時論

内田茂男学校法人千葉学園理事長(元日本経済新聞論説委員)による時論です。ときどきの社会経済事象をジャーナリストの視点で語ります。

11月上旬にアメリカで中間選挙が行われました。上院では、与党、共和党が多数派を維持しましたが、下院では民主党が多数派の座を奪回する結果となりました。今回の選挙戦を眺めていて驚いたのは、CNNテレビやNYT(ニューヨークタイムズ)が連日、激しく「トランプは嘘つきだ」という批判を続け、一方のトランプ大統領が支持者の集会で言いたい放題を繰り返したことです。

NYT国際版は11月2日付けで10月22日から10日間のトランプ氏の発言(WHAT MR.TRUMP SAID)を、「False(嘘)」 「This lacks evidence(証拠なし)」に整理して掲げました。以下はその代表例(要旨)です。

  • トランプ氏の発言:
    わたしはこの国の歴代大統領で最も人気のある1人だ。(10月22日 ヒューストンでの集会で)
  • 嘘:
    各種調査では正反対。歴代で最も不人気な大統領の1人だ。2月に行われたバージニア大学などの調査では最近の12人の大統領の中では3番目に不人気な大統領だ。
  • トランプ氏の発言:
    アメリカは世界で断トツに空気のきれいな国だ。(10月24日 ツイッターで)
  • 嘘:
    世界保健機構(WTO)のデータベースによると、カナダ、アイスランド、スウェーデン、フィンランド、エストニア、ニュージーランド、オーストラリア、ブルネイの8カ国の空気がアメリカよりきれいだ。

こんな調子で半ページが埋められています。またCNNは先日、トランプ氏の嘘やミスリード発言は合計6,420もあるとニュースで流していました。

しかし、トランプ氏は馬耳東風と受け流し全く動じる気配はありませんでした。というよりこれらの報道に関心がないのかもしれません。これも驚きです。トランプ陣営の集会の様子もひんぱんにテレビで紹介されていましたが、ある種、熱におかされたオカルト集団の会合のような雰囲気が感じられました。これでは「彼の言っていることは嘘八百だ」と証拠を揃えて言ってみてもなにも伝わらないのではないかと思いました。あるアメリカの高名な社会学者は、彼の支持者を「低学歴の白人で熱心なキリスト教徒」と表現していますが、戦後のアメリカ経済の成長の恩恵にあずかっていない「置き去りにされたと思っている人々」とも表現しています。2年前の大統領選挙で姿を現し始めたこの岩盤支持層が今回の中間選挙では表舞台に登場した感じです。

この流れがいつまで続くのでしょうか。筆者は彼らに経済的な恩恵が及ばなければ熱気は冷めていくだろうと考えています。1991年の大統領選挙でクリントン陣営の選挙参謀が叫んだように「問題は経済なんだよ、諸君!」なのだと思います。この視点でみると、次の大統領選挙では少し風向きが変わる可能性があります。アメリカ経済はいまは絶好調だといえます。これにはトランプ政権の減税政策も寄与しています。景気循環からみますと来年までは3%台の成長が続くとしても、そろそろピークを迎え、減税効果が薄れる2020年以降、下降過程に入る公算が大きいのです。
(2018年11月29日記)


内田茂男常務理事

【内田茂男 プロフィール】
1941年生まれ。1965年、慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、現在、学校法人千葉学園常務理事、千葉商科大学名誉教授。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)
『新・日本経済入門』』(共著、日本経済新聞出版社) ほか