View & Vision No42
7/62

5特 集大学のマーケティング力で市場をつくる ―産学連携による商品開発―42うなことしか判明しない、タダの石ころだ。 二つめは、ダイヤの原石。磨くこと(=分析)ができれば有用なヒントが得られるのだが、分析できる人間がいない。だから、光を放たない原石のまま。マーケティング調査会社と仕事をすると、よいインタビュアーにはたまにお目にかかるが、すぐれた分析者には出会ったことがない。 三つめは、体内で悪さをする胆石や結石だ。調査結果を信じて商品開発をすると痛い目に合う。例えばマクドナルドは積極的にマーケティング調査を実施する企業だ。対象者に「どんなメニューが欲しいか」と質問すると、いつも目立つのは「野菜を使ったヘルシーなメニュー」という回答。それを信じてマクドナルドがヘルシーなバーガーの新メニューを投入しても売れない。実際に人気となるのは、がっつり系のバーガーだ。つまり、赤と黄の看板をくぐる段階で、消費者はすでに(今日はヘルシーじゃなくていいや)と心に決めているというわけだ。 また、ある食器メーカーがグループインタビューを催し、主婦らに「どんな食器が欲しいですか?」と訊いた。すると、被験者たちは花柄の食器がいい、花びらの形の食器なんてどう?、あるいはハート型の食器も、と活発な意見を述べる。担当者が、「本日はありがとうございました、あちらに当社製品をご用意しましたのでお好きなものをどうぞ」と促したところ、全員が“白い丸皿”を選んだという笑えない話もある。 一方で有効な調査手法もある。視線を追いかけて記録するアイトラッキング調査や、ユーザーの行動に注目する行動観察などだ。つまり、何を言うかより、どう行動するかに真実は隠れている。先ほどの食器メーカーの例でいえば、質問に対するコメントよりも、好きな皿を持ち帰る瞬間にこそ着眼すればいいということになる。ここに、学生に協力してもらう価値が見えてくる。次の世代を形成する若年層である学生の素直な生活行動を客観的かつ大量に記録することで、大きなヒントが見つかるのではないかと考えられるのだ。 市場のニーズを捉えて商品開発をする。…なんと美しい表現かと思う。社内の誰もあらがうことのできないコトバではないか。しかし、大手企業は、とくに好調な企業は市場のニーズに耳を傾ける「ニーズ開発」なんて実はやっていない。できてしまったもの、得意なものに集中する「シーズ開発」がほとんどだ。 だからこそ、自社の得意技術を本物市場へと結びつけるマーケット感覚が求められる。…といっても漠然とした話になってしまうため、筆者は「切実」というキーワードをヒントとして提示している。 いまや時代は感性消費であるとか、感性マーケティングを学ばなければヒットはおぼつかないなどといわれ、関連セミナーや書籍もよく見受けられる。たしかに「感性」の市場はあると思う。ファッションやキャラクタービジネスに代表されるような産業だ。例えば人気ゆるキャラの[ふなっしー]が出てきたとき、いったいどれだけの人が「これは人気になる」と言い当てただろうか。一部で熱烈にウケている[こびとづかん]はどうだったろうか。 このように感性市場では何が当たるかわからず、とにかく数多く撃って当たった商品の収益で外れた商品のコストを回収するという、いわば確率のビジネスとなりがちだ。しかし、それは大企業のゲームであり、中小企業はもっと確度の高いビジネスをしていかなければ経営が安定しないし、体力も追いつかない。 そのためのキーワードが「切実」だ。「あったら便利でいいけれど、なくても困らない」というものではなく、「これがなくては困る、ぜひ売ってください」と言ってもらえる商品。これは生活必需品とは違う。トイレットペーパーもなくては困るけれど、付加価値よりも価格勝負の商品といえる。むしろ、大勢が欲しがるものではないが、一部の人には熱狂的に求められるニッチな商品を「切実」と呼ぶ。 実例を挙げよう。東大阪にあるハードロック工業がつくっている[ゆるまないネジ]。ほぼ、ゆるまないネジ、という中国製の模倣品もあるが、本当にゆるんでもらっては困る場所には、価格が高くてもハードロック工業が指名される。スカイツリーや瀬戸大橋、新幹線など、ネジの脱落が人命に関わる、あるいはメインテナンスコストが高くつくようなシーンでは、必「数撃てば当たる」は企業活動か?3切実な商品とはどんなものか?4

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 7

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です