cuc_V&V_第54号
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521 「社会的責任」とコンプライアンスの関係(1) 社会的責任の概念千葉商科大学経済研究所 客員研究員角 信明SUMI Nobuakiプロフィール1968年生まれ。博士(政策研究)(千葉商科大学)。中央大学卒業後、金融機関に勤務。2001年より同勤務を続けながら、杏林大学大学院(修士課程)、千葉商科大学大学院(博士課程)へ通い、法律および会計面から開示について研究。主要業績として、単著『非上場会社の会計ディスクロージャー理論』(南窓社、2015年)、「「国の財務書類」の研究-企業会計的アプローチの限界と学際的アプローチの試み-」『経営行動研究年報』第30号(2021年)ほか。1 株式会社であっても、実質個人事業と同じ場合、すなわち当該会社の代表取締役が一人でかつ株主と同一人物であり、その代表取締役以外に従業員がいない場合(以下「一人会社」)は、「組織」とは言い難く、社会的影響も限定的といえる。そこで、本稿が対象とする「非上場会社」は「有価証券報告書提出会社以外の会社」から「一人会社」を除いた株式会社とする。また、会社法435条2項および会社計算規則59条1項では、計算書類を貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表と定めているが、本稿ではこれに事業報告・附属明細書・監査報告・会計監査報告等も含めて「計算書類等」と表記する。2 角信明(2015)『非上場会社の会計ディスクロージャー理論』南窓社, p.18。なお、同書では便宜的に、上場会社も含めて包括的に表現する場合は「計算書類等」とは別に「財務諸表等」と表記している。 産経新聞ウェブサイト, 2018年5月11日,「【ビジネスの裏側】なぜ出さない決算公告 法で義務付けも実態は数%? 罰金も適用少なく」, https://www. sankei.com/west/news/180511/wst1805110002-n1.html。なお、本稿脚注に記載のウェブサイトの確認日は本件を含め全て2022年9月11日。 LIJIE YANG, ZHANHAI GUO, “Evolution of CSR Concept in the West and China”, International Review of Management and Business Research, Vol. 3 Issue.2, June 2014, pp.819-826。3 4 非上場会社の会計ディスクロージャーで法令により定められているものとしては計算書類等の公告(会社法440条、以下「決算公告」)がある1。しかし、決算公告で開示される計算書類等は「貸借対照表」(大会社の場合は「貸借対照表」と「損益計算書」)のみであり、会計ディスクロージャーを「全ての人がわかりやすい意味のある情報を等しくかつ容易に入手可能なように財務諸表等を提供すること2」と定義すると「会計ディスクロージャー」の機能としては不十分である。昨今、会社の不祥事や環境破壊の問題などを背景に、会社に「社会的責任」を求める声が強くなり、その対象は上場会社だけでなく非上場会社にも及んでいる。非上場会社といえども、自らが社会、経済および環境に与える影響について説明責任を負うべきであり、決算公告で開示する以外の計算書類等についても「社会的責任」として開示(会計ディスクロージャー)すべきといえよう。しかし、現実には法定の決算公告ですら現在でも「株式会社全体の数%にとどまっている3」と言われており、長期間違法状態が放置されているのが実態である。また、会計ディスクロージャーを行っても、それが虚偽記載であった場合の被害者に対する救済措置も不十分であり、このままでは非上場会社の会計そのものに対する信用を失いかねない。そこで、本稿では非上場会社の会計ディスクロージャーを「社会的責任」の視点から考察し、問題点を明らかにするとともに、具体的な対応策を検討する。「社会的責任」の概念は、1924年にイギリスのオリバー・シェルダンによって、会社が自らの利益を追求しながら地域社会の利益を改善する責任に言及したのが始まりと言われ4、「企業の社会的責任」(Corporate Social Responsibility)として発展した。その概念は「会社は株主のための存在」と考えるアメリカと、「会社は株主だけでなくステークホルダーのための存在」と考える欧州とでは異なる発展を遂げる。アメリカでは地域への寄付を通じての社会貢献となり、欧州では本業を通じての環境や雇用問題への取り組みへと進化する。日本へは2000年代初頭にアメリカ型の概念が導1.はじめに2.会計ディスクロージャーと「社会的責任」非上場会社の会計ディスクロージャーの社会的責任と虚偽記載

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