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6148ネルが階層状に連なった独特の外観の講義棟や研究棟、図書館などを目にする。これらの建物は、20世紀中頃に活躍したアメリカの建築家ウィリアム・ペレイアの設計によるものだ(写真2、3)。 UCIは、ハーバード大学やコロンビア大学のような歴史のある大学ではないが、創立後40年弱で全米州立大学ランキングで7位、総合大学ランキングでは33位に名を連ねる名門校へと急成長を遂げており、アメリカのなかでも注目されつつある州立大学のひとつである。 そのキャンパスには、多くのアジア系学生の姿を目にする。大学のホームページによると、所属学生の人種構成は、アジア系(36%)、ヒスパニック(26.4%)、非居住外国人(Non-Resident- Alien) 16.2%、白人(14.3%)であり、アジア系およびヒスパニック系の学生が多く在籍していることがわかる。世界各国から集まってきた学生たちのエネルギーは眩しい限りであり、貴重な時間を惜しむかのようにキャンパスのあらゆるところで学生たちが勉学に励んでいる。写真2 建築家ウィリアム・ペレイラによって設計された歴史学部の建物写真3 大学のキャンパス内とは思えない中心部の緑地3–4 研究活動について UCIの授業は、秋学期、冬学期、春学期のサイクルで授業カリキュラムが組まれており、渡米した時期(4月)は、ちょうど春学期開始直後にあたったため、スティーブン・トピック教授の大学院のゼミ(授業科目名:The World of Commodities)に参加させてもらうことにした。ゼミには博士学位請求論文(Ph.D.)を執筆中の大学院生が出席していた。国籍は、アメリカ人(2人)、インド人、ロシア人、台湾人、それに自分(日本人)を含めた5人で、研究内容もラテンアメリカ史や服飾史など、多様性(diversity)に富んだクラスであった。 授業では、毎週1冊、コモディティの歴史に関する文献が指定され、それを事前に読むことが参加の条件となる。そして、課題本に関する議論を毎回3時間にわたり展開するという流れである。書籍によっては、400ページにも達する本も含まれており、かなりのハイペースで課題をこなさなければならないが、指定された書籍は、どれも非常に興味深いテーマであった。以下ではその一部を紹介したい。 最初に参加した授業では、Brooke, Timothy, Vermeer’s Hat. London: Bloomsbury Press, 2008(邦訳:ティモシー・ブルック(本野英一訳)『フェルメールの帽子―作品から読み解くグローバル化の夜明け』2014年、岩波書店)が課題本であった。フェルメールが描いた数々の絵画から、ヨーロッパ人が抱いたオリエンタリズムへの羨望、テイスト(taste)論、本書のタイトルの含意(表紙絵となっている『兵士と笑う女』で、なぜ兵士はビーバーの毛皮を加工した大きな帽子をかぶっているのか、背景に描かれたオランダの地図や開け放たれた窓の意味)、サイモン・シャーマ(Simon Schama)の絵画論などが議論された。 さらに翌週は、Mintz, Sidney, Sweetness and Power, NY: Penguin, 1985(邦訳:シドニー・W・ミンツ(川北稔訳)『甘さと権力』平凡社、1988年)が取りあげられた。 本書は、コモディティ歴史研究の先駆者のひとりであるミンツの代表作である。ヨーロッパの植民地支配地域で奴隷作物として栽培されていたサトウキビ(砂糖)が、いかにして贅沢品から大衆品へと移行していったのか、砂糖をめぐる生産と消費、植民地貿易の観点から権力と資本主義の関係を十全に読み解いた名著で

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