食品の偽装と情報の非対称性

2013年12月24日

小話

就職活動の時期が近づくと、学生食堂でも就職に関する会話が聞かれます。
これから就職活動をする3年生に向けて、内定取得者の4年生が「やっぱりね~、実力をアピールするために、あれがあった方がいいよ。」
「あれってなんですか?」と後輩達が顔を向ける。
「資格だよ。資格。」
「資格があると、有利になるんですか?」
「ないよりはね。だけど、履歴書に書けないようなパンチのない資格だと意味はないよ。実際、僕が有効に感じたのは○○一級かな~。初対面の面接官にしてみると、学生が有能な人材かどうか、なかなか見極められないでしょ?けど、履歴書に○○一級と書かれてあれば、それなりにアピールになるしね…………」
今回は、面接時の学生と面接官、売り手と買い手の間で持っている情報が異なることを利用して食品の偽装問題を考えてみましょう。

食品の偽装と情報の非対称性

食料品の産地を偽ったり、賞味期限を改ざんしたりと食料品を巡る問題には根深いものがありそうです。食料品を偽装している人も、買い手として食材を購入する立場になるのですから、偽装されたものを購入する気持ちも分かると思うのですがどうなのでしょうか。まず、簡単にこれまでの食品偽装の例を確認してみましょう。

【食品を巡る偽装問題の一部】
  • 2005年 不二家がシュークリームの賞味期限を偽って販売したことが発覚
  • 2007年 石屋製菓が「白い恋人」の賞味期限を偽って販売したことが発覚
  • 2010年 水産加工会社マルナガ水産が中国産ワカメを「鳴門産ワカメ」と偽装して販売していたことが発覚
  • 2010年 相模原市内の養蜂業者がカナダ産やニュージーランド産の蜂蜜を、国産クローバー蜂蜜と偽装して販売していたことが発覚
  • 2012年 関西ベジタブルが中国産タマネギを淡路産タマネギと偽装して販売していたことが発覚
  • 2013年 阪急阪神ホテルズが運営する複数のホテルのレストランにおいて提供した料理の食材がメニューの表示と異なって提供されていたことが発覚

この例は一部ですので、気になる高校生は調べてみると面白いでしょう。国外でも食品偽装問題はあるようですよ。
さて、食料品の偽装問題も先の小話と同じような構造をしています。例えば、お店にグレープフルーツが売ってあったとしましょう。このグレープフルーツ、一瞥しただけでは鮮度がいいのか、悪いのか、農薬の濃度、甘いのか酸っぱいのか分かりませんよね。でも、売り手は、グレープフルーツを仕入れているのですから、鮮度などを、買い手よりも熟知していることでしょう。このように、グレープフルーツという食材について、売り手と買い手とでは、知っている情報に差がある可能性があります。

他の具体例でも考えてみましょう。例えば、「長ネギ」をみてみましょう。いくつか種類があるようです。九条ネギ、万能ネギ、下仁田ネギ、谷田部ネギ……と数十種類もあるようです。それぞれ、形や色、大きさ、味など異なるようです。(興味ある高校生は調べてみてください。)それぞれのネギを調理して料理を提供したとしましょう。調理されたネギの味の違いに気がつく人はそれ程多くないと思います。もちろん、無類のネギ好きや食通の方は、「この食感は……、この薫りは……」と一目瞭然ならぬ一口瞭然でしょう。この例でも同じですね。食材を提供する立場と、食する立場とで知っている情報に差がある可能性があります。それぞれの問題に共通する点は何でしょうか?食品を生産する立場、つまり、「売り手」と、食品を購入する立場、つまり、「買い手」の知っている情報に差があるという点です。

どうして、情報に差が生じてしまうのでしょうか?少し詳しくみてみましょう。いくつかの理由が考えられると思いますが、主たる要因は、売り手(作り手)の行動が外部の買い手(消費者)にはわからないという点にあると思われます。当たり前といえば、それでお仕舞いですが、売り手(作り手)の行動は売り手(作り手)自身がよく知っています。これに対して、買い手は売り手(作り手)の行動を詳しく知るすべがあまりありません。

まとめると、売り手は食品の情報を自分のこととしてよく知り得ている一方で、買い手は、あまり情報を持っていません。食品に対して、売り手は情報優位ですが、買い手は情報劣位になってしまいます。このように、当事者間で情報に差があるという問題を、経済学では、「情報の非対称性」と呼んでいます。

情報量に差があるとどうなるの

食品を提供する売り手と、消費者との間に情報に差があるとどのようなことが起こり得るのでしょうか?先ほどの例を利用して説明していきましょう。

食材を購入する消費者は、提供されている食材の生産地や鮮度などの情報についてあまり分かりません。書かれている文字を信用するしかないのです。これに対し、食材を提供できる立場の売り手は、生産地や鮮度などの情報を詳しく知っています。もし、悪意のある売り手ならどうでしょうか?「生産地などの情報は、消費者には分からないはず」と考えることでしょう。仮に、本来の食材ではなく、類似の、しかし、消費者には見分けがつかない食材を仕入れることで費用を安くすることができるのなら、尚更のことでしょう。売り手は、安価な類似の商品を入手して、本来利用するべき食材として販売することで、多くの利益を受け取ることができます。消費者は食材の見分けがつかないので、表示されているラベルを信用して食材を購入します。ところが、食材の提供者は、そのことを予想して安価な類似の商品を提供することで利益をより多く得ることができます。つまり、食品の偽装が起こります。もちろん、すべての売り手が偽装して食品を提供するわけではないのですが、悪意のある売り手は自らの利益を増やす為に、偽装して食品を提供してしまう可能性があります。

情報の非対称性とは

情報の非対称性という用語は、経済学者のアカロフ(米)によって1970年頃に提唱されました。アカロフは中古車市場を使って、中古車市場では、良質の車であっても他の商品と同じような平均的な価値をつけられ、良質な中古車は市場に流通しなくなる傾向があることを指摘しました。日本の中古車を販売する市場でも、車の種類や年式、走行距離から業者の買い取り価格が分かりますよね。これと同じだと考えてください。不良な中古車はアメリカの中古車業界では「レモン」と呼ばれることから、売り手と買い手の情報量に差があるような市場は「レモン市場」と呼ばれるようになりました。ちなみに、良質なものは「ピーチ」です。

他の応用例

例えば自動車保険市場を考えた時、保険に加入しようとしている人は自分の運転能力を良く知っているはずです。一方、保険会社はその人の運転能力については未知数です。やはり保険会社と保険の購入者との間に情報の差が生じてしまいます。このような応用例は思いの外たくさんありそうです。関心がある人は探してみると面白いと思います。

最後に

小話では自分の能力を面接官にアピールするために資格が有効そうでしたね。このように何らかの合図を送って食料品偽装を解決する方法はあるのでしょうか?それとも、その他の解決方法があるのでしょうか?興味がある人は、是非、大学入学後にゲーム理論と呼ばれる科目を学んでみてください。

興味がある人へ

情報の非対称性を扱った書籍です。
ジョージ・A. アカロフ (著), George A. Akerlof (原著),「ある理論経済学者のお話の本」
幸村 千佳良 (翻訳), 井上 桃子 (翻訳) ハーベスト社 (1995)

解説者紹介

内海 幸久 [商経学部准教授]
内海 幸久 Utsumi Yukihisa
[専攻]
ゲーム理論、理論経済学
[ゼミナール]
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