千葉商科大学

環境への取組み「ISO14001取得記念講座地球環境時代の企業・人・政府 講義録」

議事録目次

Lecture1  10月1日

ガイダンス

  • 三橋規宏(千葉商科大学教授/B-LIFE21事務局長)

【講義要約】
 環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)の環境寄付講座について説明。循環型社会を築くためには、経済活動の中核を占める企業が変わる必要がある。企業が変わるためには、ヒト、モノ、カネで余裕がある大企業が率先して変わる必要がある。大企業が環境重視の経営を行うためには、大企業のトップ自らが環境問題の重要性を訴え、行動しなくてはならない。B-LIFE21に集う経済人はそうした志を共有している。

20世紀の経営者は、利潤(企業益)を追求するだけでよかった。しかし地球の限界に直面した21世紀は、企業も地球益の追求が必要だ。つまり企業活動に地球益の視点を取り込むことが必須条件になる。21世紀を生き残るためには、経済的側面のほかに環境的側面、社会的側面をバランスさせることが企業に強く求められている。環境を重視する企業の株式で作った投資信託(エコファンド)の株価は、東証株価指数よりもパフォーマンスがよい。環境経営の追求が、企業経営にプラスになる時代がすでに来ている。

Lecture 2  10月8日

大江戸リサイクル事情

  • 石川英輔(作家、大江戸リサイクル事情)

【講義要約】
 第二回目は、作家の石川英輔氏が『大江戸リサイクル事情』と題して、以下のような講義を行った。

江戸「を」学ぶことはできるが、江戸「に」学ぶことは至難の技である。何故なら、江戸時代の循環型社会と現代社会では、その構造が根本的に異なっているからだ。

日本人が現在、1日平均11万~12万Kcal消費しているエネルギーはほとんどが化石燃料に依存しており、不可逆の資源消費だが、これに対して、江戸時代の消耗品は、行灯の油等のエネルギーを含めほとんどが植物起源であり、従って元に戻る。郊外で炭を焼いて煙を出してしまった燃料を江戸に入れたので大気は澄明、下水を流さず肥料に再生するシステムから水質汚染も無い。寺小屋の教科書などは200年使われても痛まない丈夫さで、変えなくていいものは変えない知恵がリサイクル以前の資源保護に生きている。町には木拾い、灰買い等々が溢れ、ゴミの再資源化も万全だった。

当時、面積的にも人工的にも世界最大の100万都市、江戸が、かくも清潔だったことに、モースやシュリーマン、シーボルトなども感服している。
このように、ことさらリサイクルを意識するのではなく、普通に暮らしていると、社会が全て循環させてしまう構造だった。江戸文化はまさに、持続可能な文化だったのである。

Lecture 3  10月16日

創造的環境政策の改革論

  • 炭谷茂(環境省事務次官)

【講義要約】
 環境省の炭谷茂事務次官は、講義の冒頭、「環境行政はこれでいいのか?」と切りだした。事務次官といえば行政の意思決定システムの頂点に立つ、いわば環境行政の総元締めだ。その立場での発言だけに、講義は刺激的に展開されていった。

環境庁の発足は昭和46年7月だった。前年の公害関連法の多数成立を受けてのことで40年代を通じて、環境行政は公害を克服するという対症療法的なスタンスだった。昭和50年代に入ると、汚染が出る前に防止するという考え方が生じ、公害の原因を産業のみならず日常生活にまで見いだしたり、アメニティーの概念を導入したりする動きが出た。しかし、昭和51年、全国に先駆けてアセスメント条例を施行した川崎市に続いて国としてのアセス法案を成立させることは難航し、アメニティーも言葉先行でスローガンを超える実体ある施策に結びつけることはできなかった。

昭和60年代の世界的な環境意識の高まりを受けて、ようやく環境基本法が成立したのは平成6年だった。しかしながら、これでもなお、害悪を除去するという基本的な行政のスタンスは変わらず、現在の環境行政が40年代から脱皮できているかどうかは疑問だ、というわけだ。

