自動車の新しいつくり方–フォルクスワーゲン社の事例–

2016年9月28日

今日の自動車メーカーの課題の1つは、「製品の多様性」の創出にあります。この課題を巡り、最近注目されている自動車の新しいつくり方(新開発手法)について、フォルクスワーゲン社(Volkswagen AG、以下VW社と略記)の事例からご紹介します。

自動車の新しい開発手法–多様性、コスト削減、効率性–

町中にさまざまなデザイン・色・大きさの車が走っています。また、個性的な車、高級車やお手頃な車が欲しい人がいるように、今日の消費者のニーズは多様です。飽きっぽく新型車にすぐ乗り換える人、最新技術の「エコ・カー」が欲しい人もいるように、消費者のニーズは移ろいやすくもあります。また、中国やインドなどの新興国市場では車の需要が高まっており、今日の自動車市場は、より一層グローバル化しています。新興国の消費者は、低価格の車を求める傾向もあります。従って、今日の自動車メーカーにとって、グローバルに多様な製品を提供し、しかもそれらを低コストかつ効率的につくることが1つの重要課題です。

そのため、自動車の新しいつくり方(開発手法)が注目されており、「設計共通化」や「モジュール」などがキーワードです。2015年1月22日付けの日経新聞によれば、「自動車の設計共通化」は、「形状や大きさが異なる複数の自動車で、基本構造や主要部品を統一すること」です。そして、その利点を、開発期間短縮と量産効果によるコスト削減を実現し、多様な車種をつくれることと解説しています1。これは、車の基本的な「設計概念(アーキテクチャとも呼ぶ)2」を異なる車種で共通化することです。

また、2013年11月18付け日経新聞に掲載のベルガー氏の見解によれば、最近の自動車産業で進んでいるのは「VW式の生産革命」で、「積み木のようなモジュールと呼ばれる部品のかたまりを何通りか開発」し、それらの組み合わせで市場特性に適合した車を素早く開発する手法が成功しています3。そこで、こうした新しいつくり方の事例として、VW社を簡単に見ていきましょう。

フォルクスワーゲン社の新しい開発・設計戦略

VW社は、欧州最大のドイツの自動車メーカーで、VW、アウディ、セアト、シュコダ、ポルシェなど計12のブランドを有すグループ会社です4。従来、メーカーは車種ごとに部品を専用設計し生産する傾向がありましたが、これでは、車種が増えれば、部品の種類も増えて量産効果が発揮しにくくなり、開発・生産コストが高くなります。そこで、VW社は90年代半ば以降、車の底部分である「車台(プラットフォームとも呼ばれ、エンジン、変速装置、ブレーキなどの主要部品を含む)」を車種とブランドを跨ぎ共通化しました。これは、車台を複数の車種で共有し、車台レベルで量産効果を高めコストを削減する試みです。同時に、車台に載せるボディや内装の違いで差別化し、共通車台から多様な車を早くつくることを目的とします。しかし、車台は大きな「かたまり」になりがちで「車のサイズ」を規定する傾向が強いため、車台の共通化と量産効果の発揮は同じ車格(1つの車両クラス)に限定されがちで、ボディ・デザインの自由度も少なくなるという限界がありました5

