cuc_V&V_第53号
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1053千葉商科大学商経学部 准教授田原 慎二TAHARA Shinjiプロフィール博士(経済学)。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科修了。内閣府経済社会総合研究所を経て2017年度から千葉商科大学商経学部。現在、総務省産業連関技術会議委員、内閣府経済社会総合研究所客員研究員。マクロ経済分析における加工統計―SNA、GDPを例にして済学は当初、人文的な学問として出発したが、社会科学へと変貌していく過程でデータを活用するようになった。そこで生み出されたものが加工統計である。本稿ではこうした加工統計の歴史的経緯について、SNAやGDPを取り上げつつ概観し、マクロ経済を分析する道具の一つとしての加工統計の役割・意義について述べることとしたい。マクロ経済はどのように把握されるか2マクロ経済における経済主体の活動は、経済学の考え方によって概念・範囲が定義されている。例えば、SNAにおける家計は、企業に労働を提供して賃金を受け取る主体であるだけでなく、持ち家を自身に貸し出して帰属家賃サービスを生産する主体でもある。また、企業の生み出す利潤(営業余剰・混合所得)は、当期に生産した財・サービスの市場価値を生産途上のもの(仕掛品)も含めて合計した上で、原材料などの中間投入とSNAの概念に合わせて推計された雇用者報酬、固定資本減耗などを差し引いて算出されたものであり、企業会計における利益とは概念・範囲においてやや異なるものとなっている1。このように、経済学における家計や企業は、我々が普段の社会生活において目にしているものではなく、経済学の考え方によって構築し直されたものであるといえる。このため、国勢調査や経済センサスなどの結果を集計したとしてもそれだけではGDPを得ることはできず、SNAの概念・範囲に基づいた調整を行った上でGDPを算出することになる。また、国勢調査や経済センサスなどの全数調査も国内に存在するすべての経済主体をカバーしたものではないため、不足する部分1雇用者報酬は、概ね給与に相当するものであるが、雇用者が直接受け取ることはない社会保険料の企業負担分や、企業から雇用者に付与されたストックオプションなども含んでいる。また、固定資本減耗は、減価償却費に相当するものであるが、ダムや道路などの社会資本の減耗分も範囲に含んでいる。はじめに1現在、マクロ経済分析を行うにあたり最も重視される指標の一つに国内総生産(GDP)がある。GDPは、国民経済計算(SNA)という一国の経済を対象とした勘定体系に含まれるデータの一つである。マクロ・レベルの経済指標としては、GDPの他に失業率、有効求人倍率、物価指数、景気動向指数、日銀短観などが挙げられる。これらの指標と比較して、GDPやSNAが持つ特徴は、様々な統計データを複雑に組み合わせて作成された加工統計(二次統計)であるという点である。マクロ経済を対象とした加工統計には、産業連関表、資金循環統計、国際収支統計などがあり、SNAはこれらを包括した体系として整備されている。これらの加工統計は、経済学の発展とともにその概念や枠組みが構築され、この100年ほどの間に発展してきた。その背景には、経済学が発展していく中で、データに基づく分析が求められるようになり、そのための情報としてSNAやGDPが整備されてきたという経緯がある。現代のマクロ経済学や関連する諸分野では、SNAやGDPなどの加工統計の情報が欠かせない。経特 集社会科学におけるデータ分析特 集社会科学におけるデータ分析

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