すなわち、炭谷次官の構想では、状況に受け身で対応する形ではなく、もっと大きく構造的な環境政策を立案する必要がある、としている。例えば、環境の構成要素である水や土壌や大気や生物に着目し、水質汚染に対処するのではなく、全体的な水の循環そのものをデザインするような政策立案である。従って、環境と経済を対立概念で捕らえるのではなく、環境も経済も共に伸びるような実質的な持続的発展を念頭に、環境にやさしい技術開発が保全も経済発展ももたらすような好循環を作る。手段として、環境税や環境教育法なども考慮すべきだろうという。

最終的に、炭谷次官は、環境福祉という概念を提示した。福祉も環境も一人一人を大切にするところから発するという意味で同根だ。さらに福祉は一足早く、施しから権利としての政策転換を行っている。
学生からは、行政はマスコミが騒がないと動かない印象がある、と厳しい質問も出たが、このような構想が政策として具現化するのを、見守りたいものである。

(宮崎 緑)

Lecture 4  10月22日

バイオマスを資源とする新しい社会創り

  • 藤村宏幸(荏原製作所会長、バイオマスニッポン)

【講義要約】
循環型社会とは何か。

藤村会長の講義は、人類に突きつけられたこの大きなテーマの解題から始まった。3R即ち、reduce,reuse,recycleという概念は浸透しつつあるが、例えば、母の着物を娘が着て、さらに孫が着て・・・いよいよ擦り切れたらオシメにし、最後は雑巾にするような、物質だけの循環では十分ではない。空気や水やバイオやエネルギーといった資源が永続的に使える社会、自然と人工とが融和した持続できる社会でなければならず、そのためには太陽エネルギーを有効に使いこなす必要がある。

そこで、真の循環型社会を築くために、バイオマスを中心軸にすえた新しい社会構造の創造に乗り出したという。バイオマスとは、太陽エネルギーによって生産された植物や、それを食べた動物の死骸、糞、生ゴミ等の廃棄物全てを含む有機性資源だ。再生可能で永続的、石油のように偏在せず、地域の自給が可能な、太陽エネルギーの良好な貯蔵・変換システムである。

具体的には、バイオマスから水素やメタン等を取り出し、燃料や原料として産業構造の基盤とする。他のエネルギーシステムと比べて、地球にかける負荷がいかに極小化できるか、豊富なデータを示しながら講義は進んだ。サイト毎の燃料電池コージェネシステムなど、まだ値段が高くて普及型までいっていないのが難点だが、例えば水素製造原価がトンあたり2万円くらいで処理できれば、十分ペイする計算だというから、実現はそう先のことではないだろう。

ここで用いられているコストの概念に注目したい。TLCC=Total Life Cycle Cost という。従来、コスト計算は製造、建設、運転、維持管理、補修、更新そして廃棄にいたるライフサイクルが精一杯だった。通常の商品などは、製造にかかるイニシャルコストのみの場合も多い。ところが、TLCCは、CO2の排出など環境負荷まで計算に含めている。こうした概念があってはじめて、老廃物を有価物にする正統性が担保されるといえよう。まさに、循環型社会を支える枠組みである。

先進的な試みに挑戦する同社は、しかし、ゼロエミッションを追求するあまり、3年前、逆にダイオキシンが流出する事件を経験した。環境を追求する企業にとって、あってはならない事故であった。だが、危機管理には、未然に防ぐ段階と、そうはいっても起こってしまった事態の影響を最小化する対応の2つの段階がある。この事件では、早急な対処と完全なディスクロージャー、再発防止への取り組み、さらに地域社会との関係強化と、対策が非常に高く評価された。そうした事態も包み隠さず報告する藤村会長の講義には、大きな説得力があった。この経験が、もう一段階上の環境企業をめざす基盤となっているのだろう。

発展途上国の持続的な経済成長への貢献も視野に入れると、新しい時代を拓くバイオ社会のモデル地区が動き出す日が待たれるものだ。

(宮崎 緑)

Lecture 5  10月29日

環境倫理学のすすめ

  • 加藤尚武(鳥取環境大学学長、環境倫理学)

【講義要約】
 年々歳々 花 相似たり 歳々年々 人 同じからず・・・・

地球環境問題の分析に当たり、加藤先生はこの格調高い文学を枕に置いた。自然は永遠に同じ状態を反復し、人事には同じことが二度と巡ってくることはない、という意味だ。しかし、これは既に過去の自然観であり、もはや、自然は永遠に反復、循環するものではなくなってしまった。人類が自然の同一性に進入し始めたからである。原子や遺伝子やガイア等々の同一性を破壊することで現代技術は成り立っている。

