View & Vision44
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5044 経済研究所の研究助成で実施する研究は、これまでの研究成果を踏まえて、それをさらに先に進めるものである。本研究では、現在の日本の消費社会を変化させる二つの消費スタイルに着目する。それらは、倫理的消費(Ethical Consumption)とボランタリー・シンプリシティ(Voluntary Simplicity)である。倫理的消費とは、消費を通じて社会的課題の解決を図る消費スタイルを意味する。一方、ボランタリー・シンプリシティとは、特定の製品やサービスの消費を避けたり、総消費量を減らすための努力をしたりする消費スタイルである。 このような二つの消費スタイルは、欧米での先行研究では重複する部分があると指摘されているものの、これら概念が日本の消費社会でどのように理解できるのかは検討の余地がある。すでに日本は世界の中でも成熟した消費社会にある。モノに溢れた生活を送っている日本の消費者が価格や品質だけでなく、社会的課題の解決を製品選択の一つの基準に組み込み、モノを少なくして生活を充実させるという新たな消費スタイルがいかに日本の消費者に理解されているのかを本研究では検討する。具体的には、2017年度には「倫理的消費」に関する研究を行い、2018年度には「ボランタリー・シンプリシティ」に関する研究を行う予定である。2.倫理的消費 上述した「MUJI×JICAプロジェクト」で生産された製品は、製品の生産を通じて貧困地域を活性化する点で社会的課題の解決に繋がり、認証は得ていないものの、生産者に公正な対価を支払う点ではフェアトレードとしても理解できる。言い換えれば、この製品は、フェルトを原材料にハンドメイドで生産され、フェアトレードで取引され、コーズ(社会的課題の解決)が付与されることでブランド化された、いわゆるコーズ製品(Cause-Related Products)である。すでに我々は、組織の視点から「MUJI×JICAプロジェクト」での製品がいかなるプロセスで開発されたのかを明らかにしている。では、これらの製品に対して、消費者はいかなる反応を示すのだろうか。このリサーチ・クエスチョンについて、調査を行うのが第一の研究目的である。良品計画によってコーズ・ブランディングされたハンドメイド製品を用いて、社会的課題の解決につながるコーズ製品を購入する消費者の意思決定要因を明らかにする。 大平はここ数年、日本の消費者を対象として、消費を通じた社会的課題の解決がいかに実践されているのかを研究してきた。そこでは、日本に消費を通じて社会的課題の解決を実践する消費者であるソーシャル・コンシューマー(Socially Responsible Consumers)が、まずどの程度存在し、どのような特徴があるのかを検討した(大平他、2013)。次にそのようなソーシャル・コンシューマーが製品やサービスの消費を通じて社会的課題の解決につながるソーシャル・プロダクト(Socially Responsible Products)をいかなる要因に基づいて購買意志決定するのかを検討した(Stanislwski et al.、2013:大平他、2015)。増田もここ最近、消費を通じた社会的課題の解決について関心を持ち始め、コーズ・リレーテッド・マーケティングに関する論文を執筆した(増田、2014)。 このような研究成果を踏まえて、我々は「MUJI×JICAプロジェクト」で生産されたマフラーに関する探索的調査を2回実施した。第1回目の調査は、我々が作成した質問項目に対して、大学生がいかなる反応をするのかを探るために実施された。具体的な質問項目は、先行研究に基づいて、コーズ(企業への態度、社会的課題への態度、有効性評価、入手可能性評価、主観的規範、セルフ・アイデンティティ、倫理的義務、懐疑主義、シニシズム、社会的課題解決への習慣)とハンドメイド(商品への態度、購買意図、愛情、情熱、幸福、誇り、満足感、信頼性)、ギフト(ギフト、公的自己意識、私的自己意識、ギフト習慣)に関連する項目から構成された。 調査は2016年12月に千葉商科大学の学生204名を対象として実施した。実際の調査では、製品の写真(図2)と生産方法に関する動画(ハンドメイドとマシンメイド)を使用し、さらにパワーポイントを用いて、コーズの内容(キルギス共和国の現状など)を説明した。特にハンドメイドの動画では、良品計画が作成したキルギスの生産者が実際に製品を製造する動画を用いた。 調査はこれらを使用して、4つのグループを設け、アンケート調査を実施した。第1グループには、製品の写真とハンドメイドの動画を見せ、コーズを説明し

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