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特 集EBPMと行政事業レビュー448EBPMの背景1 「証拠に基づく政策立案(EBPM)」に向けた機運が政府・地方自治体内で高まっている。従前の政策形成は「局所的な事例や体験(エピソード)が重視されてきた」きらいがあった。開始から時間が経過し、経済・社会の環境が変化したにも関わらず、「慣行的に続けられてきた」という理由でもって見直しの進まない政策・事業も少なくない。他方、EBPMは「(1)政策目的を明確化させ、(2)その目的のため本当に効果が上がる行政手段は何かなど、「政策の基本的な枠組み」を証拠に基づいて明確にするための取組」(総務省)にあたる。定量的かつ客観的なデータとその分析に依拠した政策形成を重視する。「我が国の経済社会構造が急速に変化する中、限られた資源を有効に活用し、国民により信頼される行政を展開する」ことが期待されている(統計改革推進会議最終取りまとめ(平成29年5月))。そのため「行政事業レビュー、政策評価、経済・財政再生計画の点検・評価」の「三本の矢」でもってEBPMを実践していく(内閣官房行政改革推進本部(平成30年1月))。1政府はこうしたEBPMと統計改革を「車の両輪として、一体的に推進する」としてきた。具体的には「政策、施策、事務事業の各段階のレビュー機能における取組を通じてEBPMの実践を進め、EBPM推進体制を構築する」とともに「経済統計の改善、ユーザーの視点に立った統計システムの再構築と利活用」を促進する(経済財政運営と改革の基本方針2017)。とはいえ、EBPMの確立には現状は程遠い。政策の立案や評価に必要なデータが乏しい上、公共部門内の政策形成の文化を「政策目的の明確化や政策効果の測定に重要な関連を持つ情報やデータとは何かを問うていくエビデンスベース」へと転換することは容易ではない。現場において政策・事業の実施は根拠法令に基づく。よって「法律に書いているから実施している」というスタンスになりがちだ。筆者は長年、内閣官房行政改革推進本部の行政事業レビュー(公開プロセス及び秋のレビュー)に携わってきたが、事業の効果(アウトカム)に対する当方からの指摘に対して根拠法令でもって反論する政策担当者も少なくない。しかし、法律(自治体であれば条例)は本来、政策が目指すべき目標=アウトカムの手段であって、それ自体が「自己目的化」されるべきではない。「法律等の掲げる目的・目標とその考え方や根拠に立ち返った検討が必要」だろう(内閣官房行政改革推進本部(平成29年11月))。本稿ではその事例として平成30年度公開レビューとなった「離島振興に必要な経費」(離島活性化交付金)を取り上げる。当該事業は昭和28年に制定された「離島振興法」による。我が国は6,852の島嶼により構成「離島振興に必要な経費」を例に一橋大学経済学研究科 教授佐藤 主光SATO Motohiro プロフィール一橋大学経済学研究科、国際・公共政策大学院教授、医療政策・経済研究センター長1969年秋田市生まれ、92年一橋大学経済学部卒業、98年カナダ・クイーンズ大学Ph.D(経済学取得)、99年一橋大学経済学研究科専任講師、准教授を経て現在に至る。専門は財政学、政府税制調査会委員、財務省財政制度等審議会委員、内閣官房業行政改革本部行事事業レビュー評価委員などを歴任、おもな著書に地方税改革の経済学、2019年日本経済学会石川賞受賞特 集EBPMと行政事業レビュー1 行政事業レビューは内閣官房行政改革本部、省庁横断の政策評価は総務省政策評価局、経済・財政再生計画は内閣府経済財政諮問会議が担当する。これら「三本の矢」を政策体系の中に位置付けると行政事業レビューは(施策を上位目標とする)事務事業レベルの評価、政策評価及び経済・財政計画は(事務事業を手段とする)施策評価にあたる。

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