それをどう循環型に転換することができるか。

ここで、加藤先生はドイツの循環経済促進法22条を引いて、製造責任の拡大概念を説明された。曰く、生産・供給者は、流通と消費の過程を経てきた生産物を回収し、再利用化・廃棄する責任を負う。生産・供給・流通という動脈の流れと、回収・再利用・廃棄という静脈の流れが一体化して、同一企業による個別的な製品に凝縮された時、うやく完全循環経済が成り立つ、と。

加藤先生は環境倫理学を立ち上げた第一人者である。その理論の基盤には、生物生存権(全ての生物を絶滅から守らなければならない)、有限性(資源循環をその一部とする自然循環は、全体として有限の系)、そして世代間倫理(累積と枯渇を避けて持続的可能性を保障する)といった理念が存在する。特に、未来世代に対して現代世代が加害者になる関係に警鐘を鳴らし、世代間倫理について深い思索を重ねていらっしゃる。

これは、アメリカ型の環境倫理概念とは位相を異にするようだ。アメリカ型は生物資源保護に偏る向きがあるらしい。それに対して、外部経済の内部化や環境版サプライ・チェイン・マネジメント等をキーワードとする先生の考え方は、完全循環社会をいかに構築するかを地球的視点、否、宇宙的視点で問うている。

鍵を握るのは、循環経済と情報社会の結合である、という指摘が印象的だった。アリストテレスからダーウィン、コーエンにいたる「種」の考え方の変遷から、ニュートン、ガモフ、はたまた熊沢蕃山と、加藤先生の講義は時空を縦横に駆けめぐり、エネルギッシュな口調と香り高いユーモアのセンスで、学生始め聴講者をおおいに魅了したのであった。

(宮崎 緑)

Lecture 6  11月5日

企業は何のため、誰のため

  • 小林陽太郎(富士ゼロックス会長、前経済同友会代表幹事)

【講義要約】
450人を超える受講者で埋まった大講義室にピンと張り詰めた空気が漂った。小林陽太郎氏といえばこの春まで経済同友会の代表幹事をつとめていらした財界の論客である。日本経済を動かし、世界に影響を与えてきた実力者の言葉を聞き漏らすまいという緊張感が漲る中、教壇からの第一声は、

「企業は何のために存在するのか。誰のために存在するのか。」

という問いかけだった。
かつてフリードマンは、企業の目的は利益をあげることだと言い切った。しかし、これには市場の信頼性という前提を要する。今や、その前提そのものに疑問符が打たれる時代となった以上、シェアホルダーモデル(企業は株主のためにある)では通用しない。顧客や地域社会、従業員、取引先、NPO、もちろん株主も含めた企業をとりまく人々、すなわちステークホルダーズモデルを構築しなければならない。

企業の社会的責任は、経済的側面のみならず、地域社会や国際社会を見据えた社会的側面、及び、環境負荷軽減やエコ商品開発といった環境的側面という三要素のバランスの上に成り立つものなのだ。良い会社は強いだけでなく、やさしく(=社会貢献、環境との調和)おもしろく(=人間性、自己実現の場)なければならない。この「良い会社」構想を富士ゼロックスは既に1992年の段階で立ち上げていた、と小林氏は胸を張った

では、具体的にそれを評価するにはどうしたらいいか。

ここで浮上してきたのが、CSR=Corporate Societal Responsibility という考え方だ。10年程前からヨーロッパで盛んに言われ始めた。もちろん、企業の社会的責任という概念そのものは、時代を超えてはるか以前から存在していた。大丸は1736年に「先義後利」を企業理念と制定したし、ジョンソン・エンド・ジョンソンが1943年に制定した経営理念でも、第一が消費者、ついで社員、社会、最後が株主とうたっている。

CSRが新しいのは、そうした理念を数値化する評価基準、指標を設定しようとするところだろう。横軸に市場、環境、人間、社会といった要素を取り、縦軸にコーポレート・ガバナンスをおいて、目標設定と現状評価を繰り返す。コーポレート・ガバナンスには、理念とリーダーシップ、マネジメント体制、コンプライアンス、ディスクロージャーとコミュニケーション等の柱が組み込まれる。

