view&vision48
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3548くれた。そこには、自分も知らないこともあった。出演者を通して、知らなかった睦月の光景をたくさん見たり、聞いたりすることができた。カメラが回っていなくても、出演者それぞれのなかに、物語が展開し、思い出としての映像がつくられている、という感触があった。 2016年に娘が生まれたので、以前のように大勢の出演者と思い切り遊ぶ、ということは難しくなった。そのような変化から、2016年からは、第二部といえる。娘のペースに合わせて、海を眺めたり、ご飯を食べたり、島の行事に参加したり、親戚らと交流したりした。 2016年、生後三ヶ月の娘は泣きっぱなしで、1泊で島を離れた。翌2017年、フェリーを気に入り、汽笛が聞こえるたび、窓辺へ走り寄り「おふね、ばいばーい」と手を振っていた。2018年、島に到着したとたん、娘の表情はぱっと明るくなり、親戚にもらったお下がりのおもちゃで水遊びをしたり、私の父が釣ってきた鯛を美味しそうに食べたり、とても楽しんでいた。そうした娘の姿の向こう側に、島の景色が妙によく見えるようになった。 夜明け前のかすかな鳥の鳴き声が聞こえ始めると、ミカン畑に向かう軽トラの音がする。この時期は「ようぼう」(「防除」がなまった言い方?)といって、防虫剤を散布するのだと聞いた。暑くなる前に仕事を済ませるのだろう。そして太陽が昇ると一斉に蝉が鳴き始める。定刻通りのフェリーの汽笛。毎日2回、潮の満ち引きがある。それに合わせて釣り人は波止へ移動する。長年続いてきた島の光景が、ようやく見えてきたのだ。仮装の盆踊り 睦月島では、8月15日に盆踊りが行われる。仮装して踊るという全国的にめずらしい風習がある。櫓にいる2名の口説き(歌い手)が、太鼓のリズムに合わせ唄う。仮装した人は、紙に何に扮しているかを書いて、背中に貼る。実行委員が出来映えを審査し順位が決まる。その年の話題の人や、王様、ひょっとこ、お化けなど、子どもからお年寄りまで、さまざまな仮装がされる。 それまで見たり撮影したりはしたが自分で仮装はしなかった。「しまわたし」を着想したとき、この独創的な文化を、自ら体験してみようと思った。 「しまわたし」の出演者たちと、アニメのキャラクターなどに仮装して毎年参加した。盆踊りの参加者は年々減っていき、2014年に口説きは録音に変わった。仮装する人も数人になった。それでも1位は取れない。毎年必ず1位を獲る年配の女性がいたからだ。 2017年に、熱心に仮装を続けている女性にインタビューする事ができた。「小さいころから踊りが好きでね。太鼓の音を聞くと、もうじっとしとれんのよ。衣装は一ヶ月前から手作りしよったんよ。誰がどんな仮装するんか、見にいくのも楽しみじゃったわい」そして、昔作ったものだと、フラガールの衣装を3着くれた。その衣装は、白いビニールテープでできていて、帽子と腕輪、胸当てもあり、腰箕はふわりと仕上げられ、南国風に工夫されていた。 翌2018年、豪雨被害で開催が危ぶまれたが、盆踊りは行われた。娘とフラガールの仮装をし、背中の紙に「がんばろう!睦月」と書いて踊った。その女性の姿はなく、私はついに1位になった。翌日女性を訪ねると、足を痛めて参加できなかったと言う。1位を取った話しをすると、喜んでくれた。2018年 盆踊りをする娘。私のフラガールの衣装を奪い取り踊っていた。 その年、仮装の準備をしているとき、娘はそわそわしながら私を見上げていた。その目の輝きを見て、衣装をくれた女性の幼い日々が想像できた。装飾作りを見に行ったり、踊りのきれいな人に振りを教わったり、次第に島が華やいでいく様子は、ハレの日に向かう高

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