View & Vision No42
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5842 わが国では、2014年2月に「『責任ある機関投資家』の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫」、2015年6月に「コーポレートガバナンス・コード〜会社の持続的な成長と中長期の企業価値の向上のために〜」が公表された。 コードは、企業と投資家との対話に基づく企業価値の向上を通じ、経済全体の成長を目指すものである。コード策定によって日本企業のコーポレート・ガバナンスは大きく改善したが、対話促進の観点からは、株主総会の運営、取締役会の実効性、政策保有株式の3点が課題として残されている。 株主総会については、投資家を含む株主に対する早期の議案情報の提供という観点から、招集通知の発送の早期化、法定発送以前のウェブ公表(コーポレートガバナンス・コード原則1−2)が進んだ。また、全国株懇連合会からは、実質株主である機関投資家が株主総会に出席するためのガイダンスが策定され、対話の場としての株主総会の重要性が高まった。 取締役会については、会社法改正とコード策定によって社外取締役の採用が急速に増加し、2016年には89.5%の会社で2名以上、0名はわずか8社にすぎない。形式面での変化が進むなか、今後は社外取締役の独立性、資質の確保など、その実効性を決定づける品質面での向上が求められる。 さらに対話の実効性を確保するための環境整備として、政策保有株式の問題が重要である。政策保有株式には、保有する側と保有される側の二面性がある。保有する側については、資本効率性の観点から問題を生じ、またコーポレートガバナンス・コード原則1−4においても開示が求められる。他方、保有される側については、結果として安定株主を形成し、経営者のモラルハザードを生じさせる可能性があり、コーポレート・ガバナンス上はより深い問題を生み出す。東証1部上場会社の株主構成においては機関投資家よりも安定株主の比率が高いため、対話の阻害要因としての安定株主問題に対する対応が必要である。事業レポート2016年7月13日第12回ユニバーシティ・レクチャースチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コード-企業と投資家との対話促進の観点からのコードの課題-日本投資環境研究所主任研究員博士(政策研究)上田 亮子UEDA Ryokoプロフィール2002年横浜市立大学大学院博士課程単位満了。みずほ証券入社後、日本投資環境研究所に出向・転籍、現在に至る。2005年4月より明治学院大学非常勤講師(現任)。2009年9月より、International Corporate Governance Network(本部ロンドン)の株主責任委員会委員(現任)。2013年11月より金融庁金融研究センター特別研究員。2015年度千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。同年7 月学位取得、博士(政策研究)。

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