RSS中小企業支援研究創刊号
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いわれていますが、それは「空景気」にすぎないように思います。「国内投資の増加→所得上昇→消費支出増加」の動きは弱いからです。 確かに円安と株高効果はありました。しかし実態経済への効果は限定的でした。2013年4-6月の設備投資は建設業、不動産業、小売業は上がりましたが、肝心の製造業では、大手の自動車しか伸びていない。円安は自動車会社に膨大な為替差益をもたらしたけれども、一般の中小企業は、原料高による収益減に直面しました。 7月の実質消費支出は確かに前年度比で増加しました。現金給与総額が上がったことが背景にあると思います。しかし、中身を精査すると、残業代とボーナスが増えただけです。基本給は下がり続けています。特に中小企業が問題です。連合によると2011年の中小企業の35歳・高卒労働者の賃金は、90年代後半より、約11%も減り、大手の5%減少を大きく上まわりました。中小企業では定期昇給さえ維持できなかったからです。したがって、所得格差是正のためにも、消費支出増加のためにも中小企業労働者のベースアップが必要ですが、2013年の春闘では、ベースアップを勝ち取った中小企業はほんのわずかでした。 消費支出が増えた原因として7月の失業率減も関係していると思いますが、女性の失業率が減っているだけで、男性の失業率は増えている。ですから消費増も部分的といわざるを得ない。輸出指数も良くなっていますが、アメリカの景気回復に依存した受け身型の輸出増ですので、これはいつまで続くかわからない。したがって、中小企業に対する影響も限定的になると考えます。 ところが、2013年12月の日銀短観によると、中小企業の景況が製造業は07年12月以来6年ぶり、非製造業が1992年以来約22年ぶりにプラスに転じ、マスコミは中小企業にも景気回復が及んだと喧伝しています。日銀短観だけでなく、中小企業家同友会の景況調査(DOR)も、2013年10~12月期中小企業の売り上げが大きく好転したと伝えています。 しかし、同友会調査を精査するととても楽観できない。問題が4つあります。 第1に、同友会調査を業種別に見ると、建設業の売上高増加企業の割合が突出しており、これが中小企業全体を引き上げている。なぜ建設業が突出しているのか。公共事業の大盤振る舞いと消費税増税前の住宅建設の駆け込み需要のためで、決して経済の自立的拡大のためではありません。 第2に、採算は売上ほどには改善しておらず、「採算が増加した企業割合-採算が減少した企業割合」=5.5%ポイントで、「売上増加企業の割合-売上減少企業の割合」=18.7%ポイントとはだいぶ差がある。特に内需型の流通・商業では「採算が増加した企業割合-採算が減少した企業割合」=-1.4%ポイントと採算減少企業の方が多く、製造業も同4.7%ポイントと低いことが注目されます。 なぜ採算の改善度が弱いのか。相対価格(アウトプット価格/インプット価格)の低下に陥っているためです。 商業では富裕層向けには高額商品が売れているが、一般の人の賃金は上がっておらず、パートを含む労働者の基本給にあたる「所定内給与」は2013年10月まで17か月連続前年同月を下回っている(12月日銀短観)。したがって、売り上げ増も大したことはなく、客単価の上がり方は鈍い。ある和装品・服飾品卸小売業者(北海道)は「4月の消費増税を前に、一般消費は萎縮しています」といっている。消費税増税前の駆け込み需要も、実は余裕のある人たちの話で、所得が減少しているため増税に備えて支出を切り詰める人たちがすでに出ています。また、製造業では販売単価の上がり方が鈍いどころか下がったという中小企業の方が相変わらず多い。中小企業相互間の競争は依然激しく、大企業の参入もある。しかも取引相手の大企業からの値下げ圧力も相変わらずです。 その一方、すべての業種に対し円安により、製品仕入れ価格、原材料価格、建設コスト、電気代といったインプット価格の上昇が襲いかかっている。 製造業では次のような声が聞かれます。水産加工業(北海道)「輸入原料の値上げによる製品価格の値上げが見込めない」、家具製造業(北海道)「円安により輸入資材が高騰し、経営努力も限界に」。精密板金加工・電気制御業(長野)「仕事が出そうで出ない状況が続いている。日本国内の仕事の絶対量が減少しているように思える。小さな仕事にも大手が手を出し始めている」。 第3は、経済の自立的拡大に必要な設備投資や賃金上昇の動きが中小企業ではきわめて弱いことです。 同友会調査によると設備投資をしている中小企業の割合は増えたが、手持ち資金の範囲内の修理や更新投資が多く、長期借入金は減少を続けている。「できるだけ借入れをしないで毎月の返済金を少なくする」(精密板金加工業、神奈川)というのが大勢です。13中小企業支援研究 Vol.1

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