RSS中小企業支援研究創刊号
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10中小企業支援研究経済がよくなるのではないかという雰囲気から、設備投資増大の兆しも若干みられるようになってきている。期待に働きかけるという意味ではアベノミクスはある程度成功したといえる。しかし、株式価格の上昇は主として海外投資家の日本株への投資によって支えられたものである。しかもそれは3本の矢に対する期待に支えられたものである。成長戦略がうまくいかないと海外投資家が判断すれば、海外投資家の売りによって株価は反転する可能性がある。また、株価の上昇が実態経済の回復と結びついていたとはいえない。実際今年に入って、株価低落という現象も生じている。日経平均株価は、2014年2月はじめには2013年末と比べて2200円(約14%)を超す急落となった。株価の先行きは不透明である。円安についてもアベノミクスのみによるものであるとは必ずしもいえない。これはアベノミクスが採用される前から始まっていた貿易収支の赤字、国際収支の悪化によるところが大きいのではないか。貿易収支は3年連続で赤字となり、2013年にはこの赤字は前年よりも4.8兆円も膨らみ、これを反映して経常収支黒字が2013年には前年よりも約3割減少しているのである。2013年には経常収支黒字は1985年以来最小の3.3兆円となっている。円安が急速に進んでも、輸出数量はあまり増えていない。この一因は、生産拠点の海外シフトの進展である。また、円安は輸入に関係した業者に打撃を与えている。円安による輸入原材料やエネルギー資源の価格の上昇は、国民生活を圧迫する作用を果たしている。今後の円相場の先行きは見えにくい。異次元的金融緩和政策は、金利の低下による設備投資の増大を期待していたが、2013年5~6月には、予想に反して長期金利が上昇する結果が生じた(第2表参照)。今後このようなことが起こらないとはいえないということも指摘しておきたい。(2)国内設備投資の増大に限界があり、賃金の引き上げが立ち遅れている設備投資増大の兆しがあり、これはアベノミクスによるものといわれているが、これにも疑問がある。アベノミクスの登場と景気回復の時期が重なったことは、両者の因果関係を必ずしも示すものではない。アベノミクスに景気回復効果がまったくなかったわけではなかろう。だがアベノミクスの恩恵は大企業に偏り、中小企業には広がっていない。本格的な国内投資や賃金の上昇はまだあらわれていない。景気回復の兆しが見えてきたという指摘もあるが、2013年7~12月の実質成長率は、前期比年率で1%程度にとどまった。アメリカの金融緩和是正などの影響を受ける新興国経済の不安定性が、日本経済に悪影響を及ぼす可能性もある。賃金の引き上げ、国民の所得の増大がデフレ対策として有効である。これは内需の増大、またこれを通じた設備投資の増大に寄与する。アベノミクスが設備投資の増大と賃金の本格的上昇をもたらしたとき、それは成功したといえる。安倍首相も賃金引き上げを企業に求めるようになっている。しかし、企業の含み益が膨大な規模に達しているものの、これが賃金の引き上げに還元しようとする動きはまだ乏しい。景気が回復してきたといわれるようになってきたものの、その実感は国民にはまだあまりない。一部の企業にはベース・アップ以外(一時金)の給与の引き上げの動きがある。ごく一部の大企業が賃金を引き上げたとしても、それが下請企業の賃金引き下げにシワ寄せされる恐れもある。相対的に収入の低い非正規社員の比率は、2013年には過去最高の36%に達している。日本企業が国際競争にさらされていること、海外現地生産が増大していること、赤字企業が数多く存在していること、いったん賃金を引き上げるとそれを後で引き下げるのが困難であるということを企業は危惧するということなどを考慮すると、生産性の向上と消費需要の増大の定着、労働者の不足という事態が生じなければ、企業は容易に賃金を引き上げようとはしないように思われる。(3)主役はモノづくりを行う中小企業であり、金融機関はコンサルタント機能を発揮すべきである金融緩和政策、日銀の成長融資だけでは経済はよくならない。金融機関には経済の成長を促進する資金の供給を行うという役割がある。しかし、金融機関は経済の主役ではなく、本来はそれを支えるものといえる。経済の主役は、あくまでもモノづくりを行う企業である。この企業に関係する従業員の雇用

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