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 ロープワークとは,正に読んで字のごとく。ロープを利用した活動を指します。 たった一本のロープを自在に扱うことで,野外活動をとても快適なものにしたり, あるいは身に迫った危険に対し安全に回避する助けになったりする重要な手技です。
 したがって,ここで示されるロープの結び方を覚えただけでは,本来のロープ ワークを習得したとは言えません。これらの結び方には,それぞれに正しい場面 での使い方があります。結び方の強度や長所・短所についてしっかりと把握し, 間違った場面で使ったりすることがないようにしなければなりません。
 ここではロープの結び方だけではなく,使用する場面やその結び方のもつ欠点 や弱点などにも出来るだけ触れ,正にロープワークの習得に向けた内容となるよう 心掛けて行こうと思います。したがって,今まで実際に自分が使用し,経験的に得た ものについて,特に必修と呼ぶに相応しいと思われるロープワークに限定し,お伝 えしたいと思います。疑問点や間違いがありましたら,お便り下さい。

1.ロープの種類とその強度

 登山店等で陳列されているロープは,現在もっとも強度的に優れ,値段的にも求めやすいナイロン性の編みロープがほとんどです。かなり以前は,麻などの縒りロープもあったようですが,私はよく知りません。(^_^;
この編みロープはナイロン性の芯を,これまたナイロン性の編んだ外皮でくるんだもので径は,それこそ3mm〜12mm径程度まで種類も豊富です。もちろんその強度は,径の太さに左右されます。冬山登山やロッククライミン,今流行のフリークライミングなどでの使用を考えると9mm径以上から11.5mm径程度のものが強度的に必要です。一般的にロープの径が太くなればそれだけ,そのロープの伸張率は低くなります。これはどういう意味を持つかというと,例えば11mm径のロープに繋がれた人が墜落したときと,9mm径のロープに繋がれた人が墜落したときとでは,前者の方がロープの伸張率が低いため,ロープによる衝撃の吸収率が低くくなり,単純に制動せずに止めた場合には墜落者の身体やロープ自体にかかる瞬間の衝撃力は高くなります。
実際に一番ひどい墜落(落下係数2といい,登った距離の2倍の墜落距離が予想される状況)で,ロープに懸かる最悪で最大の衝撃は2トン程度です。実際には確保する人の身体や,確保器とか制動確保の操作,あるいは前述したロープ自体の伸張による吸収などで緩和されますので,理論的には9mm径以上のロープなら平気といえます。しかし,フリークライミングなどでは,9mm径は使用せず11mm径などを使用します。逆にアルパインクライミングでは,11mm径などは使わず9mm径のロープをダブルで使います。この使い分けはどうして生じるのかと言えば,9mm径のロープは伸張率が高く,墜落距離が11mm径のロープより長くなる点にあります。長大なルートを登る訳ではないフリークライミングにとって,ロープの伸張率はかえって命取りになりかねません。ロープによる衝撃吸収が少ないという代わりに,必要以上の距離の墜落を防ぐわけです。その点アルパインのルートは長大であるため,ロープの伸張率によって大きく命を左右するとは考えづらく,また墜落による衝撃を少なく抑えることは,その後の脱出も考えれば,逃げ場のない岩場ではとても重要なこととなるのです。ではここで,強度的には十分であるはずの9mm径のロープをなぜダブルで使用するのかということです。それは,別の理由があるのです。アルパインルートは,人工壁とは違い天然の岩で出来ています。これが理由です。フリークライミングと違い岩角でロープが擦れるおそれがアルパインの場合多いのです。ロープはその性質上おおよそ230度の熱で融解します(回りの外皮には傷がなくても,芯が融解してしまうこともあります)。この岩角の擦れに対する強度は,ロープの径に比例するのです。そのため,アルパインでは9mm径を2本使用することで,万が一,一本が切れてももう一本が残るということを考えているのです。衝撃吸収が高い9mm径ロープが背中合わせにもつ弱点をダブルロープという形で補っているわけです。
 以上,ロープの強度はその径の太さと,伸張率で決まるということがわかっていただけたでしょうか。全行程において,全くロープを使うのではなく,いざというときのために備えて持ち歩くのであれば,8mm径か9mm径の30m〜45m程度のロープで十分です。ちなみに私は,娘を連れていたり,歩き慣れていない人と一緒に登山するときなどは,どんなルートであれ8mm径×3.5m程のロープ(細引き)2〜3本と安全環付きカラビナ1枚,および平カラビナ3枚程は持ち歩いています。


2.ロープワークの実際

 さあ,いよいよロープの結び方からその使用方法について学んで行きます。
まずは,登山店等で仕入れてきたロープを使途に応じた長さで切ります。準備する径は,自分の体重や相応の衝撃を支えるのであれば最低8mm径以上を用意します。その他,アウトドア等でのキャンプサイトや生活レベルでの快適さを得るためのものであれば5〜6mm径を用意します。 使途に応じて切ったロープは断面がほぐれないように末端処理します。下のアニメーションを参考にして下さい。

