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6248ある。トピック教授の解説を交えたワールド・ヒストリー研究の原点の一つともいえる本書をめぐる議論に参加できたのは、幸運で刺激的な時間であった。 さらに、トピック教授のライフワークのひとつであるコーヒーについての議論(イエメンからオスマントルコ、ヨーロッパの文化史)や綿花、お茶、ゴムの歴史についての議論が続いていった。5月末には、クレアモントにあるポモナ・カレッジのミゲル・ティンカー・サラス(Tinker-Salas, Miguel)教授を招待して、 自著The Enduring Legacy: Oil, Culture and Society in Venezuela, Durham NC: Duke University Press, 2009.が課題本に設定された(写真4)。同書は、ベネズエラにおける20世紀の石油開発の歴史を追った研究書であるが、その焦点となるのは、ベネズエラの石油開発の中心地マラカイボ(Maracaibo)における社会的・文化的影響である。国家の政治経済構造から生産関係に重きをおく石油開発研究が主流を占めるなかで、地域研究の側面を有したミゲル教授の研究の視点からは多くの示唆を得ることができた。 最終回となる授業では、トピック教授の自宅にて同じくUCI歴史学部のヘイディ・ティンスマン(Heidi Tinsman)教授を招いてのセッションとなった。トピック教授のご自宅の美しく手入れされた庭園をながめながらのリラックスした雰囲気での授業であった。同教授の著作(Buying into the Regime: Grapes and Consumption in Cold War Chile and the United States, Duke University Press, 2014)は、チリのブドウ産業研究、およびカリフォルニア州でのブドウの消費文化(コマーシャリズム)の変遷をジェンダー論の視点を交えながら論じている。1970年代のピノチェット政権下のチリで、アメリカとの経済的な支援のもとで展開された新自由主義的政策が両国のブドウ産業にどのような影響を与えたのかなど、二国間の比較研究ではなく、相互の政治経済関係から読み解くという非常に困難な研究手法を用いており、議論ではこの点に質疑応答が集中した。写真4 ミゲル教授による発表の様子おわりに 渡米後3カ月足らずであるが、歴史研究を専門としない自分が、トピック教授をはじめとするワールド・ヒストリー学派をリードする研究者が描きだす生き生きとした歴史研究の姿勢を垣間見られたことは非常に幸運であった。在外研究では、ワールド・ヒトストリーを先導する研究者たちから時代とともに変化する商品の役割や価値、そしてそれがもたらす経済的・政治的・社会的影響の重要性を改めて認識することができた。 幸いにも本年度(2019年度)から新たに科学研究費助成事業(基盤研究(C)採択課題名「アフリカ新興産油国における制度基盤形成プロセスの分析」)の交付が決定した。今後、石油開発に関わるレンティア国家の制度的特色(非民主的統治体制、隠匿性等)やその特殊な経済構造(オランダ病、資源の呪い仮説等)の先行研究動向を改めて精査しなおす予定である。また、今回の研究期間中に経験したミゲル教授のベネズエラ石油開発に対する研究アプローチをはじめ、これから出会うであろうUCIおよび他大学の研究者との議論を通じて、自らの研究課題にフィードバックしつつ、研究視野を広げていきたいと考えている。

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