view&vision48
28/74

特 集EBPMと行政事業レビュー2648ベースは、客観的なデータではなく一部の大きい声や感覚で政策が作られてしまい、その結果、みんなのための政策にならない、つまり公益性が低いものになってしまう恐れがある(このこと自体のエビデンスがあるわけではないが)。エビデンスの欠如によって評価も疎かになる2また、立案時においてエビデンスが乏しければ、その事業を評価するにあたっても同様に、エビデンスに基づいたものにならないことが多くなる。事業評価の際に重要な視点は「ファクト・チェック」である。当該事業の目的を達成するために事業実施期間中に何をしたのか(アウトプット)、どのような状態になれば事業の目的達成といえるのか(アウトカム)、そこに向けて現状はどの状態にあるのか(達成状況)など、客観的な情報を積み上げていく中で事業の課題がどこにあり、その解決策を探っていくことが、事業評価のあるべき姿といえる。しかし、国においても地方においても、評価をするにあたって必要な「ファクト」が把握されていないことが非常に多い。その状況では、税金を投入して行政が関与している効果がわからないだけでなく、そもそも何をもってこの事業はうまくいっているといえるのかという絵姿すらわからないことになってしまう。エビデンスに基づいた事業の立案ができていないこと、ロジックモデルが明確になっていないことが、以上の状態になってしまう背景にあるといえる。一例を挙げよう。蓮舫議員の「2位じゃダメなんですか?」で話題となった「スーパーコンピューター」(以下、スパコン)。2009年11月に政府が行った事業仕分けの際に議論された。スパコンとは、気象や震災の影響などの予測に活用され、回転速度が速ければその予測結果を出すことも早くなる。日本は研究力や競争力の強化によって世界最速を目指し、多様な分野で社会に貢献する研究成果を上げることを目的とし、1秒間に1京=10ペタフロップスの計算性能を持つコンピューターの開発や、そのスパコンを最大限利活用するためのソフト開発を行っていた。総事業費は約1,150億円の予定であった。「仕分け人」側は、「スピードだけを求めるのではなく大事なのは利用者(研究者)の使いやすさ。例えば、1台のスパコンに10ペタフロップスを搭載するよりも、1ペタフロップスのスパコンを10台作って実際に利用する全国の若手研究者のいる機関に置くなどの考え方もあるのではないか。10ペタフロップスのスパコンを開発すること自体が目的化していないか」「アメリカが2012年までに10ペタフロップス以上の速さのスパコンを作ろうとしている中で、仮に一度日本のスパコンが世界最速になったとしてもいつまで世界一でいられるのか」「『サイエンス』には費用対効果がなじまないことは理解するが、1,000億円以上もの税金が投入されることの成果が全く見えてこない点は、改善すべきではないか」など、世界最速のスパコン開発のアウトカムや、1,150億円の国費を投入することのエビデンスを問うていた。このような議論の過程で、蓮舫議員から「世界一になる理由は何があるんでしょうか? 2位じゃダメなんでしょうか?」という言葉が出た(スピードが世界一になったところで利用者の使い勝手が悪ければ使われない、しかもすぐに抜かれるだろうという予測もある、なぜそれなのにスピードばかりにこだわるのか? という趣旨だった)。これらの問いに対する文科省の回答は、「最先端のスパコンがないと最先端の競争に勝てない」「世界一を取ることにより国民に夢を与える」など、まさにエビデンスではなくエピソード・ベース(定性的、情緒的)ばかりでかみ合わなかった。スパコンという「道具」を使うことで、どのような研究成果を期待しているのか、スピードで世界一を取ると、具体的にどのような変化があるのかが伝えられていれば当時あれほど取り上げられることもなかったのだろうと思う。行政事業レビューにおけるEBPMの試行的実践3政府がEBPMを具体的に取り入れたのが、平成29年度に内閣官房が行った「行政事業レビュー『秋のレ

元のページ  ../index.html#28

このブックを見る