View & Vision44
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5344 本年7月、我が国の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、ESG投資を開始した。これに先立って本レクチャーでは、2006年4月に発表れさた国連責任投資原則(PRI)に基づいて欧米で広く行われているESG投資は、「環境・社会課題の解決を遂行する企業への投資こそが長期的に収益をもたらす」というコンセプトとなっている点で、収益性のみ求める一般的な投資や、収益性よりも社会的責任を果たすことを主眼としたSRIとも異なる、時代に即応した新たな投資のあり方であるという視点から、ESG投資の背景と一連の動向を分析した。 ESG投資は、我が国資本市場改革での企業におけるコーポレートガバナンス・コードの推進、企業の経営戦略におけるCSV推進と、サステイナブルレポートを含んだ「統合報告」の推進、インターネットや再生可能エネルギーの急速な展開と、その背景をなす「共有」原理の浸透と「私有原理」の相対化、といった一連の社会的動向を反映している。そしてESG投資を含むこれら全体が、伝統的な資本主義に対して、社会関係資本(social capital)と自然資本(natural capital)を含む新しい「ソーシャルな資本主義」の台頭の一環であるということができる。また環境・社会課題解決に取り組んでいる企業への投資は、リスク調整後リターンの点で、一般的なインデックスよりも優れている、という実証的な結果が出て来ていることも指摘した。 またESG投資は、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)やクラウドファンディングなどと共に、ソーシャルファイナンスのコアをなす投資概念であり、市民や機関投資家がこうしたエシカルな投資を行うことは、咋2016年から始まった国連における持続可能な開発(SDGs)の推進の重要な一環であることを示した。事業レポート2017年1月18日第13回ユニバーシティ・レクチャーESG投資とソーシャルな資本主義-環境・社会課題解決のための投資その意義と動向-千葉商科大学人間社会学部教授伊藤 宏一ITO Koichiプロフィール専攻はパーソナルファイナンス、ソーシャルファイナンス、日本金融史、金融教育。近年はシェアリング・エコノミーの研究を進めている。NPO 法人日本協会専務理事、FP 学会理事。文部科学省・金融庁等で構成される金融経済教育推進会議委員。長野県金融研究会有識者会議委員。論文等に「シェアリング・エコノミーと家計管理」(生活経済学会第31 回研究大会会長賞受賞)『実学としてのパーソナルファイナンス』(共著 中央経済社)など。

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