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特 集EBPMと行政事業レビュー1648の事業が示されている。ここでの疑問は、「申請手続が複雑である」ことが広まらない原因であるならば、それを簡略化することが問題解決の早道であり、簡略化されて届出者が増加すれば、それはまた「生産現場での認知が不足」というもう一つの原因も解決する方向に向かうと考えられるのに、そうした取り組みがみられない点である。① 機能性農産物等の食による健康都市づくり支援事業【補助率:定額】行政、生産者、事業者、研究機関及び消費者等で構成する地域協議会等が推進する食による健康都市づくりの取組を利用して機能性農産物等を特産物化する取組を支援する。② 食産業における機能性農産物活用促進事業【補助率:定額】機能性農産物等を生産する側と利用する側とを含めることで、食産業における活用促進を図るための環境整備を支援するため、課題・対策・留意点をまとめた活用ガイドブック策定や人材育成研修、食生活改善ツールの開発等を実施。③ 食産業における機能性農産物活用促進事業【委託費】機能性農産物等を生産する側と利用する側とを含めることで、食産業における活用促進を図るための環境整備を支援するため、実証による課題調査等を実施。先述したとおり、機能性表示食品は、国による個別審査を経ないという点で特定保健用食品に比べると申請プロセスが簡素ではあるが、食品関連事業者の責任において科学的根拠を基に機能性を表示する必要がある。その具体的内容は消費者庁が出す『機能性表示食品の届出等に関するガイドライン』7に示されているものの、専門家でなければ十分に理解することは困難であると同時に、科学的根拠の条件として、論文や臨床試験などで機能性関与成分の分量や作用なども含めて人体試験の実施などにより安全性や機能性評価を厳しく行わなくてはならないこと、摂取できる機能性関与成分の分量を確保しバラツキがないよう栽培条件などを確実に管理しなければならないこと、健康被害情報を集める体制を組まなければいけないことなどが示されており、届け出には技術的にもコスト的にも厳しい要件を満たさなくてはならない。すなわち、現実的に、申請者には専門性と資金も含めた組織体制が求められるため、生鮮食品の一般的な生産者である個人農家等が自力で申請するのは極めて困難なのである。実際、制度発足の2015年度においては、サプリメントや加工食品の届け出が受理されるなか、生鮮食品として初めて受理されたのは静岡県の三ヶ日町農業協同組合による温州みかん(商品名:三ヶ日みかん)で、全体の約80件目という順番である8。2019年4月現在では、累計36件の生鮮食品の届け出が受理されているが、全体の届出件数1785件のわずか2%にすぎない9。機能性表示食品制度には、原理的なジレンマが存在する。すなわち健康に対する一定の効果が存することを表示するために科学的な根拠が求められる一方で、届出数を増やすために手続きの要件を弱めるとその効果の信憑性が薄れるということである。したがって、本事業が、手続きそのものを簡略化するのではなく、申請者と共通利害を持ちうる、行政、生産者、事業者、研究機関及び消費者を関与させることによって、事業者の申請能力を高めることを狙いとしていることには一定の合理性があると言える。とはいえ、その事業によるアウトプットが期待されるアウトカムをもたらさないのであれば、それを実施する意義はない。アウトカムをもたらさないアウトプット7行政事業レビューシートには、図表3のように、上述の3つの事業によるアウトプットとして、①健康都7 令和元年7月1日改正版、https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/pdf/food_with_function_clains_190701_0001.pdf。8 釼持雅幸「野菜の機能性表示で消費拡大になるか? ~食品機能性表示制度の展望~」『代表コラム―二の釼が斬る!』(第252回、2015.09.14)、株式会社流通研究所、https://www.ryutsu-kenkyusho.co.jp/columns/。9 届け出が受理された商品は消費者庁のHPで検索が可能である。https://www.d.caa.go.jp/caaks/cssc01/。

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