は、ヘルスケア(健康・美容、保健・予防、医療・福祉)のビジネス開発、マーケティング戦略、コミュニケーション設計。近著に、『生活者ニーズから発想する健康・美容ビジネス「マーケティングの基本」』(宣伝会議)。

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