経済同友会のモデルでは、指標になる項目が110程あがり、現在約200社が自己評価を開始しているそうだ。今後も試行錯誤の中から改善を重ねていくとのことだが、まさに企業のトータルな価値を評価できるツールとして注目されるものである。

地球環境時代に企業、そして企業人はどうあるべきか。自ら体現された小林氏の講義には、説得力があふれていた。

(宮崎 緑)

Lecture 7  11月12日

アカウミガメの来る浜辺から

  • 馬塚丈司(NPOサンクチュアリジャパン代表<海がめ保護>)

【講義要約】
信念は人をつくる。

馬塚さんを突き動かしたのは、環境を護りたいという一念だった。きっかけは、子供の頃に知った水俣病の衝撃。その解決の役に立てないかと水銀の分析装置を作り、実際に水俣の方々がそれを使ったところから、彼の果てし無い挑戦が始まったようだ。

自然の大切さはppmだけでは測れない。いかに護るか。理念だけではなく行動にどううつすか。中田島砂丘を開発して運動公園にする県と市の計画に真っ向から反対した。市民一人一人に訴えかけ、粘り強く説得して歩く文字通り草の根の運動は、しかし、彼のもとから友達を去らせ、逮捕の危機を招き、苦境の連続だったという。それを乗り越えて、サンクチュアリ運動をここまで大きく実らさせたのは、他ならぬ、彼自身の信念だった。

好奇心、行動、感動、継続、この4Kがキーワードである。それを次世代に継承すること。だから、今、最も関心を寄せているのは環境教育だという。

運動の成果は見える形で結実してきた。ボランティア調査で、遠州灘一帯がアカウミガメの一大産卵地であることや、コアジサシのコロニーであることが判明し、世界的なニュースになった。保護のための施策整備が急がれる。しかしながら、現実には、保護するための法が整っていない。海岸法は誰でもいつでも海岸に入れることを保障していた。オフロードカーが走り回り、花火が打ち上げられ、ゴミが投げ散らかされて、野性生物の生命や生活の場を奪っても、手を出すことができない。日本には海岸の社会学が無い。馬塚さんの悔しさが募る。しかし、ここで諦めないのが、信念の人たる所以である。訴えを続け、遂に2000年、海岸法の40年ぶりの改正にこぎつけたのだった。

時にユーモアを交えつつ、あふれる思いを熱く語る姿からは、環境を護ろうとする強い信念がひしと伝わってきた。

NPOサンクチュアリジャパンが作成するグッズ

ただし、馬塚さんが秀でているのは、その信念のみではない。NPO法人の運営に並々ならぬ才能を発揮している。鳥瞰図ならぬ亀瞰図と称した地図を作成したり、亀の写真入りの団扇を作ったり。そうしたグッズは組織に属する人々の気力を盛り上げる効果と、販売利益を活動資金にできる効果の一石二鳥である。組織運営の工夫や苦労もさらりと話してしまうあたり、馬塚さんの本領発揮の感がある。

かくして、これまでも、今も、そしてこれからも、馬塚さんの熱い取り組みは続くのである。

(宮崎 緑)

Lecture 8  11月19日

イオンのコーポレートシチズンシップ

  • 岡田卓也(イオン環境財団理事長)

【講義要約】
未来の子供たちのために木を植える。知床で、万里の長城で・・・

イオングループの環境保全運動への熱心な取り組みには、岡田氏の生きてきた姿勢が色濃く反映されている。4大公害訴訟のひとつの現場となった四日市の出身で、若い頃から環境問題には強い関心を持っていらした。学徒出陣から復員後、家業を継ぎ、焦土で宣伝チラシを配ったところ、「チラシを見て平和の到来をようやく実感できた」と涙を流す顧客たちの列ができた。これを目の当たりにして、小売業は平和産業だと確信したという。この体験が岡田氏の経営者としての原点にある。だからビジネスを貫く哲学は「平和」だと胸を張って言い切った。

