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特 集EBPMと行政事業レビュー3048の議論を踏まえて、本事業の再構築を進めていく必要がある。の5点がとりまとめられた。「ロジックモデル」によって共感性のある議論を目指す7私は内閣官房行政改革推進会議「歳出改革WG」の一員として行政事業レビューに関わり始めてからの5年間、常に文科省を担当しており、さらに遡ると政府が事業仕分けを行っていた2009年~2012年の4年間も、文科省の議論の際にコーディネーターとして参加することが多かった。文科省と長くお付き合いをしている実感として、これまでは、先述のスパコンの議論にも見られるように、取組みの好事例を用いたり情緒的な言葉で事業の成果を強調することが多く、客観性やエビデンスによる説明や資料はほとんどなかった。それによって、外部の人間と担当者の議論がかみ合わない場面も多くみられた。しかし、この数年は客観性のある資料が増え議論もかみ合うようになったと感じている。主観的・情緒的な意見の言い合いは、課題の深彫りまで至ることはあまりなく、出口の見えない水掛け論になってしまうことが多い。一方、エビデンス・ベースによる議論は、事実の積み重ねに基づいた質問になるので、お互いの主張をぶつけるだけでなく、双方に「気づき」を与えながら進めることが可能になる。「議論がかみ合う」状態とはこのようなことだろう。そして「気づき」は、相手の言うことへの共感性がなければ感じることができない。行政事業レビューにおいて事業担当課が共感性を持って議論に参加できれば、行政事業レビューが始まった当初から根強く残っていた事業担当課の「やらされ感」が大きく変わることにもつながる。これまでの文科省の政策遂行の背景には、教育や研究の分野において、アウトカム指標の設定はなじまないという考えが一定程度あったものと感じている。もちろん、すべての事業に明確なアウトカム指標が設定できるわけではないと認識しているが、「アウトカム指標が設定できない事業もある」という考えが「すべての事業に指標を設定しなくても良い」に飛躍してしまっているのではないかとこれまで感じてきた。先にも述べたようにアウトカム指標が設定されていなければ、その事業が何をもって成功なのか失敗なのかのモノサシがないことになる。だからこそ何らかの指標を探し出すことが必要となるのだが、何よりも重要なことは、それを考えるプロセスにある。成果は何か考えるプロセスを経ることで事業の意義や課題が見えてくるであろう。そして、そのためのツールがロジックモデルであるといえる。EBPMという手段が最大限に効果を発揮できるタイミングとは8EBPMはより効果の高い政策を作るための手段である。したがって、この手段がいかなる場面においても効果を最大限に発揮するものではない。EBPMは、基本的には新たな政策・事業を立案する時の考え方、つまり、将来設計を描く際に使うものだ。行政事業レビュー、事業評価のタイミングでEBPMを導入しようとすると、立案当時のロジックモデルやアウトカム指標がなければ評価のための指標も同様に示すことができなくなるし、指標を設定したとしても、後付けなので「証拠に基づいた政策立案」とは言えなくなる。以上のことから、EBPMがより効果を発揮するのは、新規の政策・事業を立ち上げる時や、事業が大きく変更される時などであろう。留意しなければいけないことは、手段が目的化しないこと、つまり、EBPMの実践をすることのみが目的となってしまうことだ。日本におけるEBPMの実践はまだ緒に就いたばかり。今後事例を増やしていくことによってブラッシュアップされ、国民にとってより効果の高い政策が生み出され、同時に検証されるようになることを期待している。

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