RSS中小企業支援研究創刊号
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8中小企業支援研究2.アベノミクスにはどのような効果が あるか(1)「量的・質的金融緩和」の効果量的・質的金融緩和政策は、①長めの金利や資産価格のプレミアムへの働きかけ、②ポートフォリオ・リバランス効果(リスク運用資産や貸出の増加)を狙ったものである。この政策は、将来の経済に対する人々の期待を重視し、これをふくらませることに努めようとするものである。日本銀行が金融機関から多額の国債を買うなどしてお金を大量に市場に散布すれば、物価が上昇して、売上高が増加すると人々が予想するようになり、この結果、経済活動が活発化するとされている。アベノミクスでは、人々の心理状態に働きかけて、生産を拡大しようという、「良い意味での物価上昇」に期待している。日本銀行は、民間銀行への資金供給の増加が貸出の増大、生産の拡大につながるということも期待している。(2)「機動的財政政策」の効果道路建設等の公共事業に対する財政支出は、土木・建設業界や鉄・セメント等の素材産業に対する有効需要を増大させて、内需拡大に一定の役割を果たす。(3)「成長戦略」の効果安倍内閣は、このような短期的な金融財政上の資金散布に止まらず、経済構造改革などの長期的な政策によって日本産業を再興させ、新たな成長分野を切り開き、日本経済の国際的な展開をも図ろうとしている。アベノミクスは、このような3つの方策のもたらす経済的な効果を通じて、1990年代末から続いてきた日本のデフレ状態からの脱却を図り、日本経済を再興させようとするものである。3.アベノミクスにはどのような反対意 見があるかこのようなアベノミクスに対しては以下のような批判もある。(1)ベースマネー(現金+日銀当座預金)の増加は物価上昇や景気と結びつかない日本銀行が国債を金融機関から買うなどして民間銀行の日本銀行当座預金残高を増加させたとしても、ベースマネーの増加が物価上昇を意味するインフレとは必ずしも結びつかない。このことは1980年代以降の統計的事実から明らかである。日本銀行の国債買入代金が日本銀行に当座預金として滞留する(0.1%の利子付)。日銀当座預金は100兆円に達する。 1990年代末以降、賃金水準の低迷が生じており、人々の商品に対する需要が増える見通しが立たず、日銀が貨幣供給の増大を図っても企業の投資は増大しない。したがって銀行貸出が増加しない。だから日銀が供給した通貨が市場に出回ることにはならず、物価上昇が容易に生じない。ベースマネーの増加が物価を直ちに引き上げると見るのは、貨幣数量説的誤りである。2%の物価上昇のためには、実需の回復が必要である。内需が制限されたもとでのベースマネーの増加は、実体経済の好転に直結しない。金融緩和政策が、内需の拡大を直ちにもたらすわけではない。日本銀行の異次元的金融緩和は為替相場や株式資産などに「心理的効果」を及ぼすかもしれないが、それが実質的な「経済的効果」を及ぼすとは限らないのである。 また、賃金水準が低迷しているときに物価が上昇すれば、人々の生活がかえって苦しくなるという、「悪いインフレ」が起こるということになる。(2)1990年代末以降のデフレの原因は通貨膨張抑制ではなく賃金の低下による消費減退である1990年代、ことに1990年代末に企業がリストラを進め、賃金コストを切り下げた。正社員の新規採用を抑制し、賃金の安い非正規雇用への依存を増大させた。1990年代末以降デフレが本格化した。この両者には因果関係がある。その後、企業の内部留保が増大する一方で、賃金コストは減少傾向をたどり、消費が落ち込んだ。物価低落は日本銀行の通貨供給の不足によるものではなく、消費限界、需要と供給のギャップによるものである。日本のデフレの責任を日本銀行に負わせることは正しくない。異次元金融緩和はデフレに対する根本策とはならない。賃金の引き上げこそがその対策となる。(3)財政信認・国債信用、日銀券信認の低下を招く日本銀行が無原則に国債を買い入れていけば、国債膨張に歯止めがかからなくなり、財政が破たんする。日銀の無制限的国債買い入れは、「金融政策」では

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