学長コラム

本学の取り組みや教育活動、学生たちの活躍などの最新情報を中心に、時折、原科学長の研究テーマである参加と合意形成、環境アセスメントに関連した話題もお届けします。

皆さん、こんにちは。
本学では、4月3日(火)に学部、7日(土)に大学院の入学式を執り行いました。心よりお祝いを申し上げます。
さて、昨年の学部入試ですが、本学の人気はうなぎのぼりで、1,400名の募集人員に対して、8,000名近くもの志願者がありました。一部、重複はありますが、約5.7倍の倍率でした。このような話題をお伝えでき、大変嬉しく思います。

武士的精神と倫理教育

さて、皆さまもご存じのように、本学は商業道徳の教育を建学の理念として、1928年に設立されました。爾来、今年で90周年を迎える伝統ある大学です。
社会科学系の総合大学となりましたので、今では商業道徳だけではなく、より広く、専門家の倫理教育が教育の基本理念ということになります。倫理教育を行うために、本学創設者の遠藤隆吉先生は武士的精神の注入が急務であると指摘しました。
武士と言いますと何か古臭い、封建的な感じがしますが、その意味は、日本のモラルの根源としての武士道です。これは、明治の時代に国際人として活躍した新渡戸稲造博士の著書『武士道』に書かれている武士道のことです。
新渡戸稲造は大変英語が堪能で立派な本を出しました。世界中に広がり、何と30数カ国で翻訳が出たほどで、当時の国際的なベストセラーです。その『武士道』の中で日本のモラルの根源を説明しました。なぜ彼がその本を書いたのかというと、それは当時、日本の明治官僚のモラルが大変高かったからです。

欧米列強は植民地化をしてきて、色々な国の支配階級を賄賂で動かそうとしました。ところが、日本に来て、同じように賄賂を使おうとしたところ、全く通用しなかったのです。当時の官僚は武士階級で、任命制で官僚になった人が多く、お金で動かそうとすると「無礼者!」となります。欧米の人たちから、このモラルの高さの説明を求められた新渡戸稲造は、これに答えようということで、英語で『武士道』を書きました。彼は国際連盟で事務局次長まで務めた国際的な人ですが、欧米の文化的背景や歴史的背景を交えて説明したものですから、大変説得力がありました。

正しく継承され、未来永劫、持続可能な発展へ

商業は人と人との交流であり、未知の人と国や民族を超えて交流するには、相手を信頼し、約束を守る倫理が存在しなければなりません。そのためには、日本古来の持続可能性の視点で世界を見て、行動の規範である武士的精神を涵養することが重要です。本学の前身である巣鴨高等商業学校設立の意義は、当時の商業道徳の頽廃を正すことにありました。

この武士的精神とは、上述のように新渡戸稲造のいう武士道で、相手を慈しむ心、仁であり、それは相手への信頼に繋がるものです。鎌倉時代以降、武士道は、多くの日本人の行動基準、道徳規準として機能してきました。武士道の中には、慈愛、忍耐、勇気、惻隠、名誉、恥という意識も含まれており、根底には、「卑怯なことはいけない」「大きな者(強い者)は小さな者(弱い者)をやっつけてはいけない」「金銭よりも道徳を上に見る」という道徳観、行動基準があります。これらの精神を本学の教育を通じて涵養していくことが我々の使命です。

そして武士とは義に生きる人です。義とは正しいこと。正しいことを貫くためには、何が正しいかを判断する力が必要です。そのために、学生たちが沢山学べるように、専門教育だけでなく、教養を深めて視野を広げられるように教育していくことが大切です。時代がどのように推移し、社会がいかに変貌しようとも、本学の教育の根底には、常にこの精神が脈々と流れています。

※この碑に刻まれている「生々主義」は、本学建学の趣旨である治道家育成・実学尊重の原点となるものです。碑の文章は、パンタライ(万物は流転する)に始まり、続いて「生々主義」の要旨を英文で刻んであります。是非、この「生々主義」の碑を見てください。

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