view&vision48
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特 集EBPMと行政事業レビュー2448の、あるいは統計整備や気象観測のように情報の収集や整理など官民における他の活動の基盤整備を担っており、それ自身として実現すべき目標を持っていないものが含まれることにも注意する必要があろう(今回の対象事業には該当するものがないが、筆者が念頭においている典型は国土交通省「アメダス観測事業」(平成29年度公開プロセスの対象)である)。そこで結果的に収集された情報やデータを活用するのは、省内で政策実現を担っている組織であったり他省庁であったり、あるいは民間団体である(産業統計をもとに対策としての産業政策が議論される、医療費の実情に関する統計をもとに将来の財政構造に関する検討が行なわれる、気象観測の結果をもとに民間企業による天気予報が提供される、などが順に例として挙げられる)。それをEBPMの枠内で位置付ければインパクトということになり、事業それ自体のアウトカムは存在しない(ないしきわめて薄い)と考えるべきではないか。もちろんアウトカム設定に馴染まない事業への対応は実施要領でも想定されているが、その点に関する適切な理解が関係者間で共有されるためには、なお努力が必要かと思われる。Reviewing Review Process4 別の言い方をすれば、EBPMに基づく行政事業の評価という試み自体が一個の「事業」であり、そのような取組み自体が一定の実践経験をもとに可能性・限界・制約・有用性等々について検証し評価することが可能な段階へと到達しつつあるのではないか、ということになるだろう。EBPMの手法を活用することが我が国の行政過程を改善するために有効なのではないかという「思い」  それ自体は直観的にはごく自然な信念のように思われるが  が正しかったのかどうか、行政事業レビューを通じた試行という計画(Plan)の実践(Do)を経て、その経験を検証(Check)しさらなる改善へと結び付ける行動(Action)が必要になっているのではないだろうか。EBPMの試行自体に関する検証と改善というPDCAサイクルを確立することが、今後の重要な課題になるだろう(その際に採用されるべき手法がEBPMになるのか、より質的な側面に注目した分析手法によるべきかは、おそらく今後の検討に開かれている)。 しかし、いずれにしても重要な効果として期待できるのは、このように検証の過程が可視化されその枠組が統一的に定まってくることによって、行政に求められているアカウンタビリティの再構成が進展することだろう。行政の直接的な活動量を示すアウトプット、その帰結として社会に生じた直接的な効果としてのアウトカム、そしてさらにその結果として社会に波及した影響として想定されるインパクト  したがって必ずしも行政の責に帰することのできない外在的な事情により成否が分かれたりもする  の差異を設定し、それぞれの関係を整理するためのロジックモデルが構築されることで、個々の政策の評価にとどまらず相互の関係や優劣、性格の違いについて描写することができるようになったことは、今後の行政に対する研究・分析のためにも非常に有用なものになると考えられる。 もちろんこのような観点から惜しまれるのは、前述の通り近年始まったばかりの取組みである以上やむを得ないことではあるのだが、これらの指標やロジックモデルが事業の開始後に構築されたものであり、いわば後出しで評価基準を設定・操作することが可能になっていることなのだが、EBPMの手法が定着し、やがて事前の政策形成段階・予算査定段階に組み込まれるにつれ、解消可能な問題だろうと思われる。繰り返しにはなるが、実践を通じて明らかとなった問題を修正しつつ、今後に向けて着実にこのような手段の展開と定着を図ることが期待されることを指摘し、本稿を閉じることにしたい。

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