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特 集EBPMと行政事業レビュー648統計分析にあたっては政策と成果指標との間で単純な相関関係をみるだけでは十分ではない。政策の「外的要因」をうまくコントロールしなければ政策と成果指標の関係は単なる見かけの相関(関係)に過ぎないかもしれない。政策効果を知る上で有用なのは、①政策を実施したグループ(=「処置群」)と②政策が実施されなかったグループ(=「対照群」)に分けた上で、成果指標の差異を検証することである。差=各グループ内での平均的な成果改善と差=グループ間での平均的なパフォーマンスの違いをみていることから、「差の差の分析」(DID(Dierence in Dierence)分析)と呼ばれる。パネル分析でも同じように処置群と対照群の間でのパフォーマンス=成果の違いから政策効果をみることが出来る。ただし、政策効果を正しく検証するには処置群と対照群が恣意性のない形で「ランダム」に分かれていること、つまり「内生性バイアス」がないことが条件になる。さもなければ対照群とのパフォーマンスの違いは必ずしも政策効果を反映しない。我が国では特区制度のような実験的な規制緩和や先駆的な事業を行うにあたっては、「手上げ方式」によるケースが多い。このため「サンプル・バイアス」が生じかねない。こうしたバイアスを回避するには、政府自身がランダムに政策を行う地域、あるいはプログラムに参加する個人を選んでしまうことだ。これは「ランダム化比較実験(RCT)」として知られる。健康増進等、先駆的な政策を全国展開する前に実験的に施行して、成果のエビデンスを検証するものである。この実験で成果が実証されれば政策は全国的に行われ、されなければ全国展開は見送られる。RCTは英国では1997年ブレア労働政権以降、EBPMの一環として教育・医療、徴税などの分野で幅広く行われてきた。他方、我が国ではランダム化実験のような形での政策分析は未だ実例が少ない。後述の通り、本稿で取り上げる「離島振興に必要な経費(離島活性化交付金)」事業においてもこうした分析統計の手法は用いられていない。一般に既存研究の蓄積が十分でない限り、政策・事業の効果を予め知ることは難しい。そのため政策の試行錯誤(=政策実験)の一環として実証事業がある。ただし、その効果検証にあたっては予め検証計画を綿密に立てることが重要とされる。「社会実験として事前に立てた仮説に対する事後の成果をしっかり検証できる」ようにすることだ。例えば、実証事業の前後で「モデル事業の対象として選定された者とモデル事業に選定されなかった者との比較」できるようにする。しかし、実際のところ、実証事業の多くはベースライン(事前)調査や対照群の設定がなく、事後的に効果を識別することは難しい。ロジックモデルとは?3政策を評価する上でエビデンス=実態と並んで重要なのはロジック=論理である。ロジックモデルは各成果指標(数値目標)と達成に向けた政策との因果関係及び外部要因との関係を把握・分析する。ここではこうなったら良いなどという「希望的観測」(楽観的見通し)や「風が吹けば桶屋が儲かる」ような曖昧な関係は排除する。例えば、政策=自治体の庁舎の新築の成果として地域経済の活性化を挙げたとしよう。その根拠が立派な庁舎が出来れば、地域住民がそれを誇らしく思い、元気になって消費等経済活動が活発になるからとしたらどうだろうか?果たして新しい庁舎を誇りに思うかを含めて論理性に欠ける。また、ロジック構築においては目的と手段の整理が必要となる。ロジックモデルで示されるべき因果関係には、「①事業段階におけるインプット(予算投入)からアウトカム(成果目標)に至る因果関係を説明したものと、②さらに上位の政策・施策段階のインパクト(成果目標)に至る因果関係を説明したもの」がある。例えば、予防医療・介護の充実を図る具体策=手段として定期健診の普及に向けた広報、健診の実施、医療機関との連携など個別の事業が挙げられる。こうした政策体系は目的と手段の関係を明らかにするとともに、政策評価を階層的にする。行政事業レビューであれば、その成果目標が上位の政策=施策の目標と整合的になっているか、施策目標の実現に有効か、他により良い手段=代替可能な事業はないかが問われる。施策評価(政策レビュー、総務省による政策評価など)では施策の政策に対する効果が評価される。

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