日本を観光が救う?

2017年5月15日

外国人旅行者「日本は特殊な国」と言われて、ピンとくることはありますか? ない人の方が多いかもしれませんね。
近年、アメリカではトランプ大統領の誕生、イギリスではEUの離脱など、驚くようなニュースが相次いでいます。多くの人が「まさか!」と思ったニュースの背景には、移民・難民の流入に対する両国民の複雑な思いがあります。イギリスは世界中に移民を送り出してきた歴史があり、アメリカは「移民の国」と言われるほど、世界中の移民を受け入れてきました。その両国は今、増え続ける移民・難民によって自分の仕事が奪われてしまうのではないか?という国民の不安が高まり、アメリカでは移民の制限を掲げたトランプ大統領への投票、イギリスでは国民投票によってEU離脱を選択することになったと考えられています。

人口減少と地方の課題

人口の増減は国に何らかの影響をもたらしています。アメリカとイギリスが人口の増加による問題を抱える一方で、日本は人口の減少に直面しています。最近、「日本の人口は2053年に1億人を下回り、2065年には8808万人なる」というニュース1がありました。2016年の人口が約1億2700万人だったので、50年後は30%も減少することを意味しています。また、岩手県知事や総務大臣を務めた増田寛也氏編著のベストセラー『地方消滅』2では、首都圏の超高齢化による医療・福祉の人材不足が深刻化し、地方でこの分野に従事する人材が東京に引き寄せられる可能性が指摘されました。このことは、出生率の低い首都圏に若年層が移動することによって、日本の少子化がさらに進んでいくことを示唆しており、とても厳しい見通しです。このように、世界とは逆を行く人口問題に関して、日本は「特殊な国」と言えるでしょう。

人口の減少がもたらす社会への影響はさまざま考えられますが、中でも最近、地方消滅という言葉を耳にするようになりました。首都圏に人口の集中が進めば、地方の消滅も起こりうるかもしれません。そのようなことが起こらないように、「地方創生」を重視する安倍政権は、地方創生担当大臣を任命し、「まち・ひと・しごと創生本部」を設置して、対策に取り組んでいます。地方が消滅しないためには、元気な「まち」が必要ですが、「まち」が成り立つにはそこに多くの「ひと」がいなければなりません。そして、その「ひと」が生活していくためには「しごと」も必要です。「まち」「ひと」「しごと」は繋がっていて、「ひと」が「しごと」を生み出し、「しごと」が「まち」を元気にしているのです。

では、どんな「しごと」が「まち」を元気にするのでしょうか? どんな「ひと」が「まち」を元気にする「しごと」を生み出すのでしょうか?
この問題解決のキーワードは「観光」です。行ったことのない場所に行く、見たことのない景色を見る、違う文化を体験する。このような旅行や観光の醍醐味が、実は人口が減少する日本を救うことができるかもしれません。その理由を探ってみましょう。


  • 1朝日新聞 2017年4月10日(http://www.asahi.com/articles/ASK475JJVK47UTFK010.html)より
  • 2増田寛也編著『地方消滅』(中公新書)中央公論新社、2014年

外国人旅行者を日本へ

話は少し飛びますが、世界で最も多くの旅行者を引き付けているのは、どこの国だと思いますか?
世界遺産の絶景、古代から現代までの文化や自然にも触れることができ、買い物も楽しめる。エッフェル塔、ルーブル美術館、海の上に浮かぶようなモンサンミシェル、青い海が広がるリゾート地ニースと言えば、フランスですね。フランスの人口は約6600万人ですが、フランスを訪れる外国人旅行者は年間約8400万人3で、人口の約1.3倍にあたります。外国人旅行者の多い国は順にアメリカ、スペイン、中国、イタリアと続きますが、3位のスペインを訪れる旅行者の数は、人口約4600万人の約1.5倍にあたる約6800万人に上ります。

