高齢期の住まい方、あなたは”そのまま住み続けますか、引っ越しますか”Part.1

2016年8月3日

イメージ家高齢社会を迎えて、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、有料老人ホーム、訪問看護・介護など、高齢者のための施設、サービスは増加してきています。ただ日本の医療と介護は制度も複雑で、その仕組みの全貌はもとより、どこに本質的な課題があるのか分かりにくいのが実態です。
最近は、一般サラリーマン向けと言われるサービス付高齢者向け住宅(サ高住)の整備が進んでいますが、特別養護老人ホームの待機者(入所申込者ベース)が52.4万人(2014年)にも達すると言われると、介護の必要性が現実になった時はどうなるのか、心配になります。特養にも入れず、サ高住にも入る資金もない場合は、主に在宅でのケアを受ける必要がありますが、とりわけ、増加する単身高齢者が介護を受けるのに適した在宅環境をどう確保するかは大きな課題です。

今、政府は地域包括ケアシステムの構築に向け、医療・介護について、「入院から外来へ」、「専門医療からプライマリケアへ」、「長期療養病床から施設、在宅へ」、「医師から看護師・介護者へ」といった4つのパラダイムシフトを求めています。そしてこれらを横断的に貫く政策テーマが、「在宅医療・介護をいかに実現するか」です。

住み慣れた地域の自宅で老後を過ごしたいという本音は否定できません。しかし、整備費と維持費などの財政負担が続く上に人口減少社会でお荷物になる施設ケアに問題はあるとしても、一か所にまとめて世話する集団ケアに比べて在宅サービスの提供は効率が悪く、家族の“労働負担”も重くなるため、社会全体のコストで見た場合、必ずしも在宅ケアの方が効率的になるとは言い切れません。また、「在宅」ということ自体も、医療機関や介護施設などに行ったり来たりしながら「在宅」を基本に生活していくという意味で捉える必要があります。

本当の老後対策は住まい方

こうしたことから、高齢期の住まい方も、一人ひとりの生き方や価値観、資産、家族構成が異なるように、それぞれの方にふさわしい考え方をする必要があります。

50年前の夫婦では、夫の55歳定年退職から死去までの期間は十年に満たず、高齢期はまさに「余生」でした。ところが、現在、高齢期は三十年以上になっており、心身状況や家族・経済状況の変化に対応して、住まい方に工夫が必要となっています。この三十年のうち最初の十年は夫が現役で、子離れしながらゆとりある生活を楽しめる円熟期、次の十年は、夫が退職して夫婦で悠々自適に過ごす引退期です。その後の十年以上が、夫婦いずれかが健康に不安を抱え、お互いに看取ることがあるかもしれないいわゆる老後期となりますが、適切な住環境と周囲からの支えがあれば、穏やかに過ごすことのできる期間にもなります。そしてこの老後期を、安心して安全、快適に生活できる環境、即ち住まい方を得られるかどうかが、いわゆる「老後問題」の本質と言えます。

高齢期の生活の基本姿勢

以前、高齢者は「弱い人」だと考えられていました。今は、心身が衰えることはあっても、「高齢者=弱者」という捉え方はするべきではないと言われます。そして生き生きと老後生活を過ごすための基本姿勢は主に三つといわれます。

第一は、「自分で決めること」です。高齢者は立派な「大人」で、住まい方について助言や判断材料は必要ですが、「他人の決定に従うこと」は、衰えのきっかけになります。

第二は、「自分自身の持つ力を出しきること」です。幾つになっても何かの「役割」を担い続けることです。住まい方についても、「大変だから他へ移った方が良い」という話になりがちですが、その前に、自分の持てる力を出しきっているか、出しきるために住み続けた方が良いか、住み替えた方が良いのかを、よく考えてみる必要があります。

