生産性の向上とは何か、なぜ重要なのか

2017年7月10日

日本経済の課題となっている生産性向上

「生産性の向上が日本経済にとって課題である」ということを、新聞などでよく見かけます。この記事を書くにあたり、日経テレコンのデータベースで「生産性」という言葉を検索してみたところ、生産性という言葉が日経新聞に出てこなかった日は、この数ヶ月間でほぼありませんでした。ほとんど毎日どこかの記事に「生産性」という言葉が出てきます。しかも、出てくるときの文脈はいずれも「生産性の上昇が必要だ」とか「課題だ」とか「目標だ」というものです。生産性の上昇(向上)が大事だということが、経済や経営に関心を持つ人々にとって共通認識になっているようです。

生産性の2つの側面

皆さんは「生産性」に対して、どのようなイメージを持たれているでしょうか。
実は、「生産性」はその言葉を使う人や文脈によって、意味合いにかなり差があります。
よくあるのは、生産の「効率」のことを指して生産性といっている場合です。自動車を一台生産するのに3日かかっていたところ、作業の工夫をして2日でできるようになったとする。これは生産の「効率」の向上です。
しかし、実際には、生産効率以外の要因でも生産性は変化します。例えば、皆さんが商店で働いていたとして、一日10本のジュースが売れていたとします。ある日、近所で何かのイベントが行われることになり、商店を訪れるお客さんも増えました。その結果、ジュースが30本売れたとします。10本から30本に増えているわけですから、生産性は3倍になったといえますが、べつに効率がよくなっている訳ではありません。単に、買い手の数が増えているだけです。
このように、生産性には、売り手(生産側、供給側)の努力で向上する部分(効率)と、買い手の行動(支出側、需要側)で変化する部分があります。どれほど効率よく働いたとしても、来てくれるお客さんがいなければ生産性はゼロです。一方、いいかげんな仕事をしていても、口八丁で売りつけることができれば、生産性は高まります。

労働生産性とは

生産性にはいくつかの種類がありますが、そのうち代表的なものが「労働生産性」です。労働生産性は、労働一単位あたりの生産物を指します。「労働一単位」というのは、一言でいえば働く人の人数です。100人が働く工場で、一ヶ月に自動車を300台作っているとすると、一ヶ月あたりの労働生産性は300台÷100人で、3台/人になります。
ここで勘の鋭い人は気付いてしまうと思うのですが、人数を使うのは生産の効率を測るという目的からすると、やや問題があります。なぜなら、同じ月産300台でも、休憩を充分にとりながら作業して300台なのと、夜遅くまで休まず働いて300台なのとでは、生産効率には大きな差があるはずだからです。このため、労働生産性を計算する際には、単に人数で割り算をするだけでなく、1人が何時間くらい働いているかの情報も使うことで、時間あたりの労働生産性を求めることも行われます。
また、分子である「生産物」に何を用いるかにも、いくつかの選択肢があります。これまでの例では、自動車やジュースといったモノ(経済学では「財」といいます)を挙げてきました。このようにモノを単位として求める労働生産性を、物的労働生産性といいます。物的労働生産性は、同じ会社内や同じ業界内(自動車業界など)であれば、作っているモノが共通しているので、指標として役に立ちます。
しかし、異なるモノを作る産業間の労働生産性を比較するさいには、モノで測った労働生産性は使いにくくなります。パンを一ヶ月に300個作れます(300個/人)といっても、先ほどの例で一ヶ月に3台しか作れない自動車工場と比べて労働生産性が100倍です、ということにはなりません。なぜなら、モノの価値はそれぞれ違うからです。世の中には無数のモノがあるので、モノの単位(個、本、台など)で生産性を測ると、異なるモノを作る者どうしの比較がまったくできなくなります。このため、生産物の価値を測る共通の尺度として、お金(貨幣)に換算することが行われます。実際の計算では、自動車の価格をそのまま分子に用いるのではなく、そこから中間投入といって原材料等を引いた「付加価値」の金額が使われることが多いです。このようにして計算された労働生産性を「付加価値労働生産性」といいます。

現在の日本の生産性は?

