小学校からプログラミングの学習が始まります

2016年10月18日

学校のおける情報に関する教育について

現在、約10年に一度のペースで行われている学習指導要領の改訂作業が進められています。学校で行われている授業は、学習指導要領の考え方や内容などに沿って行われますし、授業で使う教科書も学習指導要領にもとづいて作成されます。したがって、学習指導要領の改訂が学校教育に与える影響はとても大きなものがあります。

今回の改訂作業では、小学校の外国語活動が教科化や高等学校に新たに「公民」という科目が創設され市民性の教育の充実が図られることなどが大きな改善事項として取り上げられています。実は、今回、話題として取り上げた小学校からのプログラミングの学習についても、学習指導要領改訂の主な改善事項の一つです。このことについて説明する前に、学習指導要領では情報に関する教育はどのように扱われているのでしょうか、そこから説明していこうと思います。

高等学校の普通教育に「情報」という教科が創設され、全ての高校生に情報に関する教育が行なわれるようになったのは平成15年4月からです。教科「情報」で行われる教育のねらいは、情報活用能力と呼ばれている資質・能力や態度を全ての高校生に確実に身に付けさせることです。日本では、情報活用能力を身に付けさせる教育のことを情報教育と呼んでいますので、高等学校における情報教育は教科「情報」を要として行われる、ということができます。

現在の学習指導要領では、情報教育は小学校から中学校、そして高等学校へと児童生徒の発達に応じて行う、という仕組みになっています。これを学習の系統性と呼びますが、まさに情報教育は小学校から学習の系統性を大事にしながら行われている教育の一つ、ということができます。

情報活用能力について

それでは、情報教育によって児童生徒が身に付ける情報活用能力とは具体的にはどのような資質・能力や態度のことなのでしょうか。情報活用能力とは、情報や情報手段を主体的に選択し、活用していくための個人の基礎的な資質・能力や態度のことです。具体的には、情報活用能力は次の3つの資質・能力や態度を要素とする総合的な能力です。

一つ目は、情報教育の実践力と呼ばれるものです。私たちが課題の発見・解決の場面や目的を実現させる場面で情報手段(コンピュータや情報通信ネットワークなどのことです)を適切に活用するために必要な力のことです。例えば、必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造したり、受け手の状況などを踏まえて情報を発信・伝達したりすることができる力がこれにあたります。

二つ目は、情報の科学的な理解と呼ばれるものです。情報を活用する様々な場面で、情報手段を適切に使うためには、それぞれの情報手段の動作原理や特性などを正しく理解していなければうまく使うことができません。皆さんも、買ってきたばかりの電気製品を使う前には取扱説明書を読みますよね。さらに、情報や情報手段を適切に使うためには、自分で行った情報活用の過程や成果物などについて評価し、改善したりするための基礎的な理論や方法の理解も必要となります。

三つ目は、情報社会に参画する態度と呼ばれるものです。私たちが社会生活を送る中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を正しく理解すること。また、情報手段を悪用した事件が多発しているため、すべての児童生徒に情報モラルを身に付けさせること。さらに、これからの社会をより望ましい社会にするための社会づくりに自ら進んで参画しようとする態度を身につけさせること、などがこれにあたります。 これらの三つの資質・能力や態度が、すべての児童生徒にバランスよく身に付くことで情報や情報手段を適切に活用することができるようになる、と学習指導要領は考えています。

小学校段階から始まるプログラミングの学習について

少し本題に入る前のお話しが長くなってしまいましたが、いずれも今回の話題である「小学校段階からプログラミングの学習を考えるためにはとても大事なことばかりです。

今年の4月、文部科学省は小学校でのプログラミングの学習を必修にする方針を明らかにしました。プログラミングの学習は、先に触れました情報活用の実践力と情報の科学的な理解を育む教育に関連を持つ教育、と考えることができます。ここで注意しなければならないことは、プログラミングの学習はただ単に情報活用の実践力を育むためだけの教育ではない、ということです。プログラミングの学習によって、情報手段の動作原理や特性などを正しく理解することできます。この理解が十分でなければ、よいプログラムを作成することはできません。プログラミングの学習は、情報の科学的な理解を育むことにも密接に関わっているということができます。

さらに重要な点は、プログラミングの学習によって思考力や表現力を育むことができるという点です。今の社会は、極めて変化の早い社会です。その変化に適応して、社会の変化に流されることなく自立して生きていくためには、自ら考え、自ら判断して、その結果を分かりやすく伝えていくことができる力、つまり思考力や表現力を身に付けることが必要不可欠になります。学習指導要領はこのことを実現する教育を小学校、中学校から高等学校を通して系統的に行うことができるように、教育の目標や内容を定めています。その際、思考力や表現力を身に付けさせる学習の一つとしてプログラミングの学習を位置付けることにしました。

このように、プログラミングの学習はただ単にプログラム言語を使ってプログラムを記述することのみを目的とした教育ではありません。プログラミングの学習のねらいは、コンピュータなどの自分以外の物や人に対して、自分の考えた通りの動きをしてもらって、自分が欲しい結果を得るために必要な処理の手順を順序立てて、論理的に考えることができる資質、能力や態度を身に付けさせることです。だからこそ、すべての小学生にプログラミングの学習を行う意味があるのです。プログラミングの学習は、思考力や表現力を育むための学習の手段で、ただ単にプログラマーと呼ばれる情報技術者を育成することを目指した学習ではありません。このことは、次に示す「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議 議論のまとめ(平成28年6月16日)」に示された「プログラミングの学習」によって培われる資質・能力の表からも読み取ることができます。

  培われる資質・能力
小学校
  • 身近な生活でコンピュータが活用されていることに気づく
  • 問題の解決には必要な手順があることに気づく
  • プログラミングに興味を持つ
発達の段階に即して
  • 「プログラミング思考」を育成する
  • コンピュータの働きを、よりよい人生や社会づくりに生かそうとする態度を涵養する
中学校
  • 社会におけるコンピュータの役割や影響を理解する
  • 簡単なプログラムを作成できるようにする
  • プログラムの構造を支える要素(順次、分岐、反復)を知識として身に付ける
  • これまでの計測・制御に関するプログラミングだけではなく、コンテンツに関するプログラミングも取り扱う
高等学校
  • コンピュータの働きを科学的に理解する
  • 実際の問題解決にコンピュータを活用できるようにする
  • 全ての高校生がプログラミングを問題解決に活用することを学ぶ

「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議 議論のまとめ(平成28年6月16日)」より

解説者紹介

後藤 啓[商経学部教授]
永井 克昇 NAGAI, Katsunori
[専攻]
情報科教育学

▲ ページトップへ