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特 集EBPMと行政事業レビュー1548手段と目的の関係は自明ではない4最初に注目したいのは、本事業の目的の所在である。図表1及び行政事業レビューシートによれば、本事業の最終目的は「機能性農産物に関する課題を解決し、新たな市場拡大を目指すことで、国産農林水産物の消費を拡大する」ことである。公開プロセスによる農水省の説明でも、「最終的には国産農林水産物の消費拡大に寄与」とされている。最終目的が「国産農林水産物の消費を拡大する」であるとするならば、機能性表示食品制度を農産物に広げその市場を拡大することが、「国産農林水産物の消費を拡大する」ことに寄与する可能性があるとしても、「国産農林水産物の消費を拡大する」十分条件となりうる他のオプション、例えば機能性の表示ができない一般食品と機能性の表示ができる他の2種類の保健機能食品の市場拡大を排除する合理性はない。換言すれば、機能性農産物の市場拡大が国産農林水産物の消費の拡大につながることは自明ではなく、一般食品や他の保健機能食品の市場拡大のほうが、より効果的に国産農林水産物の消費の拡大に寄与する可能性もあるし、お互いがゼロサム状態に陥り国産農林水産物の消費自体は拡大しない可能性もある。すなわち、「機能性表示食品制度を農産物に拡大」が「国産農林水産物の消費を拡大」するという論理には飛躍がある。これについては、熟慮せず直感的に自明と判断したのか、この事業が他の選択肢と比較して最良の手段とすでに実証されていたのか、もしくは他の手段との優位性の比較を行うためのものなのか、さらにはそうした意識がそもそも欠落していたのかは確定できないが、いずれにしても、最終目的に至る他の十分条件を排除もしくは無視している点は、より効果的な方法を探求するというEBPMの本旨に鑑みると重大な欠陥と言える。不十分な「広まりがない理由」の検討5次に着目したいのは、機能性表示食品制度を活用した農産物に広まりがない理由として、「申請手続が複雑である」ことと「生産現場での認知が不足」が挙げられている点である。この2つの理由は、生産者サイドと行政サイドからの観点であるが、ここでは考察されていない消費者の観点を取り入れることによって、機能性表示食品制度を活用した農産物のニーズが高まらない理由はいくつも考えられる。具体例として、①機能性表示食品制度を活用した農産物の値段は高い、②安価で同様の効果を期待できる代替物がある、③存在を認知されていない、などがあげられよう。例えば、「体脂肪を減らすのを助ける」と表示されているペットボトルの特保のお茶は一般のお茶の1.2倍ほどの価格になっており、これは特保の要件を満たすためのコストが価格に転嫁されているためと考えられる。機能性表示食品制度は特保の要件より厳しくはないにせよ、一般的商品に比べ開発・生産コストがかかり、事業者にはそのコストを価格に転嫁する動機が働く。したがって、申請手続きが簡略化されて機能性農産物が増えたとしても、価格面で消費者の購買意欲を高めるのは容易ではないと想像できる。また、仮に価格設定が適切で機能性農産物の需要が増えたとしても、それは一般生産物等からのシフトとなり、その分の輸入品が減少するか、もしくはその分だけ日本居住者が農林水産物を余計に摂取することにならないかぎり、「国産農林水産物の消費を拡大する」という最終目的は達成できない。また機能性農産物の機能は、実際の効果は別としても、サプリメントなど他の保健機能食品あるいは一般食品に分類される商品によって代替可能であると認識されうる。サプリメント等から機能性農産物への消費者の獲得は、「国産農林水産物の消費を拡大する」という目的にかなったものではあるとしても、価格と同時に利便性を考慮すると、これら代替品に機能性農産物がとって代わることは容易ではない。このように機能性表示食品制度を活用した農産物に広まりがない他の理由について検討をしないかぎり、「申請手続が複雑である」ことと「生産現場での認知が不足」を解決するための手段をいくら講じたとしても、その効果は期待を裏切る結果となりうる。機能性表示食品制度のジレンマ6「申請手続が複雑である」ことと「生産現場での認知が不足」を解決するための手段としては、以下の3つ

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