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148SDGsと建学の精神・理念我が国では近年、国連の持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)を背景に、貧困根絶、環境保全、不平等是正などについて“地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)”社会の実現が目指されている。SDGsは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として国連で定められた、2016年から2030年までの国際目標である。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」を基に、MDGsの残された課題(例えば“保健”“教育”)や新たに顕在化した課題(例えば“環境”“格差拡大”)に対応すべく、新たに17ゴール・169ターゲットからなる持続可能な開発目標が策定された。一方、千葉商科大学は、創立者・遠藤隆吉が我が国の商業道徳の頽廃を憂い、高い倫理観の根源を武士的精神に求め、その涵養を建学の精神と理念に据え、実社会に役立つ学問である「実学」による商業教育を修得する学舎として1928年に開かれた。言わずもがな武士的精神とは武士道に依拠しており、慈愛、忍耐、勇気、惻隠、名誉、恥という意識も含意し、その根底には、「卑怯なことはいけない」「強者は弱者をやっつけてはいけない」「金銭よりも道徳を重んじる」という道徳観、行動基準がある。現代の経済社会において、SDGsを意識した企業活動はCSRの根幹をなすものとも言われる。さらに、企業活動の倫理の側面では、「自社だけが儲ければよい」「儲けるためには手段を択ばない」が通用しなくなり、正にそこには武士的精神が求められる。こうした現実に目を向ける時、本学の商業教育は国連によるSDGsの概念に通底し、これからの社会を担う若人育成に有意であり、かつその期待が高まっていることは容易に理解できよう。エシカル消費教育が目指すもの2010年頃より、我が国においても人や社会・環境に配慮したエシカル消費への関心が高くなっている。“エシカル”の直訳は「倫理的な」という意味で、これに“消費”がつくと、法的強制力こそなくとも多くの消費者が正しいと感ずること、本来人間が具備する“良心・良識”から発生した消費行動となる。すなわちエシカル消費は、消費者個々が社会や環境、社会的弱者等とのつながりの中で社会的課題の解決を考慮し、こうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費行動することである。それは例えば、“社会への配慮”としてのフェアトレード商品や寄付付きの商品等の消費であり、“環境への配慮”としてはエコ商品、リサイクル製品、資源保護等に関する認証がある商品等の消費であり、“人への配慮”では障がい者支援につながる商品等の消費となる。また、“地域への配慮”としての地産地消や被災地産品の消費、“動物への配慮”の動物に対して与える痛みやストレスの抑制や(例えば毛皮のような)動物由来素材の使用を最小に抑えること、さらには“労働への配慮”の農薬や工場排水などによる環境汚染や児童労働等の問題を排除するためのオーガニックコットンやリサイクル素材等の利用などもエシカル消費の範疇となる。つまりエシカル消費は、“エシカル”という母屋に、“フェアトレード”、“寄付付き商品”、“環境配慮製品”、“障がい者支援品”、“地産地消”、…などが軒を連ねる消費ということとなる。そしてこうした消費行動は、公正で持続可能な社会の形成に積極的に参画する消費者市民社会の形成に向けたものとして捉えられ、しばしば我が国の経済・社会の高品質化をもたらす大きな可能性を秘めると言われる。本学では2017年から現在に至るまで、SDGsに根差したエシカル消費教育を実践してきた。例えば、学生が中心となりコーヒー提供をする“学生カフェ”において、コーヒー豆をフェアトレード商品で賄い、オーガニック商品、地産地消、障がい者支援品などのエシカル商品を取り扱った。また、体育会の様々な部活動の道具にフェアトレード商品を試験的に購入した他、ブライダルサービスをテーマとするゼミ活動では「エシカルウエディング」の研究でエシカル消費を学生に促してきた。こうした教育をさらに加速させるために、学内の複数部署でエシカル消費につながる改修・改善が議論されている。その意味で、我々も知識を深めるため、エシカル消費勉強会を催す他、地域との連携でフェアトレード商品に対する考え方を積極的に導入している徳島県と静岡県の大学やモデル高校を視察するなど、教育展開について精力的に研究を続けている。現在、SDGs 及びそれに関わるエシカルは国連において一般化され、我が国においても重要なキー概念になった。だからこそ、この本学でのエシカルについての取り組みは意義あるものであり、まして、本学の武士的精神を基調とした商業教育、特に高い倫理観を貫き社会に貢献する人材を育成するためには必須の考え方である。我々はこうした認識の下、エシカル消費を大学教育に積極的に取り入れる考えである。そして、エシカル消費教育をフックに、SDGsに関わる知識習得、しかも建学の精神・理念を貫く学びを授けなければならないと覚悟するものである。SDGs、建学の精神・理念とエシカル消費教育巻頭言プロフィール千葉商科大学商経学部卒業後、㈱ヤナセ入社。同社在職中に立教大学大学院(修士課程)、筑波大学大学院(博士課程)へ進み、2010年サービス創造学部准教授、2017年より現職。学長プロジェクトで「エシカル消費教育」を研究するとともに、CUCオリジナルエシカルグッズ開発も手がける。千葉商科大学サービス創造学部 学部長・教授今井 重男IMAI Shigeo

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