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3946トピックスのに使う文言に迫力を持たせるのが、「黒船が来た!」という表現です。「黒船が来たのだから何とかしてよ」と。「開国しましょうよ」っていう説得は割に簡単にできます。しかし、黒船が来るのを待っていてはいけません。黒船を積極的に裏で操るべく、国際協力を進めていくことが大事です。黒船をお互いに操りましょうという話をすると、海外の研究者と話が通じることが多いです。特に、国際共同研究は非常にお金の取りやすい分野ですので、そういうことをどんどんやっていけばいいと考えます。 もう一つは「ガンダム化」です。最近のスマートフォンは、実は生身の人間を強化するガンダムになっています。(誰だかわかりませんが)敵と戦うためには、モバイルスーツをきちんと着ましょう。機械翻訳に頼っても、Skypeに頼ってもいいですから、外に出ていってきちんと話をしましょうということです。この「ガンダム化」というのは、そう大変なことではないはずです。全然ことばの通じない国では、いまのスマートフォンでも十分ガンダムになります。さらに、もう10年ぐらいでもうちょっと賢くなるはずですし、VR眼鏡だとか、遠隔操作のいろいろなデバイスとか、そういうのがどんどん出てくるはずです。英語を頑張って、丸腰で戦うようなまねはやめましょう。そう高い金額を使わなくても、しっかりと戦えるでしょう。 さて、システム化を促進するためには、システムは一般に目が見えなく、かつ、動的であることを肝に銘じておく必要があります。「今のコンピュータを100倍速くします」と言うと、まあ分かりやすいわけですね。それに比べて、「システムをよくすると100倍速く問題が解けますよ」と言うのは、なかなか理解されません。「こういうことを作りたいのです、これが重要です」と言うと、「難しくて分からない」と、大体トップに文句を言われます。「簡単な例を出せ」というのが、次のお題になるわけですけれども、一生懸命考えて簡単な例題を持って行くと、当たり前じゃないかと言われます。結局、優れたシステム科学者に育つためには、まずは、専門分野の知識を教わること。加えて、分からないことを他人に教えることが、非常に重要だと思っています。6.おわりに システム科学者には、それぞれの専門領域に対する知識と、そのような問題にも対応できるような領域横断的な視点との両方が重要です。このような立場に立てる人間が、世界中、特に日本で不足しているというのは、非常にまずい状況です。ということで、まとめにさせていただきます。これで結論になるわけです。定年を迎えるような年をとった人間は、ノウハウを活かした社会実装に従事しましょう。そして、どうやるかはよくわからないところではありますが、若者に金と権力をできるかぎり与えましょう。これには、たいしたコストはかからないはずです。 講演でしばしば使っているスライドを紹介して終わりにさせていただきます。 バルセロナのピカソ博物館にこんなステートメントがありました。「Art is the lie that helps us see the reality」もうひとつは、ダンカン・ワッツのテキストで、『偶然の科学』が日本語のタイトルですが、元のタイトルは「Everything is Obvious: Once You Know the Answer」となっています5。 この2つの文を少し変えてやると、私の考える複雑なシステム、エージェント・ベース・モデリングにちょうど適切な表現になります。・Agent simulation is the lie that helps us see the reality.・Something will be obvious once you know the agent simulation. 今後のエージェント・ベース・モデリングに期待しましょう。1 寺野隆雄(2016)「研究のネットワークがつながるとき」『人工知能 レクチャーシリーズ:「つながりが創発するイノベーション」[第6回]』 Vol. 31, No. 2, pp. 287-298.2 吉田民人(1999)「21世紀の科学-大文字の科学革命-」『組織科学』Vol.32, No. 3, pp. 4-26, 1999.3 Kahneman, D.(2011)Thinking, Fast and Slow. Penguin Books.村井章子(訳)『ファスト&スロー』早川書房, 2014年.4 Complexity Hub Vienna (ed.)(2016)43 Visions in Complexity. World Scientic.5 Watts, D.(2011)Everything is Obvious: Once You Know the Answer. Atlantic Books. 青木創(訳)『偶然の科学』早川書房, 2014年.参考文献

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