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特 集EBPMと行政事業レビュー2248補給するものである。いずれについても「中小企業、ひいては日本経済の成長・発展」がインパクトとして提示されているが本質的にはリスクに対応するタイプの政策であり、積極的に目的達成に貢献するというよりは、生じ得る阻害要因を取り除くことに焦点がある。上記の特別利率の対象とされているものも災害被害への対応など、中小企業信用補完制度との共通性がかなりあると考えることができるだろう。その意味で、政策の必要性は非常に強く肯定されるものの、利用実績があったからポジティブに評価されるわけでもその逆でもない(危機がなければ制度は利用されないが、だからといって万一の際に制度が不要なわけではない)という性格を持っており、EBPMの手法がどこまで適用可能なのかについては疑問もあるところであった。 それでも特別利率に関する補給金のうち一時的な売上減少や利益悪化により生じた経営危機に対応するための「セーフティネット貸付」などについては、その対象になったことによりそうでない場合と比較してどの程度倒産等のインシデントが回避できたかといった形でアウトカムの指標を適切に設定することも可能かと思われるが、これを含めた一定数の異なる理由に基づいて特別利率が設定されているところ、それぞれを個別に評価しようとすると件数がかなり少なくなり一般性・客観性に限界が生じるという趣旨の疑問も、担当部局からは呈された。③地域・まちなか商業活性化支援事業 この事業は、商店街を典型とするまちなかの商業が地域の経済活力、コミュニティ機能、住民の生活基盤維持に果たしている機能に着目し、その活性化に向けた取り組みやその基礎となる調査分析に対して補助を行なうものであった。政策効果の評価という観点から見た場合には、そのような取り組みを行なった場合と行なわなかった場合、つまり特に政策的に介入しなかった場合にも生じたであろう変化(バックグラウンド)との差異に着目する必要があるのだが、これまでの調査データの制約から政策実施期間に対応した社会全体でのデータが入手できておらず、一般的に商店街の売上が減少傾向にあると想定したうえで対象地域がどう変化したかという限られた比較になっていた点、そこで有効と主張された結果もさほど明瞭なものではなく、統計的に有意であるかが必ずしも明らかではない点などが問題として指摘された。 それよりも筆者にとって違和感があったのは、そもそも商店街が地域に対して積極的な機能を果たしているという評価が政策全体の前提とされていたところ、それを正当化する根拠として提示されたのが「商店街実態調査」(平成27年)であり、「商店街に期待されていると思う役割」を商店街側の当事者に尋ねたデータだったということである。公開プロセスにおいても明言してしまったのだが、たとえばベッドタウンの新住民である筆者自身は日常的に商店街を通ることもないし、食品・衣服などの購入先として候補に挙げることすらない状況にある。これが筆者の特殊事情であり、社会一般的にはそうでないということを客観的に示すデータが、政策全体を基礎付けるために本来は必要だったのではないかと考えられる。④ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業 本事業は、中小企業が革新的なサービスや試作品の開発、あるいは現在の生産プロセスの改善などを進めるために必要となる設備投資を支援するものである。一定の政策的介入(特にポジティブな支援)を行なうことで生産性向上や売上増加などの社会的効果がどれだけ生じたかという形で成果が検証できるという意味で、EBPMの手法が適用可能な典型的事業だと考えることができるかもしれない。事業化の成功から事業者の付加価値向上という中期・長期のアウトカム、その結果として社会全体での中小企業黒字化の促進に貢献するというロジックモデルも整然と構成されており、支援実施中からアウトカムの判定時点である終了後5年の期間にかけて継続的に情報収集と検証が行なわれていることも含め、間然するところのない印象を受けた。 あえて言えば、支援対象のうち革新的サービス・試作品の開発がまだ需要の有無も含めて不透明な状況においてなされる挑戦的な性格を持つのに対し、生産プロセス改善はすでに一定の実績が存在する状態で行なわれるものだと考えられるだろう。そのように性格を異にする両者にわたって共通のアウトカム指標(終了後5年以内の事業化率50%)を適用することが適切か

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