「大黒柱に車をつけろ」という家訓に従い、戦後の街区調整で街の中心がずれるとすかさず店を新しい中心地に移転、その後鉄道の路線変更で再び街の中心がずれると、また店を移転させた。家訓の「大黒柱」は立地のみではない。時代の変化に対応することを意味している。成功に安住せず、常に時代を読む進取の気性を失わないよう、敢えて、信用ある社名を捨て去り、岡田屋からジャスコへ、さらにイオンへと変更するユニークな経営戦略をとった。そして到達したのが、企業の価値は不動産でも株式でもなく信用だという信念だった。good will である。

40年間で30兆円企業に成長したウォルマートは脅威だと率直に認める。世界最大の企業は今や、鉄でも自動車でもなく小売業なのだ。小売業がメーカーと違うのは、集まってくる顧客に対して情報発信ができるところ。では、イオンとしての発信はどうあるべきか。20世紀が東西問題の時代だったのに対し、21世紀は南北問題の時代である。最大のキーワードは環境だ。店頭で万里の長城に植樹をするキャンペーンを展開したところ、自費(自己負担)にもかかわらず参加を申し込んだ人が4000人に達した。確かな手応えを感じたという。実体験と現場からの発想は、一言一言がずしりと重い。

受講者からの質問の中には、環境を標榜しながら、地球に負荷をかける自動車社会に根ざした郊外型大型店を展開するのは矛盾ではないかという鋭い指摘もあった。しかし、自動車そのものが、燃料電池車など環境対応型の技術で革新されていけば、ライフスタイルを変更しなくても解決できるかもしれない。そんな大きな枠組みで街づくりに貢献していくのが、これからの小売業の進む道ではないかと考えさせられた講義であった。

(宮崎 緑)

Lecture 9  11月26日

宇宙と地球環境

  • 山之内秀一郎(宇宙航空研究開発機構理事長)

【講義要約】
これまでに打ち上げられた人工衛星は約5600機、そのうち現在も軌道上にあるのは2941機、その中で運用中のものは700~900機。私たちの頭の上には膨大な数の衛星が回っているのだ。うち、日本の衛星は25機である。(2003.9.30 現在)

内訳としては、通信・放送衛星が圧倒的に多く、航空・測位衛星や気象衛星などもよく知られているが、今、注目されるのは地球観測衛星である。通常は地上400~1000km上空をおよそ1時間半で周回し、オゾン層の破壊や火山活動、台風や降雨の状況、植物分布、土地利用、海洋環境、地形・・・等々、地球に関する様々な情報を送ってくる。

既に、シベリアの森林火災や中国の洪水の監視、エルニーニョに代表される海面水温変化の気候に及ぼす影響予測など、実質的な成果が着々と積み重ねられている。

地球を外から常時観察できるのは宇宙だけである。宇宙関連技術の地球環境問題への貢献が期待される所以だ。  
スプートニクが飛んだのは46年前、有人月面着陸が34年前、スペースシャトルは22年前という歴史に比べると、純国産ロケットに成功したのが9年前という我が国の研究開発は後発と言わざるを得ない。しかし、その後の進展は目ざましく、アメリカのロケットに日本の衛星を積んで、温暖化監視に実績をあげるなど、日米協力ミッションにも成功している。

さらに、NASAやESAはじめ各国の観測網から収集されるデータを、WMOやWWWといった国際機関を中心に有効利用していく国際協力の枠組みも整いつつある。IGOS-P、統合地球観測戦略パートナーシップである。

我が国独自の35.86テラフロップス、12.3ギガバイト/s、640 台並列計算という、世界最速スーパーコンピューターによる地球シミュレーターの開発にも成功した。いよいよ1kmメッシュ気象学の時代に突入したのだ。気候変動や地震発生のメカニズム等々の解明や予測に力を発揮することが期待される。

山之内さんは、この秋3つの宇宙・航空関係の機関が合体してできた、最大規模の研究開発機構の長をつとめる。略称はJAXA(ジャクサ)「ちょっと訛るとジャクシャ、ドイツ語読みならヤクザ」とおどけて始めた講義は、しかし、豊富な資料を駆使した格調高いものだった。会場からも、宇宙ゴミやロケット技術の環境負荷などに関する鋭い質問が出され、極めてアカデミックな時間を堪能したのであった。

