学長コラム

本学の取り組みや教育活動、学生たちの活躍などの最新情報を中心に、時折、原科学長の研究テーマである参加と合意形成、環境アセスメントに関連した話題もお届けします。

皆さん、こんにちは。
5月16日、経済産業省は日本の新たなエネルギー基本計画の原案を取り纏めました。皆さんも報道でご覧になったと思いますが、原案では、太陽光や風力など再生可能エネルギーについて、主力電源化をめざす方針が初めて盛り込まれました。また、2030年度の電源構成比率は、再生可能エネルギーが22~24%、その一方で、原子力発電は20~22%というこれまでの目標を据え置く形になっています。

再生可能エネルギー後進国と呼ばれる日本の政策

日本の政府は安倍政権になってから随分と方針を変え、原子力発電の重みを高めました。しかし、これまでの経緯を見ると、実質的には原子力でそれほどは電力を供給できないという事実があります。平均して1~2%で、ゼロの時も通算で3年程ありましたから、実際には原子力発電の電源構成比率20-22%を達成するのは、再稼働や廃炉の状況をみても不可能です。私も含め、専門家の多くはそのように言っています。政府はそのようなことも背景にあり、再生可能エネルギーに重点を移してきたと思っています。

さて、再生可能エネルギーに重点をおくのは今や世界の趨勢です。特に隣国の中国は、大幅にエネルギー政策を転換し、この分野の技術力も急速に向上しています。例えば風力の発電能力は世界一ですし、太陽光発電導入量も世界一。これまでは石炭火力に依存していましたが、CO2排出量は世界の約3割、世界で一番高い数値となっていることからも、設備の容量を抑制し、それを一気に切り替えようとしています。世界はそういう流れになっていますから、日本だけが立ち後れるわけにはいきません。ようやく再生可能エネルギーに重点する方針を打ち出したのだと思いますが、私としては政策の切り替えが遅い印象です。

日本の恵まれた自然エネルギー資源と優れた技術

日本は太陽光、太陽熱、風力、小水力、バイオマス、地熱、潮力、波力など、自然エネルギー源が、世界各国と比較しても、突出して素晴らしい条件に恵まれています。自然エネルギーの宝庫ですから、化石燃料やウランのような海外からの燃料供給の必要はありません。化石燃料の輸入が不要なら燃料購入費は地域外に出ず、地域内で循環します。 また、再生可能エネルギーに対して、電力の安定供給を懸念する声が聞かれますが、日本の技術は進化しています。多様なエネルギー技術の研究開発もなされています。日本の技術開発を推進すれば出来ることで、それを生かさない手はないのです。国益上で考えたら、早く日本の自然エネルギーを活用できるようにしなければなりません。

地域分散型エネルギー社会への転換

だからこそ今、我々はそれを考え、実行してきています。再生可能エネルギーで持続可能な社会にチェンジするということです。
それが千葉商科大学の取り組む「自然エネルギー100%大学」です。我々は再生可能エネルギーでできることの実例として、「まず、隗より始めよ」という考えで、日本初の「自然エネルギー100%大学」に取組んでいます。
この「自然エネルギー100%大学」の意味は、大学で使用する電力量に相当するものを、再生可能エネルギーにより自ら発電するものです。先進企業が宣言しているRE100は企業を対象とする電力の再生可能エネルギー100%ですが、本学のものは、いわばRE100の大学版です。日本国内の大学では初の試みですが、私たちの規模のケースをモデルに多くの大学や中小企業が、事業所単位で目標を立て、RE100をめざしてゆけば、日本全体で、自然エネルギー100%の社会へ進化することができます。

本学では2018年3月に、電力量での自然エネルギー100%を計算上では達成しました。施設の照明をLEDに切り替え、野田メガソーラー発電所のパネルも増設しました。いまは実績値を検証している最中です。
そして我々はさらにこの先、電力だけでなく、熱まで含めて、使うエネルギーすべてを自前で賄おうとしています。次のステップでは、より高い段階に進み、チャレンジしていきます。プランでは可能性が見えてきています。
我々をモデルに徐々に各事業所にそのムーブメントが拡がり、エネルギー地産地消型の社会へ転換されれば、雇用も生まれ、産業構造も変わります。民間の力、商いの力で、地域分散型のエネルギーを広げ、持続可能な社会へと変えて行くことができるはずだと私は考えます。原子力発電所の事故をきっかけに、実はコストが高いことが明確になった原子力発電への依存から脱却し、再生可能エネルギーを使う地域分散型のエネルギー社会に移行することこそが日本の将来を切り拓くことになります。

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