 それでは,いよいよロープワークについて学んで行きましょう。


ブーリン

ボーライン,または,もやい結びとも呼ばれるロープワークの重鎮的存在です。(^_^/
素早く結べ,また強い荷重がかかった後でも簡単にほどけ,しかも正しい使い方をすれば墜落などの大きな負荷にも十分耐えられる結び方です。しかし大きな弱点があり,これで命を落としたクライマーも数多くいます。その弱点とは,しっかりと末端を処理しておかなければ,時間の経過の中で結び目がゆるみだし,不確定な方向への力が懸かったときに結びが反転し,いとも簡単にほどけてしまうという点です。これは,下の図で説明するように変形型ブーリンという末端処理を含めた結び方などで防げます。最近になってこのブーリンは,ループ部分に引っ張る荷重がかかると,結び目が反転しほどけてしまうケースがあることも分かっています。
クライマーはこの結び方をあまり好まず,あとで解説するエイトノットでの使用が主流になっています。ちなみに,すべてのロープワークに共通しますが,結びの端は少なくとも拳一つ分の長さは余すようにします。

フィッシャーマンズ・ノット

釣り人が2本のテグスを結ぶときに用いる結び方なので,この名前がついています。ロープワークにおいても同じで,径が同じ2本のロープをしっかりと連結するときに用います。私がこの結び方で注意するのは,結び目が斜め平行に同じ向きでかみ合うようにそれぞれのロープの巻き付け方向に注意を払うことです。必ず末端処理をしましょう。
2回巻き付けて結べばダブルフィッシャーマンズノットです。こちらの方が連結部分に対する信頼は大きいですが,結び目が大きくなる欠点があります。ただし,ダブルフィッシャーマンなら,末端処理は必要ありません。

シングルエイト・ノット

8の字を描くように結ぶことから,この名前は付いています。これも比較的強い荷重がかかった後でもほどけやすく,またブーリン結びより格段の差で結び目が緩みにくいことから利用価値も高いです。シングルの状態で利用されることはほとんどありません。

ダブルエイト・ノット

ダブルロープで出来上がったループにカラビナを通したり,または重い荷物を吊るすときなどに利用されます。絶大の信頼がおける結び方です。結び方を間違えない限り,緩んでほどけることはありません。ただし,ブーリンに比べると後でループの大きさを調整するのが面倒です。
現在岩登りやクライミングの世界では,ゼルプストバンド(ハーネス)とメインロープとを連結する際に一番利用されている結び方です。
ゼルプストバンドとはロープで身体を支える際に使う,履くタイプの安全ベルトのようなものです。

ハーフヒッチ

今まで上述してきたロープワークは,正に自分の命をロープ1本にあずけるような場面で使われる信頼度の高い結び方でしたが,このハーフヒッチは6mm径以下程度のロープでテントの張り綱をペグや,立ち木などに素早く結び付け,また自在に長さを調整したりするときに便利な結び方です。
したがって,信頼度の高さが問われるような場面での利用は出来ません。ツーハーフヒッチの方がはるかに連結部の強度は高く,かといって自在に長さを調整する手軽さも失われません。これは自在結びなどとも呼ばれ,知っていると大変便利な結び方です。

インク・ノット

これは,両端末のどちらか一方のみを引っ張っても決して緩んで抜けることがなく,また立ち木などにロープをピンと張った状態で確実に結びつけるときなどに便利な結び方です。図説の上が,カラビナなどのゲートが開くものに結ぶときの方法で,下が立ち木などにロープを張りっぱなしの状態で巻き付けながら結ぶ方法です。どちらの結び方も確実に覚えておきましょう。
とても単純な結び方ですが信頼度は大変高く,岩登りの世界でもゼルプストバンドから伸びたメインロープを岩の割れ目に打ち込まれたハーケンなどの支点に素早く結びつけ,狭い岩棚(テラス)などから不意に墜落することを防ぐときに用いられます。


ラインマンズ・ノット

これも大変便利で汎用性の高い結び方だと思います。キャンプサイトで2本の立ち木に架けたロープに,適当な間隔でこのループを作れば,物をぶら下げるのに便利だし,また両端から引っ張られても絶対にループが縮まらないこの結び方なら,複数で並んで危険な個所を通過するときなどに,お互いをロープでつなぎ中間者を確保するときなどにも信頼して利用できます。ダブルエイトノットと違いループの大きさの調整が簡単です。

現在のところここまでですが,これからももっともっと更新して行く予定です。
皆さんからのお便りをお待ちしています。
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