「フェアトレード」について考えてみよう

2017年2月9日

フェアトレードとは何か

皆さんは「フェアトレード」という言葉を聞いたことがありますか。最近では新聞やニュースでも取り上げられることが多くなって、徐々に認知度も上がっています。しかし、社会全体としての関心が高まっているかというと必ずしもそうとはいえません。フェアトレードとは、そのまま翻訳すると「公平な貿易」となります。本来、貿易や取引は公平であるべきですが、現実には市場の利益に操作されることが少なくありません。世界には今でも貧困にあえぐ人が大勢いますが、豊かで便利な生活を送る国からは見えない世界です。発展途上国の原材料や製品を適正な価格で継続的に購入することが、なぜ大切なことなのでしょうか。その意味を理解するために、いくつかの例を取り上げながら考えてみることにします。

外食から見える世界

普段あまり感じないかもしれませんが、日本の日常生活はとても恵まれています。スーパーマーケットやコンビニには商品があふれています。食事をしようと思えば、ファーストフードやレストランがどこでも利用できます。いつでも、どこでも、何でも、時間や空間を超えてすべてが手に入る時代です。しかし、世界全体に広く目を向けてみると、日本が特別な国であることがわかります。今では、外食は日本人にとって当たり前の消費行動になっています。家から一歩外に出れば、沢山の食の世界が広がっています。休日に家族と、何気ない会話を友人と、仕事の打ち合わせを同僚と、というように様々に利用されています。多くのファミリーレストランでは、食事ばかりでなくドリンクバーが設置されていて、自由に様々な種類の飲み物が楽しめます。

ゼンショーグループが運営するココスは、すき家、はま寿司などを運営する外食産業の大手です。この企業は飢餓や貧困を世界から撲滅する理念を強く打ち出していて、その一環としてフェアトレードのコーヒー、ココア、紅茶などを提供しています。席に座って生産地の紹介や様子を示す写真を目にすると、生産者と触れている感覚になります。それぞれの注文による単価はわずかですが、そこから世界の生活が少し見えてきます。マーケティングは生産と販売に始まり、近年では社会志向に変化してきました。さらに未来社会に対応するためには、利益と社会貢献を両立させる方向性が必要です。先進国の市場でフェアトレード商品を扱ってもらうためには、適正に売れる仕組みを考えながら企業の発展にも寄与することが求められます。単なる目先の取引における優位性よりも、社会貢献に対する意識が大切です。

消費者ニーズの変化

人々の生活が豊かになるにつれて、消費者のニーズは変化します。このことを説明するためにしばしば引用されるのが、マズローの欲求5段階説です。そこでは経済の発展段階において人間の欲求が変化することを、5つに分けて説明しています。その変化は、(1)生理的欲求、(2)安全の欲求、(3)社会性の欲求、(4)自我の欲求、(5)自己実現の欲求へと進みます。この理論では、物が不足している貧しい時代や地域においては、生理的欲求や安全の欲求を満たすことが最も大切になります。経済の発展に伴い社会性を求めるようになり、次に自我の欲求や自己実現の欲求へと人々のニーズが段階的に上がっていきます。日本を含む多くの先進国は、すでに最終段階にある豊かな成熟社会です。その行動パターンの多くは、他からの視線をあまり気にせずに、自分自身にとって最も大事なことを行おうとする自己実現の欲求にあります。さらに進んで考えるべきことは、次のステップが何かということです。マズローは第6の欲求として「超越の欲求」を後に追加しています。自己実現の欲求が満たされた消費者は、自分自身を超えて社会や環境、さらに人類全体のことを考えるようになるというのです。

スターバックスのコーヒーは高いのか?