さて、日本の労働生産性はどのくらいなのでしょうか。日本生産性本部が公表している「労働生産性の国際比較 2016年版」をみると、日本の労働生産性は先進国で最低クラスです。また、昨年12月に公表された内閣府の「国民経済計算年次推計」の結果概要では、一人あたりGDPは1990年代には一桁台の順位でしたが、2015年には20位にまで後退しています。一人あたりGDPは、働いていない人も含んだ一国全体の労働生産性と解釈することができるので、これが下がったということは、その国の豊かさが下がっていると解釈することもできます。
このような事情から、冒頭に述べた「生産性の向上が必要だ」ということが、最近しきりに言われているわけです。
では、生産性を向上させるためには具体的にどのようにすればよいのでしょうか。最近の新聞記事をみると、「AI(人工知能)やロボットの導入を進める」とか「長時間労働をよしとする社会の風潮を変える」といったことが述べられています。
このうち、前者の「AI(人工知能)やロボットを導入する」は、生産効率を上げることに寄与します。これまでと比べて必要な労働力が減れば、たしかに労働生産性は改善するでしょう。また、「長時間労働の是正」を行えば総労働時間が減少しますから、時間も含めて測った労働生産性は改善します。ただし、ここで気をつけなければならないのは、これらがいずれも、労働の投入を減らすという観点からの生産性向上策であるということです。

生産性上昇にはイノベーションも大事

先ほど述べたように、生産性には売り手の行動で変化する部分と、買い手の行動で変化する部分があります。どんなに生産効率を上げても、長時間労働を是正しても、需要(売上)が変わらないとすれば、労働生産性の上昇はいずれ頭打ちになります
このため、労働生産性をさらに高めていくためには、需要も高める必要があります。需要を高めるためには、消費者が買いたくなるような魅力的な商品の開発や、企業が設備投資をしたくなるような将来の先行きの改善などが必要になります。これらは簡単に行えることではありませんが、かつて日本の高度経済成長期に、高いGDP成長率と労働生産性の上昇が続いていた背景には、「三種の神器」や「3C」と呼ばれた魅力的な商品がありました。そして、これらの商品に対する需要を満たすために、企業は「投資が投資をよぶ」といわれた積極的な投資を行い、それが機械設備への需要となりました。
近年では、米アップル社の発売したiPhoneをきっかけに、スマートフォンという新たなカテゴリの商品への需要が急速に増大しました。スマートフォンはまたたく間に従来型の携帯電話や音楽プレーヤーを駆逐していき、10年前と現在とでは、私達の使っている電子デバイスは大きく変化しています。魅力的な商品とはこういうものです。
労働生産性の改善には、生産効率の改善といった投入側の要素だけでなく、生産物への需要を喚起するための新製品の創出、イノベーションも重要だといえます。日本を代表する経済学者の1人である吉川洋は、2000年代後半頃からイノベーションの重要性を強調していますが、私もこの意見に同意します。

おわりに

ところで、生産性には、労働生産性以外にも「資本生産性」や「全要素生産性」と呼ばれるものがあります。これらについても論じてしまうと話が難しくなってしまうので、この文章では言及しませんでした。興味がある人はそれらも調べてみてください。大学生や社会人で専門的に学びたい方にはOECDの生産性測定マニュアルなどが分かりやすいです。「生産性」をイメージでなんとなく語るのではなく、どのように測定して、何が変化すると生産性が上昇するのか(あるいは下がるのか)を意識しながら、新聞・ニュースや実際の経済を見ていくことが大事です。

【参考文献】

  • 内閣府(2016)「平成27年度国民経済計算年次推計(平成23年基準改定値)(フロー編)ポイント」
  • 日本生産性本部(2016)「労働生産性の国際比較 2016年版」
  • ポール・シュライアー著、清水雅彦監訳、佐藤隆・木崎徹訳(2009)『OECD生産性測定マニュアル』慶應義塾大学出版会
  • 吉川洋(2009)『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ—有効需要とイノベーションの経済学』ダイヤモンド社
  • 吉川洋(2016)『人口と日本経済 長寿、イノベーション、経済成長』中公新書

解説者紹介

田原 慎二[商経学部専任講師]
田原 慎二 TAHARA, Shinji
[専攻]
マクロ経済学、産業構造論、経済統計

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