たばこ煙の成分
たばこの煙にはニコチン、種々の発がん物質・発がん促進物質、一酸化炭素、種々の線毛障害性物質、その他多種類の有害物質が含まれています。
喫煙により循環器系、呼吸器系などに対する急性影響がみられるほか、喫煙者では肺がんをはじめとする種々のがん、虚血性心疾患、慢牲気管支炎、肺気腫などの閉塞性肺疾患、胃・十二指腸潰瘍などの消化器疾患、その他種々の疾患のリスクが増大します。妊婦が喫煙した場合には低体重児、早産、妊娠合併症の率が高くなります。また、受動喫煙により肺がん、虚血性心疾患、呼吸器疾患などのリスクが高くなることも報告されています。低ニコチン・低タールたぱこの喫煙により健康影響はある程度軽減されますが、肺がん、虚血性心疾患などのリスクは非喫煙者に比べると依然高率です。
ニコチン
たばこ煙の粒子相に含まれる精神作用物質、「毒物及び劇物取締法」の毒物。
薬理作用により中枢神経系の興奮と抑制が生じ、心臓・血管系への急性影響をもたらします。体内に吸収されたニコチンは代謝されてコチニンを生じるほか、最強の発がん物質を生成します。たばこを反復使用すると生じる依存性は、ニコチンの精神及び身体依存によるものです。米国ではたばこは依存性薬物ニコチンの供給源であるとして、食品医薬品局(FDA)によりが、未成年に対する販売・広告を規制しています。タール
たばこ煙の粒子相の総称。
ニコチンや種々の発がん物質、発がん促進物質、その他の有害物質が含まれます。低タールたばこに用いられる有孔フィルターでは、主流煙中の有害物質は希釈されて減りますが、副流煙中ではかえって増加します。
一酸化炭素
気相に含まれる有毒物質。
赤血球のヘモグロビン(Hb)と強力に結びついて一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)を形成し、血液の酸素運搬機能を妨げます。血液中の一酸化炭素濃度と呼気中の一酸化炭素濃度はよく相関し、呼気中の一酸化炭素を簡便に測定する機器も開発されています。呼気中の一酸化炭素濃度(ppm)は、非喫煙者では1桁台ですが、喫煙者では数十ppmになります。
急性症状
喫煙による急性影響は次のような症状を表します。
呼吸器系:咳・痰などの呼吸器症状、呼吸機能障害(息切れなど)がん
循環器系:血圧上昇、心拍数増加、末梢血管収縮・循環障害(手足・足先のしびれ感・ 冷感、肩こり、首のこり、まぶたの腫れなどの症状)
消化器系:食欲低下、口臭、その他の消化器症状
中枢神経・感覚器系:知的活動能低下、睡眠(就眠)障害
全身症状:健康水準の低下、体重減少
喫煙は単独で、がんの原因の約30%を占めます。
呼吸器系(肺がん、喉頭がん、口腔・咽頭がん)、消化器系(食道がん、胃がん、肝臓がん、膵臓がん)、泌尿器系(腎盂がん、尿管がん、膀胱がん)、子宮頸部のがんなど、喫煙により全身の多くのがんにかかる危険性が高まります。肺がん、食道がん、肝臓がん、膵臓がんなどは極めて治りにくい難治性のがんですが、最近、罹患・死亡とも増加しています。1人の人がこれらの喫煙と関連したがんの複数にかかる「多重がん」も増えています。
男性 | 女性 |
喉頭がん 32.5 | 喉頭がん 3.29 |
肺がん 4.45 | 肺がん 2.34 |
咽頭がん 3.29 | 膀胱がん 2.29 |
口腔がん 2.85 | 甲状腺がん 1.85 |
食道がん 2.24 | 食道がん 1.75 |
全部位のがん 1.65 | 肝臓がん 1.65 |
WHO推計値
WHOなどの最近の試算によると、1995(平成7)年には全世界で3,125,000人がたばこが原因で死亡していることになります.