アメリカ西海岸のワシントン州にシアトルという都市があります。観光地ではありませんが、訪れてみると大変美しい所であることがわかります。全米で最も住みたい都市という評判のおしゃれな地域です。かつてイチロー選手が活躍したマリナーズがあり、近郊には大手航空機メーカーであるボーイングの工場があります。そこで1971年に誕生したスターバックスコーヒーは急速に全世界に広がり、今では1万数千もの店舗をおよそ60の国や地域に展開する巨大な企業に発展しています。ここでコーヒーを飲んでいると、他の店より少し価格が高いと感じたことはないでしょうか。それでも多くの客がスターバックスのブランドを好んで訪れ、その味と香りを楽しんでいます。

アメリカではコーヒーは家庭で飲むお茶のようなもので、レストランでは食事中に何杯でもおかわりできます。かつて日本でもアメリカンコーヒーといって、通常より薄くて軽いものが好まれた時代もありました。喫茶店で飲むコーヒーは日本人にとってスペシャルなものでしたが、今ではコンビニでも安く手に入ります。同時に、若者に好まれるスタイルのお店が爆発的に拡大し、少し高いお金を出してもおしゃれに飲むという感覚は最近のトレンドです。そのような中で、スターバックスは企業の基本方針として、倫理にそぐわない調達先から購入しない方針を示しています。生産者のことを考えると、フェアトレード商品は仕入れ価格が通常の貿易よりも高くなる傾向があります。平均より高い商品を、果たして消費者が継続的に買うかどうかが問題です。豊かな社会では、消費者は品質や価格に納得しなければ商品を購入しません。リピーターになるか否かは、その満足度にかかっています。社会貢献に対する意識がいくら高くても、消費者の購買意欲が高まらなければ普及しません。

大手の食品メーカーで、コーヒーでも有名なネスレは、スイス発祥のグローバル企業です。日本では、早くからインスタントコーヒーを普及させた企業としても知られています。受験シーズンには、合格に結び付くということで受験生に人気の「キットカット」というチョコレート菓子のブランドでも有名です。最近では、原料であるカカオ豆をサステナブルなものにする方向性を示しています。サステナブルとは持続可能性という意味で、フェアトレード、さらに広く社会貢献にも積極的です。専門家によると、チョコレートの味はカカオ豆の産地によって違うそうで、それぞれ特徴があります。しかし消費者側に立てば、バレンタインデーで魅力的な商品は、不公正な取引で確保されたカカオ豆で作られたものかもしれません。私たちは普段の生活で、誰が生産し生産者がどのような生活をしているのかを、どれだけ意識しがなら消費しているでしょうか。顧客の好みは常に変化していますが、味ばかりでなくそれを作る人の心や満足感も大切です。私たちが何気なく毎日楽しんでいるコーヒーやチョコレートからも、この問題が見えてきます。

先進国として考えること

フェアトレードに関する現状と仕組みや役割について考えてきました。先進国で暮らす人の数は地球全体の人口の2割程度で、その2割が世界の富の8割を独占しているといわれています。発展途上国との貧富の格差を解消する一つの手段としてフェアトレードがあります。生産者に適正な賃金を支払い、途上国の労働力に見合うように永続的な取引を続けることで、貧しい人々の経済的自立をはかります。最近のデータによれば、フェアトレードにおける日本市場は約80億円と世界市場の1%ほどです。他の先進国である英国の30分の1、ドイツの12分の1程度にとどまっています。日本に比べて、海外における企業や経営者の社会貢献意識も高いといえます。日本市場における理解はまだ低いのですが、見方を変えれば日本ではまだ伸びる可能性があります。温暖化の影響で世界中では多くの災害が起きていますし、日本でも震災をきっかけにライフスタイルや価値観に大きな変化が生まれました。物があふれている日本は、意識の上ではまだ途上国なのかもしれません。世界を意識し生産者とのつながりに心をかける絆づくりは始まったばかりです。皆さんも大学生活を通じてフェアトレード活動に取り組んでみませんか。

【参考文献】

  • 「フェアトレード7200億円市場—欧米企業が積極的」 2016年3月3日 日本経済新聞 朝刊 17ページ
  • 「エシカル消費、普及に壁、理念と品質、両立カギ」 2016年9月4日 日本経済新聞 朝刊 10ページ
  • 野村尚克、中島佳織(2014) 『ソーシャル・プロダクト・マーケティング』産業能率大学出版部

解説者紹介

後藤 啓[商経学部教授]
森 久人 MORI, Hisato
[専攻]
マーケティング論、ソーシャル・マーケティング

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