第三は、「生活の連続性を保つこと」です。老後に住み替えをし、以前の住まいと全く連続性がないと、どんなに積極的な人でもなかなか馴染むことはできません。老後に住み替える場合は、住む「箱」は変えても、血縁、知縁、地縁等を含む「環境」はできるだけ変えないことです。

10年前からの心づもり

老後のそれぞれの期間に備えるには、十年くらい前に心の準備を始める必要があります。

円熟期にすべきこと

夫が現役で子供が巣立つ頃から、引退期に備えた準備を始めます。まず、考えなければならないことは、引退期を過ごす場所としてどこが良いかという問題です。退職後、生活の中心となるのは「住む家」で、その場所が引退期を楽しく過ごせる場所かどうか、再チェックする必要があります。

女性の場合は、地域との密接な関係が築かれている場合が多いでしょうが、男性は、その地域に戻ってきた時に、根付くことのできる場所かどうかです。大丈夫なら、今度は家の点検にとりかかり、現役時代のうちに、建替えるなり、リフォームするなり、家の手入れをします。人によっては、田舎での生活や、都心のマンションでの便利な生活を楽しみたいかもしれません。子供との同居を前提に、二世帯住宅を準備する選択肢もあります。この費用等を円熟期のうちに綿密に計画を立てておく必要があります。また、引退期の先には本当の老後期があり、その時の住まい方も含めて将来計画を立てます。

引退期にすべきこと

引退期には、本気で老後期への備えをします。老後期の主役は「女性」になりますから、家と道路との段差などを含めて日常的な買物や通院等の外出や介護サービスを受けやすいかどうか、室内のバリアフリー環境が問題ないかといった居住継続の可能性を見ます。 不具合が小さければ、老後期もその家で暮らすことを前提に準備を始めます。ここで何よりも重要なのは地域、近所にいろいろな面で十分に根をはることで、老後期に要介護期が訪れても、地域のサービスや資源、人との関係に支えられて、大過なく生活が送れることにつながります。

一方、不具合が多ければ、住まいを移す準備を始める必要があります。住み替え先としては小さな距離圏か、子供や親戚等、自分が頼りにできる人の近くです。また住宅は、賃貸アパートやマンション、高齢者専用住宅の他、子供や親戚との同居も考えられます。

住み替えを選択する場合は、家賃等の費用負担方法も考える必要があり、家を処分するのか、貸すのか等、現在の住宅の資産活用を考えることも必要です。

要介護期

老後期には要介護期といわれる、他者からの介護を受けながら生活する局面が訪れる場合があります。要介護の期間は人によって様々ですが、少なくとも平均的にみるかぎり5年程度といわれています。問題はこの期間をどこでどのように過ごすのかです。

老後期への備えが十分で、自分で判断できる場合は在宅のままで要介護期を過ごすことは十分可能です。介護保険制度により、居宅サービスのネットワークがきめ細かく張り巡らされた地域では、それができるようになってきています。

一方、残念ながら自己判断能力が著しく衰えた場合には、常時の介護を受けることができる所に移り住んだ方が良さそうです。介護専用の居住施設が数多く整備されてきていますが、こうした施設の提供主体は、社会福祉法人、医療法人、NPO、民間事業者等、様々で、料金体系も大きく異なっており、自分たちに合う所を選ぶ必要があります。要介護になってからでは、事態が切迫して選ぶに選べないということも多く、周囲の人で移り住み先を決めることも多いようです。できれば、元気なうちに要介護期の入居先リストを作成しておくぐらいの準備が必要でしょう。

ここまで老後の備えと心構えについてご理解いただけたでしょうか? 次回は老後の暮らしと住まいを考える事情の活用、高齢者施設の種類と選び方についてご紹介します。

高齢期の住まい方、あなたは”そのまま住み続けますか、引っ越しますか” Part.2

解説者紹介

教授 吉竹 弘行[人間社会学部教授]
吉竹 弘行 YOSHITAKE, Hiroyuki
[専攻]
経営工学(医療福祉分野における経営管理)