RSS中小企業支援研究創刊号
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アベノミクスの経済効果齊藤:今回の座談会は、中小企業・研究支援機構の主催で行うこととなりました。今回の座談会の題目は、「中小企業問題と成長戦略」ということにさせていただきます。特に、アベノミクス政策により、日本経済は大きく変化していますので、それとの関連で、中小企業の抱えるその問題点や課題、それに対する対策について議論していただければと考えております。なお、アベノミクスそのものにつきましては本誌に掲載されます私の評論で述べさせていただきました。本日は、伊藤先生のご紹介で今回のテーマに関し精通されている皆さんに来ていただきました。伊藤:今回の座談会では、日本中小企業学会役員を経験されており、中小企業論とアベノミクス政策について詳しい方々を人選いたしました。アベノミクスについては、簡単にはなくならない、長期的に考えても検討が必要なテーマと考えておりますので、忌憚なき発言をお願いいたします。では、港先生からよろしくお願いいたします。港:アベノミクスは、少なくとも株価においては大きな効果をもたらしたと思います。株式の時価総額は2013年1年間で160兆円増加したのです。資産として株式を保有している富裕層はこれによって多額のキャピタル・ゲインを得ました。こうした富裕層が高級品を中心に購買を増やしたことが、景気回復の主要な原動力となっています。 アベノミクスの第一の矢は、異次元の金融緩和ということで、2年でマネタリーベースを2倍にして、物価上昇率を2%に誘導するというものです。マネタリーベースを2倍にすることは、日銀総裁の裁量によって実現可能ですが、2%のインフレターゲットを実現することには、大きな不確実性があります。 また、問題は、本当に2%インフレが実現すれば、当然、長期金利は上昇してしまい、既発債価格が下がることです。現在、全銀行の平均預貸率は60%ですが、信用金庫では50%を下回っています。とりわけ、地方の信用金庫は貸出不振で、預貸率が30%以下になっているものもあります。銀行はその余資の殆どを国債購入にあてていますので、もし、既発債価格が10%でも下がれば、再び金融危機に陥る恐れがあります。したがって、日銀は物価上昇率を2%に誘導することには、慎重にならざるを得ません。市場の大方はインフレは1%程度と見込んでいるようです。 次に私が一番アベノミクスで評価しているのは、安倍首相のコミュニケーション能力の高さです。非常に明快なメッセージを発し、効果が出ていると思います。 2番目の効果は、円高是正です。ただし、私はアベノミクスだけで円高が是正されたとは思っておりません。今までは円安誘導に、アメリカ政府が反対をしてきた。今は、暗黙の了承をしていると思います。これは、日本の経済的プレゼンス低下によって、東アジアの政治経済パワーバランスが変化し、韓国は中国経済に大きく依存し中国の影響力増大を懸念した米国政府の意向を反映し、円安が容認されたのだと思います。 また、2013年3月で中小企業金融円滑化法が廃止されました。マスコミは、倒産件数が増えるのではないかと報道していましたが、現実には倒産が減り前年比マイナスで推移しています。 中小企業金融円滑化法は、アベノミクスにとっていわばパッケージのようなものであって、その政策の骨子は、金融検査マニュアルの不良債権区分の変更です。つまり、貸出条件を変更した融資先であっても、経営再建計画を作るか作る予定がある場合は不良債権に区分されなくなったのです。したがって、融資が停滞している銀行は、そうした融資先でも貸し出しを維持していた方がいいということで落ち着いているのです。黒瀬:アベノミクスによって景気が回復しているとSPECIALISSUE22013年9月10日午後2時から5時まで千葉商科大学経済研究所で開催された座談会の記録に一部加筆【座談会】中小企業と成長戦略〜アベノミクスとの関連で〜12中小企業支援研究

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