View & Vision44
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4444トピックス致させることが困難な状況、すなわち真の確固たる借り物ではない本物の経営理念を明確に表明することができない状況にあったと推察できる。そして、社員や関係者との信頼関係が確立されていない状況においては、経営理念は機能化されず、その効力が発揮されないと考えることができるのである。 今村氏の後任である吉野正芳復興相は2017年4月27日、福島と宮城両県を訪れ、内堀雅雄福島県知事、村井嘉浩宮城県知事と面会し、吉野氏は内堀知事に「復興を加速化しようとしても、信頼のないところでは仕事は進まない」と信頼関係を築き上げることを強調した。また、村井知事は「被災者に寄り添ったリーダーシップを発揮してほしい。信頼してついていきます」と激励した20。 このように、今村氏とは異なり、被災地である福島県出身の吉野氏には大きな期待と信頼が寄せられているようだが、組織における理念の効力が発揮されるには、組織トップと周囲関係者との信頼関係を築き上げることが前提条件の一つであるといえよう。 さらに、佐久間[2005]は、経営トップの仕事は、経営理念に基づいた判断や方向性を、繰り返し社員に伝えることであり、経営理念をないがしろにするところから企業の衰退は始まるとし、逆境に立ったときこそ、初心に帰るつもりで経営理念に立ち戻り、考えることが必要になってくると指摘した21。 このように、経営理念は形骸化し、忘れ去られてしまいがちな存在だが、ホンネの価値観としての経営理念をないがしろにせず、経営トップ自らが、それを繰り返し社員や関係者に伝えていくことも、経営理念が効力を発揮する前提条件であるといえる。 ここまで、中小企業におけるリーダーシップの重要性とそれを支える経営理念の必要性、経営理念が効力を発揮する前提条件としての信頼関係構築の重要性および経営理念を繰り返し伝えることの必要性について、前復興相の辞任騒動を振り返るとともに、WOWOW社の事例などから考察を試みた。 ここでは、この考察結果から、中小企業における経営トップがリーダーシップを発揮するための前提条件について整理するとともに、信頼関係構築の重要性について述べる。 まず、復興庁などの組織と比較すると、人員規模が小さい中小企業ほど、トップのリーダーシップの重要性は増し、リーダーシップの一要素であるその言動は、当該企業で働く従業員などに大きな影響を与えるといえる。 また、本物の経営理念は、従業員や関係者をまとめ、一つの方向に向かって組織力を結集させるというリーダーシップを発揮させる大きな原動力となり、リーダーシップのジレンマを解消させ、組織文化の形成・維持や変革に携わる組織トップのリーダーシップに不可欠な要素といえる。したがって、組織トップによるリーダーシップの影響度が高い中小企業にとっては、さらにその必要性も高まるといえる。 この経営理念が効力を発揮するには、ホンネの価値観としての経営理念をないがしろにせず、経営トップ自らが、それを繰り返し内外に伝え、関係者との信頼関係が確立されていることが前提条件として必要となってくる。 したがって、復興庁組織と比べ、組織トップによるリーダーシップの影響度が高く、経営理念の必要性も高い中小企業においては、経営トップが、ホンネの価値観としての経営理念を繰り返し内外に伝え、関係者との信頼関係を築き上げる振舞いの重要性も増すといえる。 前復興庁トップの問題は、当該組織の基本理念と乖離した言動から信頼が失墜し、当該組織におけるトップとしてのリーダーシップが十分に発揮できない状態となって、辞任まで追い込まれた点にある。つまり、復興庁の基本理念を深く理解し、それをタテマエではなくホンネの価値観としてないがしろにせず、前復興相自らがそれを繰り返し関係者に伝え、被災者や関係者との信頼関係が確立されていたならば、このようなIV 中小企業経営トップのリーダーシップと信頼関係構築の重要性20 時事ドットコムニュース 2017年4月27日「失言陳謝『信頼を回復』=福島、宮城知事と面会−吉野復興相」(2017年4月27日閲覧)21 佐久間[2005]19頁

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