(宮崎 緑)

Lecture 10  12月3日

アサヒビールの環境経営

  • 福地茂雄(アサヒビール会長)

【講義要約】
アサヒビールは、早くからゴミゼロ工場を目指して環境経営に力を入れてきた会社だ。営業一筋で40年ビールを売ってきたという福地茂雄会長の語り口はソフトで、人を飽きさせない。2人の学生から始めて、学生主導でISO14001の認証を取得した本学のケースに触れ、「ひとしずくの水が源流となって大きな川になるのは経営も同じだ」と敬意を表し講義に入った。

福地さんは、現在社会を変化の時代だととらえ、(1)あらゆる分野で変化が起こっている、(2)しかもひとつひとつの変化が大きく深くなっている、(3)変化のスピードもかつてなく速くなっているとその特徴を説明し、このような時代には、これまでの常識に縛られず、前例主義を排除し「判断の基準」を大転換することが必要だと強調した。

環境経営については、「世界の平均」を目指すのではなく、「世界のリーディングスタンダード」を目指す気概で取り組んでいると熱く語る。
たとえば、神奈川工場では、電力の一部をクリーンな風力発電で賄っている。そのための電力コストが月間1300万円ほど高くなる。このコストを補うため、価格の安い夜間電力を蓄電し、それを昼間使う工夫によって1800万円浮かせ、全体の電力コストを500万円節約するなどあっと驚くような経営力を発揮する。

環境問題への取り組みは、早ければ早いほどよい。拙速を恐れるべきではない。よく検討してからとか、新しい技術を開発してから取り組むといった姿勢は、事環境問題ではとるべきではない。新しい方法が見つかれば、その段階で対処すればよい、早く取り組むことが肝心だと言い切る。

「こころ」を「かたち」に表すためには、すべて「行動」で示さなければならないと結んだ。

「これから静岡まで出かけます」忙しい時間を割いて駆けつけてくれた副地さんはこう言い残して、あわただしくキャンパスを後にされた。感謝。

(三橋 規宏)

Lecture 11  12月10日

美しい経営とそのケーススタディ<21世紀の企業経営>

  • 山路敬三(日本テトラパック会長、元キヤノン社長、元日経連副会長)

【講義要約】
山路氏は、キャノン在籍中から世界に先駆けて複写機のリサイクルを行うなど、環境型経営の先駆的存在である。これまでも、数々の環境関連の賞で第一回目の受賞をものすることが多かった。ズームレンズの設計理論で学位を取った明晰な頭脳で語られる経営論は、従って、論理明快かつ科学的で先見性に富んだものだった。

まず経営を壮大な社会実験と位置づける。失敗を恐れるより、何もしないことの方を恐れよとの哲学が根底にあるからだ。実験である以上、仮説先行及び核心独創性を要する。即ち、ノントリビアル(非凡)である。さらに、社会とつく実験である以上、時代の流れをつくるわかり易い共感性も必要だ。これらの実現には、当然ながら整合性と倫理性に基づく美しいシステムを築かなければならない。そこから導き出されるのが、山路氏の理念である「美しい経営」なのである。

では、「美しい」という概念の本質は何か。

山路氏は、ケーススタディーとしてゼロエミッションを分析した。例えば自然界の食物連鎖では、植物を食べた草食動物の廃棄物を微生物が分解し、それを肥料としてまた植物が育つという循環が成り立っている。自然界には無駄が無い。完全なゼロエミッションの世界だ。この植物を生産者に、草食動物を消費者に、そして微生物を解体、処理業者に置き換えれば、人間社会に応用できるのではないか。さらに上位の消費者を、肉食動物とすれば、消費抑制のモデルも説明できる。

これまでの人間社会の見込生産、見込販売は、生態系の種の保存の論理を手本にオンデマンド生産とし、大量生産、大量輸送は、生態系の生活圏で閉じた活動を手本に地産・地消とする。工学的手法を生物的手法に転換し、自然支配(破壊)型から自然融合型に移行すれば、枯渇性資源とエネルギーの大量使用を改め、非枯渇性経済が生まれるだろう。