そこで、VW社が最近積極的に実践しているのが、「モジュラー・ツールキット戦略」という開発・設計戦略です。その代表が、VWのゴルフに採用されている「MQB」というものです。それでは、MQBについて簡単に見ましょう。MQBはブランドと車格を超えて様々な車種で「設計概念」と「モジュール(部品のかたまり)」を共有化する試みです。それゆえ、従来の車台共通化のように車をボディと車台に分割する考え方とは異なります。MQBは車種・車格を超えて共有可能な複数のモジュールに車を分割し、これらモジュールは車種を超えてほぼ自由に組み合わせ可能なため、差別化の可能性も高めます6。車格の違う「ゴルフ」、「パサート」将来的には「ポロ」も同じMQBでつくられ、今後、長期的にはMQBから40以上のモデルがつくられる計画です7。そのため、MQBの開発手法では、従来の車台の共通化と比べて、量産効果の大きな高まりによる一層のコスト削減効果が期待されています。長島(2013a; 2013b)によれば、車を開発する際に、車全体の60%を事前に設計されたモジュールの組み合わせで行い、残りの40%を車種ごとに開発することで、開発コスト・期間を抑えながら、多様な車を作ることが目指されています8。MQBの開発手法は、「設計概念(アーキテクチャ)」を共通化し、単純化すれば「レゴ・ブロック」のようにモジュールを組み合わせて車をつくる手法です。車格の違いを超えた設計概念とモジュールの共通化によりコスト削減を実現しながら、モジュールの組み合わせで多様な自動車を迅速・効率的につくることが目指されています。

おわりに

今日の自動車産業では、「多様な製品を低コストかつ効率的につくる」という課題を解決するため、どうも自動車のつくり方が、大きな転換期にあるようです。コラムの内容が学生の方には難しかったかもしれません。大学生活の中で、多くの書籍に触れ、様々な講義を聞き、こうした内容でも分かるようになって頂ければと思います。

  1. 「自動車の設計共通化:コスト削減、車種多彩に(きょうのことば)」『日本経済新聞』2015年1月22日付け朝刊, 3頁。
  2. 中西(2013)によると、「アーキテクチャ」は、「自動車の構造をどのような部品に分割し、機能を割り当て」、これら部品間のつなぎ方(「インターフェース」)をどう設計するかという「設計概念」のことです(中西, 2013, 101頁)。
  3. 「変化を受け入れ革新を:独ローランド・ベルガー名誉会長ローランド・ベルガー氏(グローバル・オピニオン)」『日本経済新聞』2013年11月18日付け朝刊, 4頁。
  4. 風間(2014), 226-30頁。
  5. 風間(2014), 242-3頁; vgl. Hüttenrauch/ Baum (2008), S. 129, 133.
  6. Vgl. Proff/ Proff (2013), S. 135.
  7. Vgl. VW (2012); VW (2013), S. 203.
  8. 長島(2013a), 16-7頁;長島(2013b), 34頁。

【参考文献】

  • 風間信隆(2014)「VWグループの新興国戦略の展開と課題」上山邦雄編著『グローバル競争下の自動車産業–新興国市場における攻防と日本メーカーの戦略–』日刊自動車新聞社, 225-246頁。
  • 長島聡(2013a)「欧州OEMのモジュール戦略」『自動車技術』第67巻第9号, 14-20頁。
  • 長島聡(2013b)「クルマづくりの一大転換 VWが実現した『モジュール戦略』 日産も追随、トヨタは柔軟に」『エコノミスト』第91巻第50号, 11月12日, 34-36頁。
  • 中西孝樹(2013)『トヨタ対VW:2020年の覇者をめざす最強企業』日本経済新聞出版社。
  • Hüttenrauch, M.; Baum, M. (2008), Effiziente Vielfalt: Die dritte Revolution in der Automobilindustrie, Berlin, Heidelberg: Springer.
  • Proff, H.; Proff, H.V. (2013), Dynamisches Automobilmanagement: Strategien für international tätige Automobilunternehmen im Übergang in die Elektromobilität, Aufl. 2, Wiesbaden: Springer Gabler.
  • VW (2012), Der Baukasten für die Zukunft, Autogramm, Ausgabe1-2, Volkswagen AG, Link:http://autogramm.volkswagen.de/01-02_12/standorte/standorte_01.html, Zugriff am 14. 06. 2014.
  • VW (2013), Geschäftsbericht 2012, Wolfsburg: Volkswagen AG, 2013.

解説者紹介

布施 雄治[商経学部専任講師]
布施 雄治 FUSE, Yuji
[専攻]
経営学

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