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4547特 集SDGS最前線ものである。第二次世界大戦期のプロパガンダ分析によって大規模に実用化されたといわれ、戦後は政治的シンボル分析18やコミュニケーション分析19 20によって国際政治学に応用されてきた。日本では、政策決定者間コミュニケーション分析21、歴代総理の帝国議会演説の価値内容分析22、人民日報の頻度分析23などの研究がある。一方、認知構造図は、あるドキュメントの論理構造を概念(concept)のネットワークとみなし、各コンセプト間の因果関係を+、−、0で表すことでドキュメントの著者または発言者(政策決定者)の論理回路を分析する手法である。1950年代にE.トールマンによって提起された認知科学の一手法であり、人工知能や計算機による言語処理技術の発達に伴い、1970~1980年代には国際政治学の対外政策決定分析に応用された。代表的な研究として、政策決定者認知分析25、外交政策実務者認知分析26、冷戦下の外交交渉分析27がある。これらの統計解析・統計的ドキュメント分析を中心とした国際政治学における定量的分析手法は、近年の情報処理技術や自然言語処理技術により、大量の非数値データの量的な分析と把握を可能とするものとなり、再評価の対象となりうるものである。国際政治学・国際関係論の対象となる主要イシューは国家間の軍事的・政治経済的紛争から、国境を越えて取り組むべき地球環境問題や貧困問題、難民問題へとシフトし、対象となりうるデータも、国・自治体・政治家による既発表のドキュメントデータや公開された統計データのみならず、リアルタイムに獲得・蓄積・共有可能なセンサーデータやマルチメディアデータ(画像・動画・音声・地理情報)に拡張している。いまや、大規模リアルタイムデータを対象として実空間と情報空間を連結し、解析することにより、人類が希求する持続可能な社会構築のためのEvidence-based Assessment and Policy Makingが実現可能となっているのである。おわりに5国際関係論・国際政策科学は「動き」と「データ」を扱う科学である。動きとは変化、変動、変遷、遷移、動態のことであり、分析対象はモノ・金・人・情報の流れなどの物理的移動から、人間の認知や認識・社会的価値・社会構造・制度など目に見えないものまで広範囲である。メディアデータやセンサーデータは、人間の五感に対応する材料であり、物事の推論の基礎となる事実・資料・論拠である。それらは語、概念、発話、記述、文章、記号、表象、シンボル、イメージ(色・形状・構図・テキスチャ)、非言語言語(動作、ジェスチャ、視線、音声)などを含む。現代社会において、人間の認知・社会的価値・社会構造・制度など目に見えないものを分析するためには、今やメディアデータとセンサーデータの分析が不可欠である。利用可能な情報やデータが爆発的に増加するにつれ、大量かつ多種多様なデータの中から有益な情報を的確かつ迅速に収集・獲得・管理し、適切な分析結果と知見を導き出す必要がある。相互依存の深化によってもたらされた高度情報グローバル社会において、自然環境の破壊を最小限に食い止め、持続可能な社会/回復可能な社会を実現するためには、国際関係論・国際政治学・政策形成過程や政策評価の研究者のみならず、あらゆる自然科学・社会科学の専門家、政策策定実務者、ステークホルダー、さらには一般の生活者が連携して「知」を創造し、記憶し、伝搬することが可能となっている。18 H. D. Lasswell et al., The Comparative Study of Symbols, 1952.19 R. Holsti,“Content Analysis,”Gardner Lindzey and Elliot Aronson eds., The Handbook of Social Psychology, 1968, pp.596-632.20 R. Holsti and Robert C. North,“Comparative Data from Content Analysis:Perception of History and Economic Variables in the 1914 Crisis,”Richard L. Merritt and Stein Rokkan eds., Comparing Nations:The Use of Quantitative Data in Cross-National Research, 1966, pp.169-190.21 猪口孝『国際関係の数量分析   北京・平壌・モスクワ、1961-1966年』巌南堂、1970年。22 武者小路公秀『行動科学と国際政治』東京大学出版会、1972年。23 高木誠一郎「文革前中国の対外関心   『人民日報』社説の内容分析1950-1965」、『国際関係論のフロンティア   国際関係理論の新展開』東京大学出版会、1984年。24 UN-ESCAP SDG HELP DESK:https://sdghelpdesk.unescap.org/toolboxes/25 R. Axelrod ed., The Structure of Decision:The Cognitive Maps of Political Elites, Princeton U. P., 1976.26 山本吉宣・谷明良「認知構造図」『オペレーションズ・リサーチ』、1979年。27 C. Jonsson ed., Cognitive Dynamics and International Politics, London:Frances Printer, 1982.

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