View & Vision44
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144SR、企業の社会的責任と訳されるが、日本では、企業の業績が良く、余裕のある時に、メセナや寄付のような形で社会貢献することと捉えられがちだ。だが、本来は平常の企業活動そのものが社会的責任を配慮した健全なものとすることを意味する。従って、持続可能な発展が求められる今日、企業の社会的責任は環境への影響の配慮は特に重要であり、社会への影響と合わせて環境社会配慮と言われることが多い。 7日1日、土曜日の午後、本学の図書館で経済研究所が主催する公開シンポジウムが開かれた。本学のメインキャンパスは市川市北部の高台、国府台にあるが、当日は多くの方が参加された。テーマは「女性の活躍が地域社会を変える」。このシンポジウムの中身は本号で紹介されるので、そちらをご覧頂きたいが、多くの興味ある話題提供があった。 なかでも基調講演をお願いした野ところ老真理子さんのお話は、環境計画・政策を専門とする私には、特に興味深かった。私は、そのお話から「気づき」という言葉に強い関心を持った。企業活動が環境や社会に与える影響にどう気づくか。九十九里浜近くの町で、不動産業や地域環境整備を総合的に営む野老さんの会社では、毎朝1時間の掃除を行い、自らの環境に目を配っている。それが、日々の企業活動が与える様々な負の影響にも心を配ることにつながると私は理解した。 私は環境計画・政策を社会工学の立場から研究しているが、人々の意識と行動の関係に注目してきた。日本人は環境への意識は高いが、欧米の人に比べ行動が伴わないとよく言われる。意識が高いのに行動が伴わない理由があるはずだ。私は、意識の中身が違うのではないかと思う。日本人の環境配慮の意識は多分に観念的で具体性が低いのではないか。欧米では具体的な環境の状況がより人々に伝わっているのではないかと思う。 意識の中身、その具体性が高ければ自らの問題として考え、行動につながるのではないか。日本人も身近な問題であれば必要な行動は速やかに取る。しかし、身近でなければ、そうはならない。人々の環境配慮の意識は、具体的な環境への「気づき」に大きく関わっているのではないか。こう考えると、意識と行動のギャップを埋めることができそうだ。 実は、日本では周辺環境の情報を得る機会が極めて少ない。筆者は本誌の2013年秋号の巻頭言で「成長戦略と環境アセスメント」と題し、日本国内のアセス実施件数は極めて少ないことを書いた。現在、国と地方のアセスを合わせて実施件数は60~100件程度。米国の6万~8万件に比べると1000分の1程度しかない。 日米の大きな違いの理由は、米国では簡易アセスメントが幅広く行われているが、日本にはないことである。簡易アセスは、「まず、簡単なチェック」という考え方で行うもので、時間も費用もあまりかからない。簡易アセスは、わずか3~4か月程度で終えられ、費用も通常のアセスより1桁以上安い。ポイントは情報公開と参加で、事業者とステークホルダーとのコミュニケーションの促進が狙いである。だから、幅広く、事業規模が小さくても気楽に行える。 この簡易アセスが日本でも行われるようになればどうなるか。現在のわずかなアセス実施件数では、ほとんどの人が、自らの周辺でアセスに出会うことはない。ところが、1000倍ものアセス実施ともなれば、一生に何度かは遭遇する可能性が生まれる。簡易アセスにより、身近な環境の情報が与えられる。それによって環境への「気づき」が生まれることになろう。そうなれば、どうなるか。日本人の環境意識と行動とのギャップが縮まってゆくことが期待される。これは確度の高いことだと、筆者は考える。CSRと環境への気づき巻頭言Cプロフィール東京工業大学理工学部卒業、同・大学院博士課程修了(工学博士)、東京工業大学助教授・教授などを経て同大名誉教授。2012年に千葉商科大学政策情報学部教授に就任、2014年から政策情報学部長、2017年3月から現職。社会工学、環境計画・政策が専門で住民参加や合意形成研究が中心。国際影響評価学会(IAIA)会長、日本計画行政学会会長などを歴任。IAIAローズハーマン賞、日本計画行政学会論文賞、環境科学会学術賞、国際協力機構理事長賞など受賞。【主要著書】『都市・地域の持続可能性アセスメント』(共編著) 学芸出版社 2015年『環境アセスメントとは何か—対応から戦略へ』 岩波新書 2011年『環境計画・政策研究の展開』(編著) 岩波書店 2007年千葉商科大学学長原科 幸彦HARASHINA Sachihiko

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