「ダイヤモンド」は誰のために輝くのか? ~天然資源を巡る紛争とその影響

2016年12月15日

イメージ写真日本に住む我々は、日本から遠く離れたどこかの国の悲惨な紛争や深刻な貧困とはまったく接点を持たずに暮らしています。一粒のダイヤモンド原石をめぐり憎しみあいながら奪いあい、殺しあう紛争とは無縁の世界で生きています。薄型液晶テレビのスイッチをいれ、充電の終わったiPhoneでメールをチェックする。スターバックスでコーヒーを飲み、混雑した電車に乗り込む。我々の日常はこのようにして過ぎていきます。その意味では、アフリカのような遠い世界は、我々とは無関係のように思われます。ただし、我々が美しい装飾品を手に入れたり、便利な電子機器を利用できたりするのは、貧困や紛争が続く世界のおかげであるとしたら、どうでしょうか。少しだけ、先進国と発展途上国のつながりを理解していきましょう。

「紛争ダイヤモンド」問題とはなにか?

1990年代末、コンゴ民主共和国、アンゴラ、シエラレオネ、リベリアといった紛争国では、反政府武装勢力が支配地域から採掘したダイヤモンド原石(または希少金属(レアメタル)、木材等)を国際市場に売却し、武器等の資金源として利用しており、紛争の長期化を導いているという「紛争ダイヤモンド」問題が指摘されました。
国際NGOのグローバル・ウィットネスによれば、アンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)は、国内のダイヤモンド鉱床の6~7割を制圧し、ダイヤモンド原石を密輸することで、1992~98年間で約37億米ドルの収益を得たと推定されています。シエラレオネの反政府武装勢力であるシエラレオネ革命統一戦線(RUF)は、隣国リベリアのチャールズ・テイラー大統領の支援を受けて組織されました。RUFはダイヤモンド原石の密輸による資金をもとにリベリアから大量の武器を購入し続け、1991年の内戦開始からほどなくして無秩序で残虐な武装集団へと転化していきました。RUFはシエラレオネのダイヤモンド鉱床を含むほぼ東半分を制圧し、密輸により年間1億米ドル程度の収益があったといわれています。RUFは、村々を襲撃する際にこどもを誘拐して強制的に軍事訓練をおこない、こども兵部隊を組織するとともに、現地住民に対する無差別な虐殺、手や足を切断したり、耳を削いだりといった非人道的な残虐行為でも知られています。また、冷戦期にソ連が世界中の紛争地に送り込んだ自動小銃カラシニコフ(AK47)に代表される小火器・軽火器は、軽量で持ち運びが容易なうえに殺傷能力が高く、軍事訓練が未熟な者でもすぐに使用できることを特徴としており、そうした武器が大量にアフリカに流入したことで、こども兵のような「人を殺せる層」が拡大したといわれています。

アフリカで採掘されるダイヤモンド

1990年代後半のコンゴ民主共和国では、「アフリカ大戦」とも呼ばれる近隣6カ国(ルワンダ、ウガンダ、ジンバブエ、アンゴラ、ナミビア、ブルンジ)を巻き込んだ大規模な紛争が発生し、近隣諸国の正規軍に加え、反政府武装勢力、民兵等の複数のアクターが介在してダイヤモンド原石をはじめとする地下天然資源を奪い合う状況が発生しました。国連の調査により、内戦下のコンゴ民主共和国では、ルワンダやウガンダ、ブルンジといった政府軍による鉱物資源の大規模な不法採掘や掠奪が日常的に行われていることが明らかとなりました。コンゴ民主共和国の隣国のルワンダは、ダイヤモンドや金などの豊富な天然資源が埋まっているコンゴ民主共和国の東部地域に大量の兵士を派兵するとともに、ルワンダ人の囚人を強制連行して鉱物資源の採掘を行っていたといわれています。コンゴ民主共和国では、ダイヤモンド原石が河川によって運ばれ、川床の泥土でみつかるような鉱床が多く、採掘可能な地域が広範囲にわたっています。そのため、政府による採掘の管理が難しく、武装勢力はダイヤモンド原石を容易に国外に持ち出すことができたのです。同国で不法に採掘されたダイヤモンド原石は、密輸を通じて年間4~6億米ドル程度が国際市場に出回っていたと推定されています。また、ダイヤモンド原石以外にもタンタルと呼ばれる希少金属の密輸も問題となりました。タンタルは、耐熱性を有する電解コンデンサとして、携帯電話や家庭用ゲーム機等の電子機器の製造に不可欠な鉱物で、ダイヤモンド原石と同様に、武装勢力の資金源となっていることが指摘されました。

アフリカの紛争と国際市場、国際NGOとの関係性

以上にみたような、アフリカで展開される紛争と国際市場とが密接に関連していることが国際的な注目を浴びるようになったのは、国連によるダイヤモンド禁輸措置の発動やグローバル・ウィットネスといった国際NGOによるキャンペーンの実施が契機となっています。2000年5月には、国連および国際NGOが中心となってキンバリー・プロセスと呼ばれるダイヤモンド原石の採掘、流通に関する新たな規制枠組みの構築を目指す協議が開始され、2003年には、ダイヤモンド取引の規制強化と産出国へのキンバリー・プロセス特別査察団の受け入れ、すべてのダイヤモンド原石に対する原産地国証明付与の義務付けを規定したキンバリー・プロセス認証制度(KPCS)が実施されるようになりました。
また、金の採掘に関しても、米国NGOのアースワークスとオックスファム・アメリカが共同して金鉱山周辺の地域社会、環境や労働者などへの十分な配慮なしに採掘することに反対する「クリーンな金」(No Dirty Gold)キャンペーンを展開しています。また、アフリカのなかで有数の産金国であるマリ共和国では、カナダ、イギリス、アメリカなどの資源メジャー企業が金の大規模採掘を続け、年間2,850トン(2014年)もの金が採掘されていますが、国際NGOのヒューマンライツウォッチの報告によれば、マリ国内に350カ所も存在する露天掘り鉱山では、40万人ものマリ人鉱夫が金を採掘しています(うち2~4万人の児童労働も含まれていると推算される)。国内に散在する露天掘り採掘では、金の分離作用を促すための水銀の使用による健康被害が生じ、地下坑での採掘や鉱石の運搬作業、掘削作業に加え、危険な立坑での滑落、崩壊等による過酷な労働環境も報告されています。

発展途上諸国で産出される炭化水素資源(石油・天然ガス)や一次産品(コーヒー等)、鉱物資源(ダイヤモンド、金、レアメタル)は、我々の生活に不可欠、当たり前のものになっていますが、それらがどのように採掘され、我々の市場に提供されているのか、少しだけ考えていってもらいたいと思います。


(注)本稿は、拙稿「多発する紛争と資源収奪」中村都編著『国際関係へのファーストステップ』法律文化社、2011年に加筆・修正を加えた。

解説者紹介

准教授 吉田 敦[人間社会学部准教授]
吉田 敦 YOSHIDA, Atsushi
[専攻]
国際経済論、アフリカ経済論、資源開発論、国際関係論