cuc_V&V_第54号
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44千葉商科大学経済研究所 客員研究員塚田 修TSUKADA Osamuプロフィール早稲田大学理工学部大学院卒業後、独国Stuttgart工科大学へ国費留学。ドイツ工作機械企業、スイス多国籍企業、米国企業勤務。INSEADのManagement Development Program終了。McGill大学MBA取得。一橋大学大学院ICS(International Corporate Strategy)にて博士(経営)取得。香川大学大学院地域マネジメント科教授、関東学院大学経済経営研究所客員研究員を経て千葉商科大学経済研究所客員研究員。日本のGDPは過去30年停滞しているとはいえ世界第3位である。しかし、日本生産性本部発表によれば2019年の日本製造業の一人当たりの労働生産性は、OECD加盟31か国中第26位で1970年以降最も低かった。コロナ禍を起点として再認識された日本のデジタル化の遅れがその生産性低迷要因の1つとして議論されている。近年、GAFAM をはじめとするICT界の成長は他業界にも大きな影響を与えている。DX、IoT、ビッグデータ、AI、ICT、 ERP、 MES、プラットフォーム等横文字のバズワードがマスコミを賑わせ出版物も多い。デジタル化に関心がある経営者にとってどうすれば自社へ導入し業績を上げることができるかという視点で考えると各著者の主張は明確なのだが全体像がわかり難い。本稿において製造業のデジタル化で知られているインダストリー4.0にフォーカスして論を進めたい。インダストリー4.0は製造業がGDPの約24%を占めるドイツの国家プロジェクトとして2011年に発足した。G7の中で製造業がGDPの20%を超える国は日本とドイツだけである。日本の製造業を取り巻く内外環境もドイツと類似点が多いため有効な参考となる。総務省が2021年7月に公表した「情報通信白書」によると2020年までにDXに取り組む企業は22.8%に達したが製造業に絞ると5%前後とその動きは鈍い。また、本稿の第4章の「調査と考察」のところで述べるように筆者らが実施した中小企業の経営者を対象としたインダストリー4.0に関するアンケートの結果は経営者の持つインダストリー4.0効果についての認識の混乱を示唆しているようである。事実、インダストリー4.0を代表とする製造業のデジタル化は戦略から活用技術面まで多岐にわたり総合的なものである。そのうえ、これまでの価値観と対立する点も多く、中小企業経営者にとってわかり難いと想像される。その導入効果が、中小企業にとって、わかり難いことはインダストリー4.0の普及促進の主要機関であるドイツ工学アカデミーも認めている(Schu,et.al,2020)。インダストリー4.0発足の背景には需要と供給面がある。需要面として、新興国の急激な追い上げと競り合いによる製造業のパラダイムシフト(ものづくり白書,2021,2020,2019)、製造業労働者の不足・高齢化、顧客要望の多様化等、一方、供給面としては急速なテクノロジー進化(ムーアの法則やインターネットの出現)とIT機器の急激な普及と価格下落という面がある(エリック・シェイファー、2017)。ドイツ(Yoram Koren,2010)は自動車製造の歴史を図1のようにとらえている。19世紀の富裕層向けの個別受注生産が始まり、20世紀にフォードシステムによる大量生産による大衆への普及、1950~2000年代、トヨタ生産システム出現により多品種少量生産が飛躍的に普及した。しかし、新興国も追いつき今後、ドイツは個別受注生産品へ移行せざるを得ないと考えている。これを実現する生産方式として、幾つか1.はじめにインダストリー4.0とイノベーションのジレンマ

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