生態系における共生関係は、機能のみ利用して所有はしない。従来の所有型社会から機能販売型に転換すれば、ゼロエミッションを追求できるのではないか。

そこで、市場経済の流れの先を行く企業であるためには、3Eの統合が必要となる。Economy, Ecology, Ethicsである。この3つを柱に、デマンドと市場を組み合わせてマトリックスを作り、サステイナビリティ・モデルを提唱されたところで、「美しい」の意味が見えた気がした。私の理解が正しければ、「美しい」とは、自然の摂理に限りなく近づく秩序のことだ。地球、いや大宇宙の営みは、E=MC2 、E=HFといった美しい法則で動いている。こうした秩序に、人間社会も組み込まれることができないだろうか。

その解として「美しい経営」が語られたことに、深い感銘を受けたのであった。

(宮崎 緑)

Lecture 12  

地球環境と資源

  • 谷口正次(太平洋セメント株式会社 専務理事)

【講義要約】
エコリュックサックという言葉がある。

例えば小さな指輪を作るために金を掘る場合を考える。地下に何百メートルものボーリングを何本も打ち込んで鉱脈を探りあて、樹木を伐採し、表土を剥いで、鉱脈にたどり着くまで掘り下げ、鉱石を採掘する。環境は破壊され景観はみる影もなく、土砂をはじめ燃料、水、大気などを含む膨大な廃棄物が出る。それでも鉱脈1トン当たり、金はたった0.3~1.0gしか含まれていない。つまり、指輪一個のためにおよそ3トンもの土砂を削らなければならないのだ。こうした、資源の背後にある産出地等にかかる負荷を「リュックサックを背負っている」と表現しているのである。

掘り終わった後、大地にぽっかりと開いた巨大クレーターのような穴や、掘り出した土砂の流出で見渡す限りヘドロに埋もれてしまった耕地、そして生活の場を破壊され、文化的にも圧迫されるネイティブ達の映像は、教室に寒々とした衝撃を与えた。森林、生態系、景観などがコストに反映されていない現実が胸に迫る。

谷口さんは、これを、資源が安すぎると形容した。そして、マイニングエンジニア(鉱山技術者)としての経験から、この現実を告発するのではなく、できる限りリュックサックを軽くする資源戦略の必要性を訴えた。マテリアル・バランスを考えると、エンド・オブ・パイプの処理を熱心にすればすむ問題ではなく、産出国の環境破壊も考慮して、資源の生産性を大幅にあげなければならない。

即ち、マニュファクチャリングからエコファクチャリングへの転換である。はじめに地球益ありき。その上に国益が成立し、それが企業益へと通じる。

世界各地の鉱山を踏査し、資源の「川上」を見つめ続けた谷口さんの信念は揺るがない。地下資源から地上資源へ。PCや携帯などの廃棄物から資源をとるアーバンマイニングを推進し、所有からリースへ、労働への課税から資源への課税へ、集中から分散へ、とパラダイムの転換を次々と説いていく。鉱物以外の天然資源でも、例えば、パームオイルなど、健康食品や水質浄化の効果が注目されているといっても、生産地の環境破壊の上に成り立つ先進国の環境対策には大いに疑問を呈する。

自ら絶滅危惧種と位置づけるマイニングエンジニアの、現場にしっかり足をつけた凛とした姿勢に、改めて、地球環境問題は資源収奪型文明からの脱却無しに考察することはできない、と実感したのであった。

(宮崎 緑)

Lecture 13  1月14日

革命的雨水プロジェクト

  • 村瀬誠(雨水博士、墨田区役所勤務)

【講義要約】
流せば洪水 溜めれば資源

雨水博士・村瀬先生の主張はこの一言につきる。ところが、これは言うほど簡単ではない。既に、都市の構造は自然界におけるような循環型とはかけ離れてしまった。

東京の場合、1500ミリ降った雨の内、地下にしみ込むのはわずか300ミリ、バランスは全く取れていない。コンクリートとアスファルトに覆われ、雨水がしみ込む地面が無いのだ。残りは下水道にいく。下水道の容量を越える豪雨になれば、あっという間に下水は溢れ、マンホールが飛び、道路は川と化し、洪水に見舞われることになる。

