View & Vision44
44/60

4244トピックス しかし、経営トップのホンネや戦略、計画と整合性のある経営理念が存在しなければ、企業成長に求められる経営トップのリーダーシップが十分に発揮されているとはいい難い。 Greenleaf[1977]は、何よりも基盤になるミッションの名の下に発揮される「サーバントリーダーシップ(servant leadership)」という概念を提示した。これは、「サーバント・リーダーとは、そもそもサーバントである。まず奉仕したい、奉仕することが第一だという自然な感情から始まる。それから、意識的な選択が働き、導きたいと思うようになるのだ」という考えが基礎になっている10。 つまり、この概念は、自分が達成すべきことや夢に対して強い使命感を持ち、それを実現するために自らの意志でサーバントに徹し、大きなビジョンを描いて、部下が本当に困っているときにはコーチングを行いながら、自分が信じる理念の実現のために邁進している人たちをしっかり支援しようとするリーダーシップの概念であり、ミッションの名の下に、リーダーがフォロワーや人々、社会に尽くすというものである11。 このように、ミッション、すなわち借り物ではない本物の経営理念12が明確であれば、経営トップは、経営理念の名の下に従業員や関係者をまとめ、一つの方向に向かって組織力を結集させるリーダーシップを発揮することができるといえる。 また、伊丹・加護野[2003]は、図2で示すように、リーダーシップのジレンマを解消するために必要となってくるのが、哲学や経営理念であると指摘する13。リーダーシップのジレンマとは、経営者などのリーダーは状況に応じて適切な行動をとる必要はあるが、関係者に計算づくや日和見的であるという印象を与え、判断への信頼感というリーダーシップの源泉にマイナスの効果を与えてしまうとともに、状況に応じて適切な行動をとるには、大変な計算の努力が必要で、リーダーを疲弊させてしまうという問題を指している14。 そこで、これらの問題を解消するためにも、哲学や経営理念、思想、原理原則が必要になってくるのである。優れた経営者は、状況に応じた臨機応変な対応力と確固とした基盤、信念を与える原理原則としての経営理念があるとし、この原理原則である経営理念と現実の矛盾を創造的に解消するような考え方を生み出しているというのである15。 さらに、リーダーシップが意味のある影響力である10 Greenleaf, R. K. [1977]. Servant Leadership: A Journey into the Nature of Legitimate Power and Greatness, New York: Paulist Press.p. ,p. 2711 金井[2007]55-56頁12 「本物の経営理念」とは、タテマエや借り物ではなく、経営者のホンネや戦略、計画と整合性のある経営理念を指す。また、「『うちの組織には経営理念がある』と言う場合、書かれた文言として経営理念が存在しているという意味ではなく、経営理念がそれを受け取る人々に解釈・再解釈されて、日々の活動に現れているという意味である。そのような相互作用が存在しないのであれば,経営理念は『絵に描いた餅』となってしまい、『実在はしていない』」として捉えている(三井泉[2010]「経営理念研究の方法に関する一試論—「継承」と「伝播」のダイナミック・プロセスの観点から—」『産業経営研究』第32号, 97頁)。13 伊丹敬之・加護野忠男[2003]『ゼミナール経営学入門第3版』日本経済新聞社, 388頁14 伊丹・加護野[2003]387-388頁15 伊丹・加護野[2003]388-389頁図 2 リーダーのジレンマと哲学出所:伊丹・加護野[2003]388頁に依拠し筆者作成II リーダーシップを支える経営理念の必要性

元のページ  ../index.html#44

このブックを見る