日本でたばこが原因とされる死亡数は、1995年には95,000人(男性76,000人、女性19,000人)です。20年で約2倍に増加し、この傾向はさらに続くことが予想されています。たばこ関連疾患の多くは、喫煙を開始してから20-30年かかって発症し死に至るので、現在の死亡の状況は過去の喫煙の状況を反映していることになります。
主流煙と副流煙
たばこの煙は、喫煙時にたばこ自体やフィルターを通過して口腔内に達する「主流煙」と、これが吐き出された「呼出煙」、及び点火部から立ち昇る「副流煙」に分けられます。
いずれもエアロゾル(液滴)の形状をなす「粒子相」と気体からなる「気相」に分けられます。各種有害物質の発生は主流煙より副流煙の方が多く、主流煙は酸性ですが、副流煙はアルカリ性で、目や鼻の粘膜を刺激します。
>紙巻たばこ煙有害物質の主流煙と副流煙中の含有量<
主流煙(MS) | 副流煙(SS) | SS/MS比 | |
●発がん物質(ng/本) | |||
ベンゾ(a)ピレン | 20-40 | 68-136 | 3.4 |
ジメチルニトロソアミン | 5.7-43 | 680-823 | 19-129 |
メチルエチルニトロソアミン | 0.4-5.9 | 9.4-30 | 5-25 |
ジエチルニトロソアミン | 1.3-3.8 | 8.2-73 | 2-56 |
N-ニトロソノルニコチン | 100-550 | 500-2750 | 5 |
4-(N-メチル-N-ニトロソアミノ)-
1-(3-ピリジル)-1-ブタノン |
80-220 | 800-2200 | 10 |
ニトロソピロリジン | 5.1-22 | 204-387 | 9-76 |
キノリン | 1700 | 18000 | 11 |
メチルキノリン類 | 700 | 8000 | 11 |
ヒドラジン | 32 | 96 | 3 |
2-ナフチルアミン | 1.7 | 67 | 39 |
4-アミノビフェニール | 4.6 | 140 | 30 |
O-トルイジン | 160 | 3000 | 19 |
●その他の有害物質(mg/本) | |||
タール(総称として) | 10.2 | 34.5 | 3.4 |
ニコチン | 0.46 | 1.27 | 2.8 |
アンモニア | 0.16 | 7.4 | 46 |
一酸化炭素 | 31.4 | 148 | 4.7 |
二酸化炭素 | 63.5 | 79.5 | 1.3 |
窒素酸化物 | 0.014 | 0.051 | 3.6 |
フェノール類 | 0.228 | 0.603 | 2.6 |
環境中たばこ煙(ETS, Envoronmental Tobacco Smoke)
室内において喫煙者の吐き出す呼出煙とたばこの点火部から立ち上る副流煙が混じり合った総称で、室内空気汚染物質の主たるものです。
国際がん研究機構(IARC)や米国環境保護局(EPA)は、ETSをヒト発がん物質に分類しています。環境中たばこ煙が非喫煙者の肺がんの原因になることは、1981(昭和56)年に疫学的に初めて証明されましたが、EPAはそれ以降の多くの疫学研究を体系的に評価して、「受動喫煙の呼吸器系への影響:肺がんとその他の疾患」という報告書を発表しました。急性影響
受動喫煙による急性影響は、環境中たばこ煙の粘膜への直接刺激と肺から吸収された煙によるものがあります。
眼症状:かゆみ、痛み、涙、瞬目肺がん
鼻症状:くしゃみ、鼻閉、かゆみ、鼻汁
その他:頭痛、咳、喘鳴、呼吸抑制、指先の血管収縮、心拍増加、皮膚温低下これらの症状や反応は、環境中たばこ煙を構成する副流煙が、各種成分の濃度が高く、アルカリ性のためニコチンが強く作用することによります。常習喫煙者より非喫煙者の方が、反応が強いことも確かめられています。これらの症状に加え、たばこ特有のにおいも協同して、他人のたばこの煙に対する不快感、迷惑感の原因となります。
受動喫煙の慢性影響として特に肺がんについて、平山の研究を初め多くの研究が発表されています。喫煙男性の妻の肺がん死亡率は、非喫煙男性の妻より明らかに高く、夫の喫煙量とともに高くなることが知られました。複数の疫学研究をまとめて検討した結果、夫の喫煙による非喫煙配偶者の肺がんの相対危険度は1.3〜1.5とされました。受動喫煙の方が推定タール曝露量の割に危険性が高いことから、能動喫煙と受動喫煙とでは、たばこ煙の有害成分が異なり作用様式も異なる可能性があります。その他のがん、循環器疾患副鼻腔がんについても、夫の喫煙により非喫煙配偶者の死亡率が喫煙本数により、増加することが見いだされています。その他、非喫煙者において、受動喫煙が虚血性心疾患や脳虚血の発作も危険性を高めることが分かってきました。
LD50
ラットやマウスなどに経口的に投与して48時間以内に試験動物の50%が死んだときの最小投薬量を体重のkg当たりで算出したもの
50mg/kg 毒物 (例)ニコチン(50 mg/kg )、青酸(2.5 mg/kg)
5〜10g/kg 毒性が少ない
10g/kg以上 無毒性許容1日摂取量(ADI)
解剖学的にも組織学的にも試験動物マウスがなんら中毒を起こさない摂取薬品の最大量の1/100〜1/300の量、または人体実験の結果から得られるその量の1/10の量
アルコール(エタノール)のLD50
LD50 =13.7g/kg
50kgの人では685gアルコールを一気に飲むと半数は死亡する。
・ビールのアルコール量は5%程度、従って13l飲めば半数は死亡する。→一度にバケツ1杯を飲む人はいない→ビールを飲んでも死なない?→1/10の量(1.3リットル=大瓶2本)でも誰かは死亡する。
→1/100の量(130リットル=コップ1杯)でも死ぬ可能性は皆無ではない。
・ワインでは一本、日本酒では4〜5合を一度に飲めば誰か死ぬ。