さて、日本はどうでしょう?
日本を訪れる外国人旅行者は約2000万人ですが、これは人口の約16%にすぎません。ランキングも16位で、人口を上回る旅行者で賑わうフランスやスペインと比べると、さびしい感じがします。それでも2000年には約500万人だった旅行者が、2016年には約2400万人にまで増加しました。それは、日本の魅力に多くの外国人が気付き始めている証拠です。これから日本は2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催で、旅行者がさらに増加することが見込まれていますが、このようにたくさんの外国人旅行者が日本を元気にすると考えられています。日本には、東京や京都といった世界有数の観光都市もありますが、地方を見渡せば、自然の美しい景色や、地方ならではの文化やおもてなしなど、外国人にはまだ知られていない魅力がたくさんあります。それは私たちもまだ気付いていないものがあるかもしれません。

私たち日本人は日ごろの生活で質素・倹約の精神を大切にしています。しかし、旅行者の視点では、日本に来たからには「お寿司を食べてみよう」「温泉に入ってみよう」「着物を着てみよう」「お土産を買っていこう」という気持ちがわいてきて、いろいろなことにお金を使いますよね。実際、1週間から10日間の滞在で、1人の外国人旅行者が日本で支出する金額は約15万6000円4だそうです。普段の生活であればそんなに多くのお金を使うことはありませんが、それこそ旅行や観光の楽しみと言えるでしょう。そこで、観光が日本を元気にするキーワードになってきます。


  • 3日本政府観光局作成「2015年世界各国・地域への外国人訪問者数ランキング」(http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_statistics.html)より
  • 4観光庁「平成28年訪日外国人消費動向調査」(http://www.mlit.go.jp/common/001179539.pdf)より

世界に日本の魅力を発信しよう

日本各地の魅力をもっと世界にPRすれば、今まで外国人旅行者が訪れなかったような地方にも人が集まるでしょう。移動のための交通機関、各地の飲食店やホテル・旅館、観光施設、土産物屋など、多くの業界にプラスの影響があり、日本の経済が元気になります。事実、2016年には外国人旅行者が日本への旅行で総額約3兆7000億円の消費をしたことも分かっています。外国人旅行者が増えることで、地方のまち、ひと、しごとが活性化すれば、人口を増やすことはできなくても、地方消滅という危機を乗り越えることができるかもしれませんね。

外国人旅行者の観光が日本を元気にする理由が分かってきたと思いますが、もっともっとたくさんの旅行者を誘致するためには、まず私たちが改めて日本各地の魅力を再確認する必要があることは言うまでもなく、それを積極的に発信していくことも大切です。東京都の調査結果5によると、外国人が東京で観光した場所は1位から順に、新宿・大久保、浅草、銀座、秋葉原、渋谷となっています。そして、そこで何を楽しんだかと言うと、1位は日本食、2位が日用雑貨、食品などのショッピング、3位が景観や建物でした。私たちには見慣れた景色も食べ慣れたものも、外国人にとっては初めて見る素敵な景色、初めての味ばかりです。そのような外国人に魅力となるものを発見し、PRしていくことが、これからの日本を元気にする鍵になるのです。

もし、フランスのように人口の1.3倍の旅行者が日本を訪れたら、その数はなんと1億6000万人! 今より7倍近く、外国人旅行者が日本で消費する金額も約25兆円になるわけですね。例えば消費税を1%引き上げた際の税収の試算が2兆円なので、その金額の大きさは簡単にイメージできると思います。人口の減少は、日本の社会や経済がどんどん小さく、どんどん元気がなくなっていくという心配もありますが、観光という「しごと」で日本を元気にできるチャンスはある! 特に、東京オリンピックは日本を世界にPRする絶好の機会です。日本をPRできる「ひと」こそが、これからの日本を救う「ひと」と言えるかもしれません。


  • 5東京都「平成27年度国別外国人旅行者行動特性調査」(http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2016/09/14/documents/14_01.pdf)より

解説者紹介

教授 伊藤 康[人間社会学部 学部長]
朝比奈 剛 ASAHINA, Takeshi
[専攻]
経済学