講習会「中小企業等に対する支援策ー補助金の有効活用を中心にー」(7/20)開催報告

お知らせ

2019年9月4日

経済研究所中小企業研究・支援機構では、7月20日に、中小企業者、中小企業診断士など中小企業経営や支援事業に携わる方々などを対象に、中小企業等に対する支援策の一環として、国の補助金の有効活用などに関する講習会を千葉商大で開催しました。当日は中小企業診断士などの中小企業支援者や中小企業者など、約40名の参加があり、盛会となりました。

1.第一部 重点政策報告
本講習会では、第一部で関東経済産業局の近藤かおる産業振興課長が「これからの中小企業政策」と題した報告を行いました。

近藤課長は、最初に、中小企業・小規模事業者が直面する課題について概観されました。その後、現在、国が重点を置いている中小企業・小規模事業者に対する政策について、各種補助金制度の内容を交えながら詳しく説明されました。この内容は、事業承継支援、創業支援、生産性向上、防災・減災対策、消費税・軽減税率対策、働き方改革に関連する取り組みなど、広範な領域に及ぶものでありました。特に、本年度の中心施策である生産性向上のための設備投資等の各種補助金制度の目的・条件(補助対象、補助上限額など)とその活用事例について、具体的に丁寧に説明されました。なお、創業支援の中で、関東経済産業局の創業促進フォーラムに2018にパネラーで参加した本学のキッズビジネスタウン®いちかわの取り組みも紹介されました。

同課長は、最後に中小企業が100年企業として生き残るための鍵として、(1)人口減少社会に対応した生産性向上対応とそのための補助金の有効活用、(2)防災・減災対策としてのリスク管理・BCP(事業継続計画)策定の重要性、(3)生産管理などにより業務効率化を図ること、(4)EV(電気自動車)を始めとした電子化の進展など産業構造の劇的な変化に対応して自社製品に多様性を持つこと、(5)信頼される企業になることの重要性を指摘されました。

補助金の有効活用を始めとした事例を交えた直近の重点施策の内容が、中小企業の経営や支援に大変参考になるものでありました。

2.第二部 事例報告
続いて、事例報告として、秩父電子株式会社の強谷隆彦社長が「ものづくり企業における経営革新」と題して報告されました。1967年秩父電子株式会社として、シリコン整流素子の製造販売を開始しました(現在は行っていない)。その後、1977年にフォトマスク用基板研磨加工開始以降、各種半導体素材の研磨加工を中心とした「平面の極限を追求する半導体素材研磨加工の匠集団社」としての技術を核に、多角化・新事業の立ち上げを図りながら成長を続けてきました。2018年12月25日に経済産業省より「地域未来牽引企業」に選定されるなど、地域中核企業として地域全体の活性化にも大きく貢献しています。

同社の社訓は、「顧客第一、人材育成、技術の練磨」ですが、これを基に巧みに営業戦略を作成し実行されています。まず、顧客第一は顧客満足度の最大化と捉え、定形的な営業ではない、差別化のための営業活動を重視しています。具体的には、技術力・生産力・情報力によって、顧客の悩み、希望に対する問題解決の提案が真の差別化につながるものと重視されています。次に、技術の練磨に関しては、営業を通した顧客情報を、技術戦略の構築、現状の技術力アップの支援に役立てています。「自力では限界があるので、ある意味では、顧客に育てられるのが製造業である」との説明は、他の中小製造業にも示唆に富みます。

同社の特徴は、上記の巧みな営業戦略を基にして、果敢に持続的に実行されてきた多角化戦略(新規事業の立ち上げ)にあります。縦軸に技術開発の困難度、横軸に市場開拓の困難度を取り、4象限の中で多角化のポートフォリオを意識しながら新規事業を立ち上げてきました。その結果を、「8勝3敗1引き分け」と表現されました。さらに、失敗した事業の考察として、「後発で価格競争に巻き込まれた事業は概ね上手くいかない」、「自社の自助努力での技術開発の余地のない事業は継続が難しい」、「成長の方向性を見誤ると競合相手の後塵を拝し上手くいかない」と説明されましたが、何れも経験に基づく含蓄のある内容です。EVやハイブリッド車の成長分野向けの半導体新素材の研磨技術開発に9年がかりで取り組み、赤字から黒字化を成し遂げた忍耐強い取り組みにも先見性の確かさが感じられました。中小企業にとってリスクの高い多角化に挑む理由を、「半導体素材関係は技術革新が激しい分野であり、時間の経過とともに技術が陳腐化して価格競争に巻き込まれます。企業として生き延びるためには、新事業の立ち上げは必須である」と説明されました。その一方で、「伸るか反るかの勝負はしない」というように、同社の多角化は前述の確かな戦略と先見性に基づいています。さらに、リスクの軽減策として参考になるのが、国のものづくり補助金、サポイン関係の補助金、県の補助金など、施策を十二分に活用してきていることであります。

また、地域中核企業として、地域の中小企業の育成や地域活性化への多大な貢献も、同社の特徴を成します。会長を務める秩父機械電気工業会では、会員への各種補助金・助成制度の活用支援により、高い採択率を確保しています。さらに、秩父市や同業界のみならず、広域秩父産業連携フォーラムの広域かつあらゆる業種横断で、個々の中小企業の経営力強化活動を推進しています。秩父ビジネススクールや出前コンサルティング(経営革新計画や補助金の取得支援等)などの斬新な取り組みを通じ、地域の若手中小企業経営者の育成に多大な貢献をしています。

同社の取り組みは、他の中小企業の経営や支援に大変参考になる有意義なものでありました。

3.講習会参加の方々からのご感想・ご要望
本講習会の参加者のアンケートにおいては、「第一部では、中小企業の現状、各種補助金全体のお話を聞けて良かった。第二部では、経営手法に感銘を受けました」を一例として、全般的に満足度の高い感想が寄せられました。
さらに、アンケートでは、海外進出、IT導入事例、農業の6次産業化、創業支援など、講習会のテーマに関する要望の記載もありましたので、今後の機構活動の参考にしてまいります。

千葉商科大学商経学部准教授 経済研究所中小企業研究・支援機構長 鈴木直志

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