1999年、都内で、130ミリを越える豪雨のため地下室に浸水、男性が死亡した事件は記憶に新しい。その一ヵ月前に同じ事件が福岡で起きたばかりだった。都市の脆弱な構造に加え、瞬時に激しい雨が降る熱帯的な降雨に、環境からの警告を読み取らずにはいられない。

では、どうすればいいのか。

ここに雨水博士の「革命的雨水プロジェクト」が始まった。発想の転換である。東京の年間降雨量は25億トン、一方、年間の水消費量は20億トンだ。降った雨を利用できれば、治水も利水も一石二鳥ではないか。さらに都市防災にも役立つとなれば、一石三鳥にもなる。

先ずは国技館への働きかけから始めたという。あの大屋根に降った雨を受けて溜めれば1000トン、トイレも冷房も賄える。交渉は難航したが、雨水博士の熱意が実った。設計変更、施工へ。これが雨水利用施設の第1号となった。次いで、隣接する江戸東京博物館、福岡ドームなど全国へと広がって、今では数千の施設が雨水利用を実現している。

ここで安心して止めてしまわないのが、博士の雨水博士たる所以だろう。今度は、大規模施設だけではなく、下町の木造住宅密集地域での街づくりに応用した。周囲に降った雨を集めて貯水し、手押しポンプで汲み上げる「路地尊」を作ったのだ。

この信念と実行力。ユーモア溢れる口調から覗く、不断の向上心。お話しをうかがっていてつくづく、一人でも世の中を変えることができるのだと実感した。
雨水博士の活動は留まるところを知らない。ボツワナへペルーへバングラへ。台湾では世界初の雨水利用動物園まで作ってしまった。

現在、安全な飲料水を確保できない人口は10億と言われる。8億は飢餓で死線を彷徨っている。そんな世界に向ける博士の視線の優しさが琴線に触れる。
講義をしめくくるメッセージは

No more tanks for war, tanks for peace!

だった。

(宮崎 緑)

Lecture 14  1月22日

1秒の世界から考えられるサステナビリティ・マネージメント

  • 山本良一(東大教授、東大国際産業共同研究センター)

【講義要約】
死刑台の階段を登りきり、首にロープをかけられたところで、「大変だ!」と気づいてももう遅い。地球環境は既に12段目くらいまで登ってしまっているのに、気づいていない人があまりにも多すぎる・・・・・

山本先生の嘆きである。先生は環境をテーマに研究を続ける学者の中でも、ひときわ強い危機意識をもっていることで知られている。世に警鐘を鳴らした高著『1秒の世界』で畳みかけられるデータは、例えば、1秒間に世界で2.4人人口が増え、クリーンランドの氷が1600トン融け、中国の砂漠が78m2拡大し、CO2 が762トン排出され、うち384トンが大気中に蓄積され、一方大気中のO2 は707トン減少する、といった具合で、これで危機感を抱かない方がおかしい。

では、持続可能な発展のためにどうしたらいいのか。

ここで、先生の論調は一気に格調高くなった。「無門関」の48則から趙州狗子を引き、有る無しの二元論を越えた「無」の概念を説く。禅問答から王陽明、はたまたテイヤール・ド・シャルダンと洋の東西をまたにかけて「悟り」について語られた。この土台の上に現実の社会が築かれるべきなのである。

脱物質化の障壁をエコデザインで乗り越え、ハイテクエコライフとスローエコライフを両輪とした社会を実現するための具体的施策について、講義はハイピッチで展開された。product sales からfunction salesへビジネスモデルを転換しなければならない。ワイツゼッカーのファクター4やシュミットブリークのファクター10などに象徴されるエネルギー利用効率や資源効率の改善を実現しなければならない。corporate だけでなくconsumerにも social responsibilityを求める2つのCSRの考え方が持続可能な発展の鍵を握る、等々。

環境立国へ向けて日本のとるべき戦略を、憲法改正まで視野に入れつつ、エネルギッシュに論を展開してくださり、あっという間に90分が経過した。実に密度の高い時間だった。
最後に学生に向けたメッセージとして矢が放たれた。「若者よ、もっと怒れ!」

そう、憤りこそ改革の原点なのだ。12段目で気づかせようとする先生の熱意がひしと伝わったのだった。

(宮崎 緑)
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