TPPって何、どうして賛否があるの?

2013年5月21日

昨今問題となっているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定:Trans-Pacific Partnership、以下TPP)とは、環太平洋地域の国々による貿易と経済の自由化を目的とした参加国間の経済協定のことです。それは加盟国の間で取引されるあらゆる品目に対して輸入品への税金、関税を原則100%撤廃し、投資等も自由にしようという協定で、これから交渉がおこなわれます。この協定はシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4ヵ国の間で2006年に締結されたFTA(自由貿易協定)である「P4協定」に起源を持ちますが、その後、アメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが順次、遅れて参加し、2012年に入ってメキシコ、カナダが加わりました。最後に滑り込んだのが日本です。その結果、アジア太平洋地域の計12ヵ国が参加する協定交渉になりました。発足当時は小規模でしたが、現在では日本を含む12ヵ国が2015年の関税全廃に向けて交渉を続けています。この交渉がまとまると、アジア・太平洋地域に世界のGDP(国内総生産)の40%近くを占める一大自由貿易圏が誕生することになります。
ですが、日本国内には賛否両論が渦巻いています。なぜでしょうか。それは国内諸産業それぞれにメリット・デメリットが明確に分かれているからです。それぞれについて整理しながら検討してみましょう。

TPPへの参加のメリットとは?

私たちの生活は貿易の進展で大変彩り豊かなものになっています。低関税で自由な貿易の恩恵で私たちは様々なものをしかも安く購入することができます。自由貿易によってそれぞれの国が得意な分野・産業に特化して生産し、それを互いに貿易し合うことが世界経済全体にとってプラスに働くという考え方が経済理論にあります。デビット・リカードという経済学者が比較生産費論で説明した理論です。
賛成派の代表格は日本の基幹産業で輸出主導の工業ですが、日本から米国をはじめ加盟国への自動車、家電や産業機械などの工業製品の輸出は相手国の関税がなくなれば価格競争力が増し販売増で利益も増大し、例えば参加国総計の自動車関税は約2千億円でそれがなくなれば自動車の輸出は2,3兆円増加すると政府は試算しています。また消費者にとっても関税撤廃により外国の農産物や輸入消費財が安く買えるようなります。
さらに金融・保険・流通などその範囲が多岐に渡るサービス分野、第3次産業も自由化によって、各国でのビジネスをしやすくなるでしょう。例えば宅配サービス、コンビニエンスストア、観光業、外食産業など海外進出(=投資)を狙う広範なサービス業種などが挙げられます。一方で、TPPへの反対派は何を問題としているのでしょうか?

TPPへの参加のデメリットとは?

TPP参加のデメリットについては農林水産品(234品目)の関税撤廃によって農業諸団体ばかりでなく政府試算でも、TPP参加の数年後には農業生産額が約3兆円減少し、食料自給率(カロリーベース)も今の約40%から27%に激減する見通しを示しています。例えば千葉県も1,019億円の損失と試算され、これは現在の県全体(耕種・畜産)の生産額の1/4程度が減少することを意味しています。内訳では、牛乳は全滅、落花生は40%減、豚肉は70%減、畜産全体は61%減、となり地域経済への影響は大きく、遺伝子組み換え作物の表示も廃止されうるといわれています。
また医療分野では低価格のジェネリック薬(後発医薬品)の市場参入の阻止、特許保護期間の事実上の延長、特許薬の高価格の維持と独占的権利の強化、混合診療の解禁と株式会社の医療機関経営への参入が危惧されています。
さらに投資の自由化では外国投資家・企業に対する新たな広範な法的権利を付与することになり国内法よりも優先されるTPPの規定によって、各国の政策権限が縮小し「一私企業が、国家を訴える」ことが可能になることです。

私たちがとるべき行動とは?

TPPのルールづくりとその交渉は、一体、誰が、誰のために行っているか、そして自由貿易はそもそも本当に「自由」な市場競争の環境下で行われているかについて、また国民のそれぞれの産業と生活分野に即して個々の利害については将来展望を考慮に入れて熟考し調整することが私たちに求められていると言えるのではないでしょうか。現在のグローバル化の時代においては、自由貿易をただ「無条件に良いもの」として受け入れ、国民生活に直結している農林水産業などを「遅れた合理化対象」と見なすことでは済まなくなっています。
問題は、自由貿易そのものではありません。自由貿易の「有り様」です。そして、その「有り様」を形づくっているのは、一体誰でしょうか。声高な利害の先にあるものを見通すことが大事です。
各国の持つ固有の歴史、伝統、文化、風土、経済状況などを考慮しながら、時間をかけてでも各国の国家主権・自主権を必ず尊重し、互恵的で平和的な貿易と投資を進めていくことが大切だと思っています。今こそ相互理解を深めながら、自由貿易の恩恵を各国が対等かつ最大限受けることができるような貿易システムを構想・設計するべきではないでしょうか。TPP論議をきっかけに日本の社会経済のビジョンについて国民的合意が形成されていくことを望まざるを得ません。

TPPの歴史的位置づけ

TPPの背景には、国際経済秩序の大きな構造変化があります。第2次大戦後以来の通商秩序であったGATT(関税貿易一般協定)あるいはWTO(世界貿易機構)といった多角的通商体制から「メガFTA」といった体制への転換です。近年、二国間あるいは複数国間で個別にFTAや経済連携協定を締結する事例が飛躍的に急増しています。とりわけ北米3ヵ国(米国・カナダ・メキシコ)が加盟するNAFTA(北米自由貿易協定)やヨーロッパ27ヵ国(今年5月現在)が加盟するEU、そして東南アジア諸国の国々で構築されたASEANなどはその一つの到達点といえます。同時に、急成長をみせる新興国(BRICs:ブラジル、ロシア、インド、中国など)・途上国をまき込んだ各国のFTA交渉も一層活発化しています。
FTAが隆盛した主な理由は、加盟国数の増加や先進国・途上国間の利害の衝突によって、WTOでの多角的貿易自由化交渉が遅々として進まない状況があげられます。そのため、同じ考えや関心を共有する二国・複数国間や地域間でFTAを締結した方が、より短期間で交渉成果が上げられるという認識が各国に広がりました。加えて、最近では米国・EU間FTAや日本・EU間FTA、そして東アジア域内のFTA(日中韓FTA)など、これまでよりも巨大(メガ)な地域経済圏同士のFTA交渉が開始されています。なぜでしょうか。
統一化された制度や基準をWTOよりも先行して地域レベルでつくりだし、そのルールを世界レベルで標準化していく企てを競い合っているからです。勝利すれば、先行してそのルールに則った経済活動を行っていた企業は結果的に一層競争力を強めることができるのです。
米国はTPPを契機として、将来的には21ヵ国・地域からなるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)を土台にして、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)を創設したいと考えています。経済成長の著しいアジア地域市場の抱き込みと、世界2位の経済大国・中国を米国主導の新ルール(アメリカン・スタンダード)に取り込みたいという戦略です。

解説者紹介

所 康弘 [商経学部准教授]
所 康弘 Tokoro Yasuhiro
[専攻]
国際経済学
[ゼミナール]
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